第57話『ビリッとキたね……』





 第五十七話『ビリッとキたね……』





 異世界生活二十八日目、午前九時、湿地帯は曇り。


 朝礼も食事も済ませ、フル装備の湿地制圧部隊を引き連れ本部ビルから出る。


 今日は久しぶりに朝から働くこうと思い立ち、こうして司令の俺自ら率先して仕事をしている感じを出す。


 背後に尺八様、左隣にレイディ、右側は腰に銃をぶら下げているので誰も立たない……と言う有りそうな理由を今考えたが結構どうでもいい事なので数分後には忘れるだろう。


 本部前に並んだバギーに乗り込む兵士達を見ながら、左手でレイディのケツを揉む、無論、中指や人差し指の先がイケナイところに入ってしまう事も有る。


 澄まし顔で耐えるレイディ、なまいきっ!!


 それに比べて尺八様の素直で天晴れな姿勢ときたら、これほど司令心をくすぐる女性士官が未だかつて居ただろうか?


 いや居ない。


 右手を後ろに伸ばしてほんの少しだけ股間をコチョコチョしただけだと言うのに、いつの間にか尺八ママの大きな白いワンピースの中に俺の全身がすっぽり入っていた。


 自分が何を言っているのか解らないが、すっぽり入っているんだ。本当なんだ信じてくれ。


 尺八ママがワンピースの胸元に有るボタンを二つ外してくれたので、視界は確保できている、しかし、両耳は巨乳で塞がれている為、やや聴力に不安が残るのは仕方が無い。


 なまいきレイディが自分のケツから離れる俺の左手に悲しそうな表情で別れを告げ、副司令専用水色バギーに乗り込んだ。いつの間に塗装したの?


 塗装が流行はやっているのだろうか?

 しかし水色はどうなんだろう……

 湿地帯ならギリセーフか?


 まぁどうせ不可視化するので問題無いか……

 無いか? 無いな。


 俺と尺八ママは合体したままナイスシャワーに乗り込む。


 座席を倒して乗れば尺八ママと二人乗りは可能だ。でも少し窮屈なのでフレームを伸ばして座席を大きくしてもらおう。


 改造だぞナイスシャワーっ!!



“ギュ、ギュルルン?”


 美容整形ってお前……まぁ、そんな感じ?


“ブルルーン、ブルンブルン!!”


 ブルンブルンの巨乳にって言われても……丸目ヘッドライトを二つにする?


 “ッッ!! ギュッ、ギュルルーン!! ブオォォォン!!”



 俺の提案がお気に召したのか、ナイスは湿地制圧部隊の皆を置き去りにして第二基地の広大なアスファルトの大地を疾走した。


 スピードを落とせバカ危ないじゃないかバカ。


 ママの巨乳マクラが無かったら首が大変な事になってたぞバカ。


 まったく、これだからスピード狂は……


 俺は幼稚なナイスの走りに溜息を吐きつつ、頭をワンピースの中に引っ込めて、視界の左右に見える二つの赤いボタンを摘まんだ。



「ンッ、どうしたの? ミルク飲みたい?」

「…………飲む(いや、風の音を聞いていたんだ)」


「はい、チュウチュウね」

「…………ばぶぅ(よせよ、幼稚なマネはさすがに無理だ)」



 尺八ママの『健康発育milf・ミルク入り』と言う意味の解らん飲み物を二つの乳頭から吸い上げつつ『俺は嘘が吐けない男だな』と、そう思った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




【パイズル湿地帯北部・大森林との境界にて】




「バカな……何だアレは……」

「アレを一夜で、いや一瞬で造っただと……!?」



 大木の根元に腰を下ろし、体中にウネウネと植物をまとわせ、目を閉じて【遠見とおみ】のスキルを使う二人の女性エルフ。


 彼女らがスキルで見て驚愕している物、それは早漏司令長官が環境破壊を気にもせず軽い気持ちで『設置』した第二基地。


 妹が言った通りだった……二人は生唾を飲み込む。



 二人の妹である少女がボルチ王国の王城へ潜入して数か月後、その妹から緊急の念話が届いた。


 いわく、魔王出現。

 曰く、マジやべぇ、手出し無用、結婚必要。


 念話の内容は到底信じ難いものであったが、妹の必死な声と真剣さに折れた二人は真相を確かめるべく湿地へ向かう。


 そして、今まさにその魔王が創り出した異世界の『都市』を見た、見せつけられた。しかもコレはまだ基礎工事段階、完成ではないと言う……


 妹の言葉は正しかった、魔王が散歩がてらに立ち寄り貧民を根こそぎ奪われた王都は手も足も出なかった、魔王はまだしもその手下、一兵卒にすら傷を付ける事さえ出来なかった。勇者が出陣したにも係わらずっ!!


 それに加えて、その魔王はマンゴル帝国の騎馬隊も軽くあしらった。


 敵対云々の話ではない、まさに歯牙にも掛けぬ余裕を見せ、むしろ異世界の希少な『衣食住』を土産に持たせて騎馬隊を送り帰したと言う豪気すぎる魔王。


 妹がまた大げさな話を……そう思っていた姉二人は考えを改めた。


 間違い無くあれは桁が違う、能無しなどとトンデモ無い、能力値の桁が有象無象と数桁違うのだ。その力を測れるモノが無い。


 緑の民ハクダクエの娘達……三姉妹の長女コイアイエ、次女のアマイアイエ、三女のアイエ、この三姉妹は全く同じ感想を魔王に抱いた。


 降伏に限る、と。


 スキル【遠見】を解除した長女コイアイエが右手の指で眉間を揉みながら溜息を吐いた。ゆるふわパーマが掛かった長い金髪が風に揺れる。



「ふぅ……あの大きな建物から出て来た軍隊を見たかアマイ?」


「……見たよ、アベェな、乗り込んだ魔導車もヤベェ」



 姉の問いに肩を竦めて答える次女アマイアイエ。姉妹と同じ綺麗な碧眼を鋭く細め、遠くの空を見つめる。アゴのラインで整えられた金髪が汗ばんだ頬に張り付く。



「どうする姉貴……こっちからアイエに念話を送るのはやっぱマズいか? 情報が足りねぇぞ……」


「アイエからの念話を待つしか無かろう。こちらから念話を使えば遮断される上に念話使用者の居場所も捕捉され捕まるとなれば、オカシな誤解を生まぬ為にも連絡は断念せざるを得ん、が……」


「すげぇ勢いで湿地帯の魔物を間引き始めた、森に到着するのは時間の問題だな……」


「困った……」

「だなぁ……」



 二人は肩を落とし溜息を吐きながら同時に立ち上がり、植物を体に纏わせた偽装を解除しながら森の奥へ戻る。


 植物が体から剥がれ落ちると、そこには全裸の美女が二人居た。良いケツだ。


 超小型諜報機がその様子をライブ中継。


 早漏司令官のペニスに稲妻が走った。








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