第48話『先天性に薬は……』






 第四十八話『先天性に薬は……』





 異世界生活二十一日目の午前十一時三十分、パイズル湿地帯に向かう途中で俺のペニスを激しく動揺させる事件が起きて一時間半経過。


 荒くれナイツの事情聴取を終え、今は馬車組の話を聞いている。


 だがしかし、お嬢様が興奮気味で話が進まない。しかも、マンゴル帝国の悪事ばかりを並べ立てるので、事実確認が出来るまでは他の話を聞きたいと言い聞かせたのだが……


 今度は俺との結婚生活を語り始めた。

 結婚後の生活ではない、結婚生活だ……


 妄想が酷くて俺の頭が彼女の言動についていけない。


 取り敢えず、俺もお前も未婚だろと言ったら驚愕していた、俺も驚愕した。執事のセバスニャンと侍女二人は『分かります』と言いたげな表情と優しい目で俺を見ていた。


 そうか、お嬢様はやっぱアレなのかと納得。


 こんなアレに付き合って一蓮托生の構えだった彼らの忠義に脱帽した。


 御付きの三人に池田さん特製のチョコミントアイス大盛りをプレゼンツ、お嬢様には軍支給のチョコ無ント棒アイス、ただのクソ硬いミントアイスだが、人の頭を殴ったら死ぬくらい硬いアイスだ。


 激硬ミントアイスを卑猥にンポンポ舐めて夢中になったお嬢様を脇に置き、御付きの三人と話す事にする。



「お前達が俺に嘘を言う事は無い……そう思うが、どうだ?」


「ほっほっほ、命の恩人に嘘などけましょうか」

「私は嘘を吐くと鼻の穴が大きくなりますので……」

「私は嘘を吐くと右の目蓋まぶたがヒクつきます」


「そうか……では始めよう。追われていた理由を聞かせてくれ」



 素直な三人はそれぞれ時系列を正しながら、時に細かい注釈を付けつつ、追われていた理由を語ってくれた。


 三人が語った内容は荒くれナイツが言っていたそれと同じ、こちらの方がより詳しいが、取り敢えずどちらも正直に話してくれたようだ。



「その内容で間違いないか?」


「違い御座いません」

「はい」

「はい」


「よく分かった、南部が置かれている現在の状況はもう少しで把握出来る、それまで……」



 どうすっかな、もうこの件に興味が無くなってしまった……


 面白い話だった~つって立ち去ったらウケるだろうか?



「司令、そろそろお昼ですが……」


「ふむ、じゃぁ飯にすっか、あっちの雑木林で野営準備。もうここで一泊してしまおう、諜報部には急がず明日の昼までじっくり調べ上げろと伝えてくれ」


「畏まりました。各員っ野営準備っ!!」


「荒くれナイツにもテント出してやれ」

「ハッ」



 野営準備とテントの言葉に鋭く反応するお嬢様が俺に詰め寄る。



「まぁ何てことっ、淑女たるアテクシに野宿をっ、軍人の使うテントで野宿をせよと仰るのですかっ!!」


「いや、テントと言っても――」


「覗き放題のテントでっ、配下に見られながらっ、アテクシを皇太子殿下の宝刀で貫くとっ、そうおっしゃいますのねっ!! 何と言う屈辱っ、宜しいっ、これも滅びゆく王国貴族に産まれた運命さだめっ、肉便器とお呼び下さいましっ、お願いしますっ!!」


「おいセバス、駄目だコイツ、早く何とかしないと……」


御労おいたわしやザリガニクサお嬢様……っ!!」

「お嬢様……また発作を、お可哀そうに……」

「お医者様から頂いた気付け棒『デンマー』は馬車に……」



 やっぱ病気だったのか。

 回復剤なら全快するが……

 元がアレなら手の施しようが無いぞ?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 皆のテントを展開後、それを見ていた荒くれリーダーが駆け寄って来た。



「おいおいおいおいおい、皇太子様よぉ、いったいコリャァ何だい、アンタの国はコレが、このテントが普通なのか……?」


「安物だ、お前達はそれを使え。中の説明は案内の兵士を付けるからそいつに聞くと良い」


「安物って……ハッキリ言うが、マジでハッキリ言うが、そこのお嬢さんより価値が有るぜコレ……」


「ほぅ、何ならそのお嬢様の代わりに持って帰れ、くれてやる」


「ッッ!!…………ちょ、ちょっと考えさせてくれ」


「構わん、明日の昼までに答えを出せ」



 最初は興奮気味にテントを見ていた荒くれリーダーだが、今はかなり動揺して眉間に眉を寄せている。


 じっくり考えろ、どっちに転んでも俺に損は無い、何せ百円のアイテムだ、一つ二つ渡したところで痛くも痒くもない。倉庫にだって幾らでも有るしな。



 さて、馬車組の反応は……


 回復剤を飲ませたお嬢様の様子も気になるところだが……



「御覧なさいセバス、エーコ、ビィナ、これがアテクシの旦那様が持つお力です、お分かり?」


「さすがに……たまげましたな、これは砦、いや小さな城ですぞ……」


「ビィナさん、ご覧になって、殿下のお城はもっと大きい」

「凄い、もし今夜……殿下の御手付きになったら……ポッ」



 まぁお嬢様を除けば当然の反応だな。


 そんな事より、赤髪碧眼の侍女はエーコで、茶髪碧眼はビィナか、覚えた。どちらも頭頂お団子ヘアなのは侯爵家の規則かな?


 そう言えば侯爵家の家名も知らんな?



「おいセバスニャン、侯爵家の家名は何だ?」

「これは失礼を、メニキタ侯爵家で御座います」


「へぇ~、メニキタ、メニキタ侯爵か、覚えておこう」


「アテクシは大ニッポンヌ帝国の皇太子妃ですので姓は御座いませんの、ね、殿下っ」


「……セバスニャン、薬は飲ませたのか?」


「き、効きが弱いのかもしれません、今しばらく、今暫くお待ちをっ!! エーコ、ビィナ、お嬢様を早くテントにお連れしなさいっ!!」


「は、はいっ!!」

「やはりデンマーが無いと……」


「ちょ、お放しなさいっ、アテクシはあっちの豪華なっ、ちょ、本当に待って、話し合いましょう? 今夜が勝負なのよ? 分かってる? 痛っ、エーコあんた今お尻叩いた? ねぇ、ねぇってば、聞いてる?……」



 見てるだけならオモシレー女なんだけどなぁ……

 って言うか、アテクシ言葉は外向けで、あれが地だな。


 騒がしいのは俺一人で十分なんだよねー。

 あれれ、こんなとこに良いケツが、揉んでしまえ。



「ンンッ、司令、昼食後は明日の朝まで待機、ですね?」



 さすが秘書官、分かってるじゃないか。


 僕は静かにうなずき、勃起をきたしたのです。







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