第7話 狩猟祭がある村


「さんだいとし?」

「そう、3大都市。当面の目標として、まずはそれらを巡ってみようかと」


 ロズオーリ湖の湖畔で一夜を明かした翌日。


 俺とメロは地図を広げならが山道を下り、次なる目的地について話し合っていた。


 俺たちがいるルシアーナ大陸には3つの巨大都市が存在している。


 ――街の至るところに水路が引かれ景勝地としても知られる『水の都アクセリス』。

 ――様々な地方の名産品が並び、行商の中心地とされる『商業都市ガザド』

 ――そしてルシアーナ大陸で最大の人口数を誇り、俺の転生後の開始地点でもあった『王都ヴァイゼル』。


 これらは総称して3大都市と呼ばれていた。


「もちろんそれ以外にも巡りたいところはあるけど、まずは人の多い所に行くのが良いかなって。そうすれば他の旅人や冒険者から色々と情報も聞けるだろうし、観光の穴場なんかも見つかりやすいと思ってな」

「あるじ、ないすあいであ。メロもおっきい街に行ってみたい」

「それは良かった。特に王都ヴァイゼルは大きいからな。期待してて良いと思うぞ」

「王都って、確かメロとあるじが初めて会った場所の近くだよね?」

「……ああ、そうだな」


 俺が答えると、メロはどこかしんみりとした顔をして尻尾を振っている。

 きっと俺と会った時のことを思い出しているのだろう。


「王都には世話になった人が大勢いるからな。王都に行ったら、色んな人たちに直接お礼を言いたい。王様やその家来の人もそうだし、それから……」


 俺はそこまで言って、一人の少女のことを思い浮かべる。


(――そういえば、あの子は元気にしているだろうか?)


 魔王討伐の旅に出る際、王都で俺の出発を見送ってくれた少女がいた。


 その少女は特殊な力を持っていて、魔王討伐の旅に同行したいとまで言い出して……。


(結局断ったけど、俺が無事でいられたのはあの子のおかげだからな。ちゃんと直接会ってお礼を言いたいな……)


「あるじ……?」

「ああいや、何でもないよ」


 メロが怪訝けげんな顔で覗き込んできて、俺は笑顔で返す。


 いずれにせよここから王都ヴァイゼルまではかなりの距離がある。

 訪れるとしても各都市を巡ったあとになるだろうなと、俺はメロの頭に手を乗せ、改めて広げた地図に目を落とした。


 そして俺は次の目的地の地名を指差してメロに伝える。


「よし。ここから近い都市は……『水の都アクセリス』だな。まずはここを目指してみようか」


 今いる北西地点から少し南下した位置にある、水の都アクセリス。


 徒歩で行くには少し日数もかかりそうだが、別に急ぐ旅でもない。

 他の場所にも寄りながらのんびりと目指すのが良いだろう。


「水の都、ってどんな場所なの? みんな水の中にいるとか?」

「そんな人魚じゃあるまいし……。俺が前に行った時はとにかく綺麗な街だったな。街の中に川が流れてるっていうか」

「川? それなら、お魚とかたくさん?」

「いや、そういう川じゃないけどな。でも魚は……どうだったかな。俺もほとんど滞在してなかったし」

「……あるじ、場所には行ってるけど知識ない」

「ぐぬっ……」


 いつものごとくメロの辛辣な物言いが突き刺さる。


 ただまあ、だからこそこの旅にも期待感が持てるってもんだ。

 未体験のことが多ければ多いほど新鮮だろうし。


 俺は気を取り直し、広げた地図を改めて見やる。


「いきなり水の都に行くのは距離があるからな。まずはどこかを中継すべきなんだが……」

「どこかの村とかだよね。メロ、おいしーご飯が食べたい」

「んー。そうだ、それなら……」


 ふと、今の俺たちがいる場所、ロズオーリ湖とタームの宿場町の近くにある村の名前に目が留まった。


「そういえばこの『ラザニア村』って場所なんだけど、今の時期は狩猟祭ってのをやってるんじゃなかったかな」

「しゅりょーさい?」

「そう。中規模の村なんだが、何でもこの村は年に一度、祭りを開くらしいんだ。村の近くで狩りをして獣肉のごちそうをたくさん作るんだとか」

「ほうほう。ということは、肉が食べ放題?」

「かもな」

「あるじ。ぜったいそこに行こう。メロ、お魚も大好きだけどお肉も大好き」

「はっは。タームの宿場町でも串焼きいっぱい買ってたもんなぁ」


 よし。

 それじゃ次に向かう場所はラザニア村で決まりだ。


 そうして俺たちは歩き出す。

 メロは終始ご機嫌な様子で、鼻歌を歌っていた。


   ***


「だりゃああああ!!!」

「どっせぇえええええい!!!」

「まだまだぁあああああああ!!!」


「「……」」


 ラザニア村に着いて。

 まず目にしたのは、村の広場で上半身裸の男たちが剣やら斧やらを振っている姿だった。


「あるじ、なにこれ?」

「さぁ。というか俺が聞きたい」


 ちなみに今の季節はけっこう寒い。


 武器を振っているのは恐らくラザニア村の住人たちなのだろうが、何をしているのかは不明だった。


「おや、旅のお方ですかな」


 声をかけられ振り返るとそこには一人の老人が立っていた。


 話を聞いたところ、どうやらラザニア村の村長を務めている人らしい。

 俺は簡単な挨拶を済ませ、気になっていることを聞いてみることにした。


「あの、村長さん。あの人たちは何をしているんでしょう?」

「あれは明日開かれる狩猟祭に向けての特訓ですな」

「狩猟祭に向けての特訓?」

「ええ。毎年村の近くで猪や熊などの獣を狩る行事なんですが、一番多く獣を狩ってきた者には特別な賞品が出される予定でして。男性陣はそのために気合いが入っているというわけですな」

「ああ、なるほど」


 よかった……。

 日頃からあんなハイテンションで剣を振るのが日課になっている村だったらどうしようかと思った。


「ちなみに旅人さん、どちらからいらっしゃったのかな?」

「ええと、ここに来る前はロズオーリ湖に寄ってきました」

「ふむ……」


 何だろうか。

 村長さんにじっと見られている気がするが。


「っと、これは失敬。ちょっと考え事をしていたもので」

「そ、そうですか」

「おおそうじゃ。ここで旅人さんたちがいらっしゃったのも何かの縁。どうかな? 旅人さんたちも狩猟に参加されてみては」

「え、俺がですか?」

「ぜひぜひ。その方が盛り上がりますでな。剣を所持しているところを見ると戦闘経験もおありなんでしょう?」

「ま、まあそれなりには……」

「なら決まりですな。おおーい、皆の者! 今年はこの旅人さんも参加してくれることになったぞい!」


 どうやら返答する前に決まってしまったらしい。

 村長さんは広場にいた村人たちの方へと歩いて行ってしまった。


 まあ、せっかくだし別にいいか。


「ふふん。あるじが参加するならごちそうもたくさん。あるじ、たくさんお肉取ってきてね」


 隣にいたメロは、既に振る舞われるごちそうの方に気が向いているらしかった。


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