第42話『良い選択だ(カチン』
第四十二話『良い選択だ(カチン』
異世界生活十八日目の昼過ぎ、雨が降って来た。
朝から曇り空だったし、降るべくして降ったと言う感じ。
テントのバリアを抜けない三人の勇者は雨に濡れて寒そうだ。
名称と演出がやたら大げさな魔法やらスキルやらを放つ三馬鹿、俺達も移住予定の民衆もその光景を眺めている。
片方は貧弱な攻撃に呆れ気味に、片方はバリアの防御力に驚愕した様子で、この無駄な演舞を見ていた。
三馬鹿もさすがに無防備な民衆を直接の攻撃対象にはしないが、衝撃波や爆風等によって間接的に攻撃している結果になっている。
奇跡的に、と言うより運良く、俺達が保護する民衆に被害は出ていない、出ていれば遠くに建つ城は今頃消えているだろう。
これも予知出来た結果か?
こちら側の民衆に被害はないと判っていた?
城は潰れないと確信していた?
俺の気まぐれを含めた予知か?
今まさにあの城の上空から施設を落としたいんだが?
十秒後に絶対落とすと決めて秒読みを始めたらどうなる?
十、九、八……
「おいガキッ、この前で連れ去った仲間を返せっ!!」
「そうだっ、六人もっ、せめて女性は解放しろっ!!」
「俺達が捕らえた奴と捕虜交換だっ!!」
七、六……なるほど、気になる言葉で秒読みが止まるわけか、面白いな予知。
しかし捕虜か……
我が軍から消えた兵士など
興味深い、気になるなぁ~。
取り敢えず捕虜を見せてもらおう。
「捕虜を見せろ、話はそれからだ」
「チッ、無能が偉そうに……っ!!」
「落ち着け
「任せろチュウ太っ、
三馬鹿の頭上に一辺五メートルほどの
檻は金属製と思われる鉛色だが、『不壊』の名称通りなら、壊す事は出来ないのだろう。
その檻がゆっくりと下降を開始、その様子を黙って見守る。檻の中はまだ見えない、中の人物は伏せているようだ。
檻の床が俺の目線まで降りる、中を確認、小首を傾げる俺。
檻は下降を続け、底の四つ角に付いた短い脚を地面に着けて下降終了。
もう一度檻の中を確認……いや、誰?
レイディを見る、困惑気味に首を左右に振られる。
他の士官達にも視線を向けたが、同様に困惑。
更にもう一度じっくり見てみるが……ホント、誰?
「驚きすぎて声が出ねぇよなぁ?」
「よほど自信を持って送り込んだ人物だった、と言う事か」
「スパイとしては有能だが、俺達の目は
「スパイ……? その女がか?」
「おいおい、シラケても無駄だぞクソガキ」
「残念だがこの女が全て吐いた、全て、な」
「
「やめてやれ、クソガキが哀れじゃねぇかwww」
「まぁ、信頼して送り出したスパイが寝取られてはな……」
「いやいや俺そこまでストレートに言ってねぇしwww」
盛り上がっているとこ悪いが、本当に誰だか分からないんだ。
耳の形から察するにエルフだと思うが、金髪エルフなんて知り合いに覚えが無い、前世で俺に関わった人物の記憶は無くなってるから、その辺りの知人だろうか?
そもそもこの女は俺の呼び掛けに応えず、顔を上げて目を合わせようともしない。オイと呼んでもビクリと肩を跳ねるばかりだ……はぁぁ。
あぁ~、何かダリィな……面倒臭ぇ。
「もう殺すか」
「ッッ!! ま、待って……っ!!」
「話せるじゃないか、次に沈黙したら殺す」
「わ、解かった……」
俺は脅しの為に遠くの山を指差す。
ダンジョン入り口で射撃体勢に入っているサラ30が発砲。
青白い光が遠くの山を貫き大穴が開く。
そして山は轟音と共に崩壊を始めた。
エルフが白目を剥く。
三馬鹿も目を見開いて言葉を失った模様。
脅しの効果は抜群、俺はエルフに質問を開始。
「お前は誰だ? 正直に言え、殺すぞ」
「ッッ!! ビクンビクン、私は北の大森林に住む【緑の民】です、異民族と王国の動向を探る為に三年前からこの城で働いていました。好きなタイプは目の前に居る男性ですが、今回は勇者の魅了に掛かった振りをして情報を引き出したのち、いざ脱出と言う時になって魔王陛下が現れまして、しかも王都の四方を塞いでからの民衆扇動と言う徹底ぶり、私は窓枠に足を掛けたまま逃げ場を失い呆然としていたところを、そこの三人に捕まり……尋問で我が身可愛さに魔王陛下の部下であると嘘をブッこきました。私に何かあると魔王がキレるぞと、死ぬぞと、勇者
「お、おぅ」
何か変なのと関わってしまった……
北の森のエルフか。
北の森って事は……
俺達が支配する予定の地域に入ってるな。
ケイジィの話じゃぁ人の居ない未開の地って事だったが……
「魔王陛下っ、私は……生ぎたいっ!! 私も一緒に
「お、おぅ」
腐海ってどこだろう、魔界の海とか?
しっかしスゲェ顔だ……
こんなに鼻水を流した必死な顔は見た事無い……
まぁ道案内や緑の民とやらとの交渉に使えんでもないか。
「レイディ、三人を殺せ。エルフは保護だ」
「ハッ。射撃用~意、ってぇーっ!!」
数十の光線が三馬鹿を貫いた。
「ば、馬鹿なっ……話が違う……」
「グフッ……小林の、予知は……」
「う、嘘、だった……? ゲボッ……」
ショウちゃんと呼ばれていた男の頭が吹き飛ぶ、それと同時にエルフ『アイエ』を閉じ込めていた檻も消えた。
さて撤収だ、サッサと帰ろう。
あぁそうそう、三馬鹿襲撃理由の答えが出たな。
答えは四番『アホが邪魔になったので魔王に
どう考えても今俺を襲撃する意味はないからな。
召喚勇者達にとって頭の悪いイキリ馬鹿な仲間は後々邪魔になると判断したか……だとしたら正しい判断だ。
俺は王とその周辺をギャフンと言わせてスッキリしたいだけで、召喚勇者を皆殺しにしたいわけじゃない。関わらんかったらなにもせんよ、興味も無い。
そんな俺に悪意を持って対抗しようとするアホは切った方が良い。予知勇者は正しい選択をした。
俺を使って処分させるのは……まぁ手間が無ければどうでも良いな。
……しかし、最適解とは言えんな。
俺をナメてるから城の西塔を撃ち抜けサラ30。
南の地平線から青白い光線が伸びた。
綺麗だね、お見事。
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