第46話『まだ居たのか(驚愕』





 第四十六話『まだ居たのか(驚愕』





 異世界生活二十一日目の午前十時三十分、パイズル湿地帯に向かう途中で俺のペニスを激しく動揺させる事件が起きて三十分経過。



 重体の執事セバスニャンと右腕前腕を失った荒くれリーダーの二人に回復剤を渡した後、一個大隊六百五十六名を編成画面から召喚。


 レイディの指示を受けた大隊長が荒くれナイツと馬車の四人組を囲む。


 囲まれた方は驚愕の余り声が出ないようだ。


 取り敢えず、死にそうなセバスニャンに薬を飲めとさとす。



「お嬢様とやらを護りたいならそのカプセルを呑み込め、どうせ何もしなければ死ぬ、そのカプセルにお前の忠誠心を賭けてみろ」


「ッッ!! ゴホッ、言ってくれますなぁ、宜しい、有り難く頂きましょう……ゴックン……ンほぉぉぉーーっ!!」


「セバスッ!! ちょっと貴方っ、セバスに何をっ!?」



 雄叫びを上げた執事に駆け寄り俺を睨む金髪ドリルのお嬢様……完璧だ、完璧なヒロイン其の三?四?……何番目かだ……っ!!


 美しい顔も釣り上がった目も青い瞳も真っ赤なドレスも気が強そうな雰囲気も平らな胸もさり気なく俺の股間の膨らみをチェックする洞察力も取り敢えず将来の為に視線でレイディを牽制しておく姿勢も……お見事っ!!


 ここまで完璧にヒロインロードを歩むモブ女が居るだろうか?


 いや居ない、いまだかつて私はお目に掛かった事が無い……っ!!


 負けちゃぁおれん……

 ワシも負けちゃぁおれんよ……


 大ニッポンヌ帝国一の皇太子ムーブ、見せちゃるけぇのぉ!!


 僕は足元までおおう長いマントを何かこうカッコ良く『バッスワァー』とひるがえし、お嬢様の方へ向き直る。


 ゴクリと唾を吞むお嬢様。

 僕は冷徹な目を彼女に向けて問う。



「貴様、名は?」


「ッッ!! そちらから名乗るのが礼儀ではなくてっ!?」


「……フッ、大ニッポンヌ帝国皇太子、名はソウ、皇室は万世一系ゆえに姓が無い、許せ」


「あ、わ、私は――」


「私はレイディと申します、皇太子殿下のフィアンセ、専用穴、都合の良い穴、ヒマ潰しの穴、仕事の出来るオナホ、殿下専用移動便器などと呼ばれております」


「キッ!!」

「キッ!!」



 レイディがほぼ真実寄りの嘘を言って話に割り込み、女同士の睨み合いに発展してしまった……


 俺はカッコ良い向き直り姿のまま、執事セバスの様子を見る。


 ヨシッ、腹の傷も塞がって顔色も良くなった、全快だ。



「気分はどうだ?」


「ホッホッホ、いやぁこれは何とも……驚きですな、おっと、皇太子殿下に於かれましてはご機嫌うるわしゅう――」


「急ぐ、長い挨拶は要らん。まずは立て……それで、体の調子は?」


「では失礼して、よっこいしょ、ご覧の通りで御座います殿下」


「フッ、年寄りがフルボッキとは恐れ入る、やるな貴様」

「お恥ずかしい限りで御座います……ホッホッホ」



 俺はフルボッキしたセバスに褒美として支給品の高級煙草【ワイルド7】を一本投げ渡した。



「これは……」

「嗅いでみろ」


「ッッ!! 何とも香ばしい……これは御皇室専用のおタバコで御座いましょうか?」


「いいや、ただの軍事支給品だ、誰でも貰える。吸ってみろ、お前はタバコ吸うだろ、髭がヤニで染まっている……フフフ」


「これはまたお恥ずかしい……では、有り難く頂戴致します、失礼」



 セバスは俺に一礼してタバコを咥えると、指先に魔法の火をともした。


 バニラの香りが煙に乗って周囲に漂う。


 煙を口に含んだセバスは、それを肺に入れず十分に味わってから吹かした。これは葉巻の味わい方だが、好きな吸い方を楽しめば良い。


 何度も頷くセバス、小さな声で「美味い……」と感想を漏らす。


 気に入ったようなので十本入りのステンレス煙草ケースごと投げ渡した。


 慌てて受け取るセバス。



「無くなったらその辺の兵士に言え、タダで補充してくれる」


「それはまた……過分なご配慮を、しかしこの金属製の入れ物、不思議な素材で御座いますな……鉄の匂いがしない?」


「合金だ、そんな事より、貴様、着替えは有るのか?」

「いえ、馬車に御座いましたが……」


「はぁ、だろうな、スマン。我が国の執事服を用意させよう、それまで女共と……ほれ、このテーブルに座って茶でも飲んでおけ」



 貸倉庫に入ってある池田さんの『おやつタイム完璧キット』を取り出してお茶を勧めた。


 テーブルの上には四人分の紅茶、中央の大皿に数種のクッキー、そして『本日のケーキ』が四枚の皿に乗せられている。池田さんの仕事は完璧だぜ。


 ボケッと突っ立っていた二人の侍女に視線を送ると、ビクッと肩を跳ねさせお茶の準備を始める……が、何もすることが無いので、取り敢えずレイディと睨み合いをしていたお嬢様の背中を一人が押し、もう一人が椅子を引いて座らせた。


 セバスが当然のように給仕をしようとしていたので、『問題無い』と席に着かせ、基地から追加で侍女二名を召喚した。


 気品のある美しいアンドロイド侍女にセバスも勃起をいなめない。


 これはあれだな、恋をしたなセバスニャン……フッ。


 などと老人の恋に苦笑のエールを送っていると、横から野太い歓声が上がった。


 そう言えば居たな、荒くれナイツ。



「兄貴の腕がっ、こいつは本物のエリクサーだっ!!」

「そうだぜ兄貴っ、見た事無ぇけど本物だぜっ!!」

「兄貴、朝から縁起が良いなっ、お宝が自分から――」


「よせっ、それ以上は言うな、周りを見ろ、勝てんぞ」


「あ、兄貴ぃ、でもエリクサーだぜ……」

「そうだよ兄貴ぃ、エリクサーが有れば……」

「エリクサーを売ればあの子達を……」



 おやおやぁ、こっちも何かワケ有りの気配が――



「あの店の若い子達を一晩買ってもお釣りが来るぜ兄貴ぃ~」

「頼むよぉ、一回で良いから高級娼婦とセクりてぇんだよぉ」

「兄貴だってお嬢様捜索に忙しくて金玉重いだろう?」


「……よせ、残念だが、火力が違う、ここは退け」



 ま、まぁ、ある意味深刻な理由だな……

 この件は外伝的な扱いで処理しよう。

 ナイツの状況確認ではこの件を含めず判断する。


 さぁ、いよいよ両者の事情聴取だ。


 頑張るぞぉーっ!!








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