第49話『どうなっても構わんよ僕ぁ』





 第四十九話『どうなっても構わんよ僕ぁ』





 異世界生活二十二日目、午前十一時、曇り。


 いつも通り朝のレディオ体操を終えて昼食を摂り、昼になるまでまったりとテント内の司令室で過ごす。


 昨日の事情聴取から丸一日経ったが、荒くれナイツも馬車組も大人しくテント内で話し合いを続けているようだ。


 テント内部の情報はこちらに筒抜け、スペースファンタジーな監視カメラで常時見張っている。


 荒くれナイツはテントとお嬢様の交換について侃々諤々かんかんがくがくの議論を展開、俺達への文句などは一切ない。むしろ付いて行こうぜと言う奴まで出る始末。


 彼らの話し合いが昼までに終わるのか疑問。


 馬車の四人組は……お嬢様の妄想が感染したのだろうか、まず四人組の話の中に『大ニッポンヌ帝国内で権勢を振るうソウ皇太子』と言う微妙に盛られた架空の俺が居て、そんな俺の『嫁とその配下』になった場合、自分達にどのような幸福が訪れるのか……それを真剣に議論している。


 頭が幸せそうで何よりだが、国と共に領地も滅ぶ事が決定している彼女達からすれば、俺とその勢力は降って湧いた幸運、または仏が地獄に垂らした蜘蛛の糸と言ったところか……妄想で不安をかき消しているのかもしれん。


 そう考えると、お嬢様のアレっぷりは従者三人にとって良い意味で役立っているのかもな。



「司令、諜報部から情報が送られてきました、書類は御座いませんので、口頭で申し上げます」


「うむ、頼む」



 司令室の机に両肘を突いて左右の手を組み、俺が考えるカッコ良い司令仕草で頷く。しかし、机の向かいに居るレイディが何故か半裸なので集中出来ない。


 思わず勃起をきたして机の下をノックしてしまった。

 その音を聞いたレイディが俺の右側に移動する。


 移動した途端、背後にゴミが落ちていたのだろうか、後ろを向いて前屈姿勢に……


 クッ、やってくれる(勃っ


 僕の大好きな黒の極細Tバックが……ズレている。

 ほんの少しだけ中央のラインから右にズレている……っ!!


 僕の大好きな菊花賞、芝三千メートルが見えている。

 名馬メラニンシキソは今日も一着、今日も一着っ!!

 ゴール板を右から駆け抜けたっ!! ケツ穴確定っ!!


 世界のホールマンよ見てくれっ、これが近代ケツ穴の結晶だっ!!


 僕はちあがり、ズボンの中から優勝カップを取り出した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ふぅ……気付いたられていた。

 これは異世界七不思議に違いない(確信


 無論、七不思議にうつつを抜かして仕事を忘れる俺ではない。


 レイディをアヘらせながらもキッチリと情報を受け取った。


 その情報によれば、荒くれナイツと馬車組が言った事に間違いや嘘は無かった。領主はアホだし長女は死んでる、大酋長とやらは女あさりを続けているが住民の無益な虐殺などはしていない。


 しかし、今回の追跡事件に関する証言以外の部分で『またかよ』と思わざるを得ん事実も分かった。


 南部と言う場所は、あのクソ溜めの王都以上に無能への扱いが酷いようだ、荒くれナイツの親玉も無能嫌いで有名だと言う。


 溜息が出るな、まったく……


 わざわざ南部に出向いて無能を助けようなどとは思わんがね……


 そんな事より、これはどう転ぶか分からんな、俺の配下はショタニアスとマルデビッチを除けば全員無能だぞ?


 そうなると、荒くれナイツと馬車組がその事実を知った場合、どう出るのだろうか?


 伝える必要も無いが、荒くれナイツはこれから俺と交渉をするはずだし、馬車組は俺に付いて回る予定だ。


 一方は民族の文化的にアンタッチャブルな無能との交渉。

 そしてもう一方は差別対象の無能に保護を求める……


 荒くれナイツの方には事実を伝える必要は無いが、馬車組は付いて来た場合どうせ後から知る。


 ここは最初のスタンス通り公平をし、両者に事実を伝えるべきだ。


 よっしゃ、面白くなってきましたぞ~。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 と、言う事で、俺の大きなテントに両陣営を招き、そのトップであるお嬢様と荒くれリーダーを会議室に用意した席に着かせた。他のナイツや三人組は壁際に大人しく立たせている。


 俺は議長席に座り二人を交互に見て頷く。



「諜報部から連絡があったが……安心しろ、お前達の言葉に嘘はないと確証を得られた」


「そうか……」

「ウソは申しませんわっ!!」


「さて、マンゴル帝国のモウカチン百人長、答えは出たか?」


「ああ、テントを譲り受けたい。その対価として我々マンゴル帝国フェラート部は以降お嬢さんを追う事は無い」


「マンゴル帝国全軍と言わんところがアレだが、まぁいい」

「悪い、他の氏族部をどうこうする事は出来ん、すまない」


「何のお話ですの?」


「君の身柄についてだが、少し待て、まだ話が有る、君も聞いておけ」



 改めてカッコ良いポーズをとり、正面に座る二人に告げた。



「今更だが言っておく事がある、俺は、いや、ここに居る俺の部下も全員『無能』だ」


「何……だと」

「ッッ!!」


「ここに居る者だけではない、大ニッポンヌ帝国は上から下までほぼ全員が無能で構成された国家である」



「そんな国在るわけがっ……」

「お黙りなさい……どうぞ、続けて下さいまし殿下」


「現在、我が国で魔法を使える者は……この国で配下に加えた王都の元ハンターギルド長と副長の二名、それだけだ」



 驚愕の表情を見せ絶句する二人。

 壁際に立つ連中も声を失っている。



「さぁ、もう一度お前達の答えを聞こうか」



 どう出る?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る