第9話 水の都アクセリス
「おおー! すっごくきれー」
「メロ、あんまり走り回ると危な――ってああ、言わんこっちゃない」
ラザニア村を出発した俺たちは、3日をかけて『水の都アクセリス』に到着していた。
到着早々、メロが手を広げパタパタと道を駆けていたが、道脇の水路へ落っこちそうになっている。
今度は足を止めて辺りをキョロキョロと見渡すメロ。
新しい場所に興味津々のご様子だ。
(前に来た時は夜遅くだったっけ。こうして昼の晴れた時に来てみると街並みがすごいな。まさに異世界って感じだ)
メロが迷子にならないよう警戒しつつ、俺は改めて水の都アクセリスを見渡した。
俺たちのいる所からは綺麗に整備された石畳の通りが伸びている。街灯もオシャレだ。
両脇を道で挟まれるようにして太めの水路が流れており、その水路の上を小型の舟が走っていた。
……とまあ、ここまでなら俺の元いた世界でもあるにはあった。
動画なんかでも見かける、海外の異国情緒な街並みというやつだ。
しかし、街の中央広場に出るとこれぞファンタジーという光景が飛び込んでくる。
「あるじあるじ! 広場のまわりに水がたくさん! 横も上も水でおおわれてる!」
「ああ。水のドームって感じだな。こりゃすごい」
そう。中央広場は水で球体状に覆われていたのだ。
ガラス張りしているわけでもないのになんとも不思議だが、魔法の力でそうなっているのだという。
「あるじ、すごいすごい! やっぱりお魚たくさん! つまりごちそうがたくさん!」
「あれは……食えるのか?」
メロも喜びを爆発させていて何よりだ。
せっかくなのでと俺たちは中央広場で簡単な食事をとった。
洋風な感じのカフェに入ると魚料理もあったので注文してみることに。
店員さんにメロが聞いてみたが、広場を泳いでいる魚は観賞用との答えが返ってきて、メロはしょんぼりとうなだれる。
食事の後は、ひとしきり街の景色を満喫し終えてから宿の方に向かうことにした。
俺は歩きながら、ラザニア村の村長さんから貰った『水神亭』の宿泊券を取り出す。
「そんちょーさんがくれた宿に行くの?」
「宿をくれたわけじゃないけどな」
「今度こそお魚の料理たくさん食べられる?」
「いや、さっき食べたばかりじゃないか」
「ちっちっち。あんな程度じゃ全然足らないよあるじ」
「メロはそうかもな……。まあでも、期待してていいと思うぞ。なんたってこの街でも一番の高級宿だ。普通じゃ食べられない魚料理なんかも出てくるかもしれない」
「それはさいこー。メロ、今からワクワク」
確か、以前勇者として旅してた時はどこぞの国のお偉いさんが泊まってるって聞いたっけ。
普通に泊まろうとしても予約で一杯だと聞くし、ほんとこれをくれた村長さんには感謝だな。
中央広場から10分ほど歩き、まもなく水神亭の外観が見えてくるという位置まで来た。
(さて、どんな感じのお宿かな?)
隣を歩くメロも嬉しそうに尻尾を振っていて、俺もまた自然と期待感が高まってくる。
そうして目的の場所に近づくと、俺とメロの前に姿を見せたのは水の神殿だった――。
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