第47話『これは骨が折れそうだ(物理』





 第四十七話『これは骨が折れそうだ(物理』





 異世界生活二十一日目の午前十一時、パイズル湿地帯に向かう途中で俺のペニスを激しく動揺させる事件が起きて一時間経過。


 馬車の四人組と荒くれナイツを離れた場所に分けて事情徴収開始。


 良し、先ずは追っていた荒くれナイツから話を聞こう。

 馬車組は今ティータイムだからな。



「お前がこの集団のリーダーか?」


「そうだ、マンゴル族フェラート部コチン氏、名はモウカチン、モウカチン・コチンだ、百人長をしている。今は三十騎しか率いていないがな」


「お前は……もうカチンコチンなのか?」


「ほほぅ、俺の名を知っているとは、有名になったもんだな、俺も」


「お、おう」



 クッ、俺のウィットに富んだネタが効かない、残念だ。

 気を取り直してカチンコチンコに話を聞こう。



「最初に言っておくが、俺達はお前達を殺そうと思っているわけじゃない、馬車を追っていた理由が知りたいんだ……さっき二人始末しておいて何だが、矢を射て御者と護衛を殺した者を選んで処分した、そこは解って欲しい」


「ふぅ……良いだろう、奴らは捕縛任務中に目標と争って殉職、そう理解した」


「スマンな。では聞こうか、何故馬車を追っていた?」


「あのお嬢さんは南部の侯爵令嬢、その父親である侯爵は我らマンゴル帝国に降伏し恭順した。正確には南方遠征軍のフェラート部大酋長だいしゅうちょうこうべを垂れて我が帝国に寝返った」


「あぁ~、南部の貴族は鞍替えが多いらしいな、それで?」


「侯爵はフェラート部との繋がりを強化する為、その長女を嫁に出そうとしたが、長女はこれを拒否して自害」


「……気合入ってんな長女」


「そうだな、あれは良い女だった。それで、次に嫁として選ばれたのが……次女、あのお嬢様だ」


「なるほど、それで逃げたと……」


「あぁ、俺達は逃げた花嫁を捕まえて大酋長の御前へ連れ帰る任務を受けている……死んだあの御者はまぁ運が悪かったが、護衛のハンターはウチの奴を一人殺してるからな、全員捕縛の予定だったが手間なんで殺した」


「そう言う事か……少し席を外す、あぁそうだ、お前達も……このテーブルでくつろいでおけ、茶菓子が無くなったら言え。行くぞレイディ」


「ハッ」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 あぁぁぁぁっ、メンドクセっ!!


 コレはどうなんだ?


 まず問題の発端となったアクションを起こした侯爵だが……理由はどうあれ無謀な戦いを避けたと言える。


 大酋長と娘をくっつけて姻族になる考えも間違いではない……


 長女の気概も理解出来る、次女が逃げたのも解らんでもない、しかし、貴族としての義務はどうなの?


 国の大事にその義務を果たすから税を取って良い暮らししてんじゃないの?


 個の権利や私情を先に出されちゃ民衆は納得せんだろ。大衆向けの悲劇としてならヒロインに感情移入して同情的にもなるが……


 同じ女性としてレイディの意見も聞く。



「そうですねぇ……次女が想いを寄せる誰かが居た場合を考えるなら、私は次女の肩を持つかもしれませんが、そうでなかったなら……まぁ」


「そうか……想い人が居ないとした場合、お前だったらどうしてた?」


「私に司令と言う大切な方が居ないと言う状況で、尚且なおかつ父親の命令に逆らえず説得は不可能、動かせる配下は五人、国と領地は敵に囲まれ存続の危機、しかし起死回生の策で選ばれた嫁ぎ先の相手は気に入らない、この条件なら……全てに報復を誓って出奔でしょうか、自害は……最後の最後ですね」


「……そうなるか、貴族の義務はどうする?」


「国家への忠誠を示すと言う意味ではなく、民衆に安寧を、と言う意味の義務だと理解して申し上げますと、異民族の支配と酋長への婚姻が間違い無く安寧をもたらすと確信を得るまでは、自分が背負った誇りある義務の果たしようが無いと考えます」


「義務の果たしどころか……」



 ふむふむ、自分を犠牲にして民衆の為に行動するなら、一番効果的なポイントを狙う……この考えも有りだよなぁ。


 恐らく正解は無い、その時に最もマシだと思われる方法を採るしか無いような気もするが、切羽詰まった状況で悠長に選択している時間は無いだろう。



 ――と、色々考えさせる問題だが、まだ片方の言い分しか聞いていない。馬車組の話を聞いたらもっと簡単な答えが出るかもしれん。


 どちらかが嘘をいているかもしれんし、どちらも本当の事を話すかもしれん、そしてどちらかが嘘の場合だってある。


 その辺りはレイディが放った諜報部隊がしっかり裏を取ってくれるだろう。


 さて、次は馬車組に話を聞く番だ。



「面倒だが行くぞレイディ」

「ウフフ、楽しそうですよ、司令」



 そうか?

 そうかも。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ですからっ、あの蛮族の親玉は泣いて嫌がる領民の乙女達を集めてセクロスパーティーを開催する外道ですのっ、それでも皇太子殿下はアテクシに義務を果たせとおっしゃるのっ!? アテクシの心を奪っておいてっ!!」


「……現在、我が軍の諜報部が南部を調査中だ、君の話が真実か判らんが、本当だったなら……まぁ、安全な所に送り届けてやらんでもない、そして心は奪っていない」


「まぁっ、酷いおっしゃりようだことっ!! 返してっ、アテクシの初恋と言う名の純心をお返しになって!!」


「では返す」

「がえ゛ざな゛い゛でっ!!」

「放せ馬鹿、離れ……力強っ!?」

「捨゛でな゛い゛でぇぇっ!!」



 やべぇ、お嬢さんがマジキチだった……


 こ、こいつぁ少しばかり骨が折れそうだ……








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