第52話『プップじゃないが?』





 第五十二話『プップじゃないが?』





 異世界生活二十五日目、午前十時、人気ひとけの無い湿原、曇り。


 俺が己の中にひそむ危険な性的嗜好らしき何かを認識してから二日、今日は目的地のパイズル湿地帯に到着予定。


 既に湿地上を走っているが、湿地帯の端には到着している感じだろうか?



『どうだレイディ、もう湿地帯と呼ばれる範囲か?』


『そうですね、端の方ではありますが、目的地です。これをご覧下さい』



 ん? あぁ、編成画面の地図か……

 なるほどなるほど、コレは広大な湿地帯だ。


 ウッヒッヒ。

 思わず下衆な笑みを浮かべてしまう。



『面積は北海道と同等、水稲に向いた便利な土地ですので、食料加工施設に性能向上効果が掛かります。西に鉱山も御座いますから、制圧すればメタル製錬施設にも相当な性能向上が見込めます』



 ヒュ~、その豊富な資源量に勃起せざるを得ぬわっ!!


 ふぅ……


 フムフム、で、制圧はどうやってすればいいんだ?

 コアを奪取すれば良いダンジョンとは勝手が違うぞ?


 ゲーム通りなら制圧艦の開発が必要だが……



『――そこんとこ、どうよ?』


『制圧部隊を投入して下さい。編成は隊員一人でも十分です』



 それは部隊なのか?


 まぁいいや、とりあえず基地を造る場所を決めようか。


 先ずは周囲の視察からだな……


 北の森はエルフが居るので今回は無視、道案内を連れて次回に視察。そもそも森を切り開いて基地を置くなんて事も考えてない。


 って事で、東の大河とやらを見に行くか……


 私がナイスシャワーで先行する、君達は遅いバギーで後から来たまえっ!!


 ハ~ハッハッハ。


≪ギュル~ンルンルン≫




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 はい、と言うわけで大河を視察して参りました。


 ……が、色々無理でした。


 後続のバギー部隊には反転と待機を命じる。


 結論から言うと、アレは俺が知ってる河川ではない、流れる海だ。


 デカすぎて感動した。地球の大河も最大幅が数十キロあるらしいが、現物を見るまでその雄大さは実感出来んな。


 異世界ではその雄大な大河に首長竜的な巨大生物まで付いて来る欲張りセット、童心をくすぐるワンパク狙い撃ち仕様のワクワク動物園的な異世界のおもてなしが俺の心を狂わせ……ない、ウキウキしない、違う意味でドキドキした。


 何なんだあの冗談みたいな巨大生物は……


 そんなドキドキ初体験の俺をテントから飛び出して出迎えたお嬢様のニコニコ顔を摘まんで泣かせたい……



「痛い、痛いですわっ、オ~ホッホッホ、それで巨大な水龍種に恐れをなして逃げ帰って来たのですわねぇ~、お可愛い事っ!!」


「いやお前、デッケェの何のってお前、お前らのバギーがアイツの前脚の丸っこい爪より小せぇんだよ? 普通に怖ぇよ、馬鹿なの?」


「いいえ、アテクシも怖いですわよ? そもそも、水龍種が居るので肥沃な土地が多い河沿いであっても人間が棲み付かないのですわっ!!」



 まぁ納得だな、仮に性格が大人しい生物だったとしても、少し周囲の散歩に出られるだけで人里の被害は甚大だ。



「司令、その巨大な水棲生物はボランティアで基地の東側を護ってくれる警備員であると考えてはどうでしょうか? 疑似的な心のゆとりが得られます」


「疑似的じゃダメなんだよなぁ……」



 と言っても、人間辞めた所為せいで不安や恐怖はかなり抑えられている、数日もすれば巨大生物に恐れを抱く事も無くなるだろう。



「さぁ殿下っ、お昼休みに致しましょうっ!!」


「司令、その前に本拠地となるポイントを地図で指定して下さい、ここまで好条件の立地ならば、視察で終わらず土地の確保と本拠地建設もすべきです」


「そうか……よしっ、え~っとな、この辺りが良いと思う、鉱山寄りの中央、若干北の森に寄るのもアリだな、やや北西の中央か」


「畏まりました、ではそこに新規の基地を設置します……」



 レイディがいつもの様に淡々と返事をした直後、ズズンと地響きを鳴らして泥混じりの水しぶきが北西の空に舞い上がった。


 ひゃー、これは人の居る場所でやらなくて良かった……


 ち、地図で設置範囲を確認……うわぁ……


 規模的には北海道の二割五分がアスファルトで覆われた感じか?


 これで初期設定の最小規模って事だから……とんでもねぇなこれ。


 お嬢様達もさすがに開いた口が塞がらんようだ。

 何か可愛いので落ちた顎を戻しておく、よいしょ。



「んぐぅ、凄いですわぁ……」


「司令、本拠地となった基地本部はレベル1状態で設置されています、現在は何も無い本部ですが、先ずはそこへ参りましょう」


「何も無い本部(アンドロイド目線)な、オッケー、早く行こう、中に入ってズッコケるのが楽しみだ。行くぞナイス」


≪ギュルンギュル~ン!!≫



 よし、今日はアスファルトを好きなだけ走れるぞっ!!


≪ギュ、ギュルルン?≫


 あぁ、マジだ。オイオイ、オイル漏れはめてくれよ?


≪ブオンブオーン!!≫


 ハハハッ、こいつぅ、調子のいい奴めっ!!



 俺はエンジンを震わせる愛機にまたがり、アクセルを全開にした感じの雰囲気を出して安全第一の自動運転で目的地へ向かった。



「オ~ホッホッホ、ダサいですわぁーっ!!」



 黙れですわぁ~。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 って言うか、ダンジョンに居る同種の大ガエルが多すぎて水田造りの邪魔だな?


 基地に入る前にそれが気になってしょうがねぇ。

 どうしてくれようか……


 しかし絶滅させるのは駄目、どこかに囲って……いや、一割ぐらい残して後はダンジョンの牧場フロアに入れるか?


 尺八ママに聞いてみよう!!



『お~い、ママ元気してるぅ~?』

『……元気じゃない、司令は元気?』


『え、どうしたの? 大丈夫? 元気無いじゃん……』

『司令が居ないから……寂しい』



 …………クッ。



「レイディッ、尺八様は編成画面の基地に入れるのか?」


「ハッ、私共とは別系統のアンドロイドですが、可能です」


「尺八様を編成画面経由で本部の指令室に送れっ、今すぐだっ!!」


「ハッ、畏まりました」



 待ってろ尺八ママン、今会いに行くかんなーっ!!


≪ブロロンブロ~ン≫


 え、優しくしてあげて?

 へへっ、分かってるさ……


 仲間の気遣い、サンキューなっ!!


≪ブ、ブロン、プップー!!≫


 オイオイよせよ、ツンデレか?

 だが、嫌いじゃぁないぜ?


≪プップ……≫


 行くぜ相棒、新しい本拠地のゲートはもうすぐだ……っ!!


≪ギュルンギュルーン!!≫






 イヤイヤ、プップじゃないが?

 何ツン後のデレみたいな雰囲気出してんの?


 そして何で俺はそれを理解するの? 馬鹿なの?


 ヤベェよ、マジヤベェ……怖っ!!







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