第55話『面白いじゃないか……』





 第五十五話『面白いじゃないか……』





 異世界生活二十六日目、第二基地司令長官室、お昼です。


 尺八ママに甘える時間を増やそうとしていたら地球の情報が届いた。


 何やら不思議な事にダンジョンが出現したらしい。


 日本の内部を詳しく調査している超小型諜報機の報告によると、現在の日本は、と言うか地球では『黒い亜空間』が多数出現して大変な事になっているようだ。


 まぁ、黒い亜空間と言うより『ダンジョンの入り口』と言った方が分かり易いか。


 日本では自衛隊や警察がダンジョンの調査に入っている模様。他の国も軍と自衛隊の違いを除けばやっている事は同じだ。


 とにかく、この多発的ダンジョン出現で多くの人が亡くなったらしい。


 恐らく俺もコレが原因で死んだ。


 俺が何か大事な物を見ながら死んだと思っていたのは、このダンジョン出現の瞬間を見ていたからだと思う。


 諜報部の調べでは、俺が死の間際に見た爆発はLPガスを運搬していたタンクローリーがダンジョンに喰われた際に起きたようだ。


 その大爆発は日本で起きたダンジョン事故の中で最も被害が大きかったらしい。


 レイディはその爆発やらダンジョン誕生時の空間混合やらで俺の体が細切れになった挙句に燃え尽きたのではと言っている。


 だがそのお陰様で、肉体の再構築と反則的な能力を手に入れる事が出来た、今のところは利益しか得ておりませんな。


 宇宙規模の戦力や組織が手に入ると、ダンジョン出現も爆発事故もどうでも良くなる。豚骨ラーメンの方が大事。



『司令、諜報員から食品リストを預かっております、ご確認下さい』


『おおぅ、仕事が早いなまだ見ぬ諜報員諸君っ!! レイディ君、諜報員達に手厚い臨時賞与をヨロシク』


『畏まりました。司令が月面基地におもむく際は、直接お褒めの言葉を掛けてあげて下さい、彼らも励みになるでしょう』


『おうっ、任せとけっ!!』



 しっかし、俺があの『月』に行くのか……

 月まで行けば地球にも行くだろうなぁ……


 そうだなぁ、大艦隊を率いて故郷に錦を飾るのも悪くない、諜報員達と一緒に地球で慰安旅行でもするか、地球のダンジョンを攻略し尽くすのも良いな。


 ふむふむ、長期的な予定として考えておこう。


 取り敢えず現状では地球関連で俺が動く事は無い、諜報部の調査がしっかり終わってからでヨシッ!!


 カップラーメンだけじゃなくて、インスタント食品全般の情報入手と開発も進めて欲しいね。


 美味しくて栄養とボリュームも有って手軽に食べられると言う点では基地妖精のメシにかなうもんは無い……


 だが、傀儡ダンジョン一階に住む一般庶民向けに基地妖精料理を出す予定は無いので、その代替だいたい品としてインスタント食品を提供する。


 値段が安くて栄養も有り腹を満たす事が出来れば需要は有るだろうし、普通に美味しいので人気も出るはずだ。


 もちろん俺も食うし、たぶんケイジィ達も食う。


 地球に関する事で今の俺に関心が持てるのはこれくらいだな。



『司令、日本で少し気になる事が……』

『何ですかね、関心が持てないと思ったばかりなんですが』


『いえ、その……司令が死亡する原因となった例の大爆発によって消えた民間人、司令を含む三十六人の捜索が続いているようなのですが……』


『あぁ~、俺と勇者だな、あいつら三十五人居たのか、それで?』


『その行方不明者の親族や関係者が記者会見を開き、自衛隊による捜索が難航している点に不満を漏らしているらしく……』


『ハッ、ただでさえ前代未聞の亜空間が出で混乱してるのに? その亜空間の中も捜索対象だろ、誰が捜索してんだ? くだらねぇ』


『その記者会見の場で一際ひときわ声を荒げる三十代なかばと思われる女性がりまして』


『……興味深いね、うむ、続けて』


『この女性に関係する事なのですが、行方不明者三十一人を調査したところ、一人の中年男性を除いて同じネットゲームをしていた仲間である事が判明しました』


『お、おう、続けなさい』


『記者会見でわめいていた三十路女性は、その除かれた男性の『内縁の妻』を自称しておりまして、無論、婚約などもしておりません……』


『雲行きが怪しくなって参りましたな、続けて』


『先ほど開かれた会見での発言によりますと、彼女は日本国政府と自衛隊に謝罪と賠償を求める運動を起こすようです。こちらがその時の音声となります、どうぞ……』


『サンキュ…………うわぁぁ、きっつ』



 いやぁ、俺はこんなヤツを好きになるとも思えんし、好きな女を内縁の妻みたいな宙ぶらりんの状況にはさせんと思うなぁ……


 ってか、ダンジョンの出現と多様性に何の関係が有るんだ?

 女性自衛官が綺麗なのはオカシイって捜索に何の関係が?


 言ってる事がヤベェよこの女……



『はぁぁ、そもそもだ、血縁者でも婚約者でもない奴が、ダンジョン出現と言う混乱の最中さなか、行方不明者の捜索に関する大事な記者会見でシャシャッて来られる状況って何だ?』


『そうですね、例えばですが、生前の司令にご家族が居ない、親戚と疎遠、そういった情報を入手していれば……比較的に詐称は容易たやすいかと。メディア関係者と繋がりも有ると詐欺はより完璧に近くなります』


『ハハハ、なるほど、俺が天涯孤独に近い場合か……だがまぁ、この女の言動を聞いた限りじゃぁ……どうも市民活動家(笑)クセェな、聞こえない死人の声を代弁し終わったら亡骸なきがらを踏み台に使うゴミの臭いがする。関わりたくはないが死ねとは思うね』


『要注意人物のリストに入れて諜報部に渡しておきます。いずれにせよ、宇宙大艦隊を所有する司令長官が地球へ外遊されれば、話題は全て司令が持って行きますね、出自を明かすと更に面白そうです』



 軽い『ざまぁ』ですね分かります。


 まぁなぁ、行方不明の俺を使って目立とうとわめいていたら、もっと目立つ俺が宇宙からやって来たらなぁ……


 ふむ……


 あの魔王討伐隊(笑)から逃げた八人を地球に連れ帰ってやるのもいいか……アイツらは帰還方法探してた組だよな、ふむふむ……


 八人が逃げたのは東……国境は大河……

 あの水龍の河を渡れる程度にはチートだったわけか。


 無理に探す必要は無いが、それとなく気に掛けておくように通達しとこう。


 さ~てと、メシ飯ぃ~。







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