第二章

第40話『引き金』





 第四十話『引き金』





 異世界生活十八日目、早朝、王都南側の貧民窟。

 朝日が昇ったにも関わらず薄暗い、やや曇り気味の天気。


 先日の長距離攻撃で破壊された第三城壁の城門と城壁は修復されぬまま放置されていた。


 壊れた門の代わりに土嚢どのうが積まれているが、ウチの元気な子供達が遊びで登ったら壊れそうだ。


 その見苦しい城門から100mほど離れた場所に、ダンジョンの入り口を塞ぐ役目を終えた俺のテントを展開、度肝を抜く貧民や城壁上の兵士を余所よそに、続けて一般のテント(古城)も展開していく。


 今日は貧民に俺達の説明会と勧誘。

 王都を囲む四方で同じ事をやる。


 南は俺、北はケイジィ、東西はショタニアスとマルデビッチ。


 この四人がそれぞれの場所で説明会の指揮を執る。


 当然、俺達の周りは重装備で身を固めた兵が並んでいるし、城をメインに王都全体を監視中。勇者を動かせば城のどこかに大穴が開くので用心しとけアホ共。


 とは言うものの、俺達の動きを予知出来る奴が居るなら手を出して来ないだろう。


 なんせ王都を囲むように住みついた邪魔で目障りな無能集団を、追放した魔王が無料で全部連れて行ってくれるんだ、邪魔する必要が無い。


 俺達は貧民への効率的な説明を考えた結果、宙に浮かぶ戦闘車両で堂々と王都に乗り付け、初めにテントの複数展開を見せる事にした。


 百聞は一見に如かず~からの砲艦外交的な作戦です。


 何かスゴイ奴らがスゴイ物に乗ってスゴイ物を出したぞっ、こう思ってくれれば幸い、この後語る破天荒な話も『ウソだっ』と否定し辛い。


 念話通信で四方の状況を確認、足並みを揃えて話を始める。


 先ずは医療班を俺が居る指揮所テント前に並べ、呆けて見ている貧民達に回復剤の効力を説明。


 よく分かっていない者や信じていない者が多い、しかし、貧民窟は体に欠損がある奴に事欠かない。


 俺はテントのベランダから周囲を見渡し、ちょうど医療班の前に座っている鼻を削がれた女性を見つけ、彼女を指差す。


 医療班の一人が背嚢はいのうから回復剤を二個取り出し、一個を自分の口に入れ『大丈夫、甘くて美味しいよ』と微笑み、もう一個の糖衣カプセルを女性に渡した。


 伸び放題で手入れされていない赤髪、窪んだ眼孔、骨と皮だけの体、失った鼻の所為せいででミイラに見えるその女性は、ほぼ無意識に受け取った小さな回復剤を、それこそまさに無意識で口に入れた。


 効果は抜群。


 死に片足を突っ込んでいたような姿だった無気力な女が、ミイラのようだった鼻の無い女が、またたく間に正常な状態へと回復していく。


 骨と皮だけだった身体は肉付きの良い妖艶な肉体へ。無気力さを表していた光の無い碧眼に希望の光が宿り、大理石の女神彫像を思わせる美しい形の新たな鼻が醜い削ぎ跡を消した。


 視界の中央に映る自分の鼻。不健康な身体の回復などどうでもいい、再び視界に入った鼻梁びりょうの事に比べれば些事……そんな様子で鼻の先を指で触る彼女は静かに涙した。


 その光景を見ていた貧民達は驚愕、次いで、俺が拡声器を使って伝えた『治療は全て無料だ』の声で絶句。


 病人、怪我人、とにかく体に不自由・不都合が有れば言えと伝える。テント前に来られない者の所へは医療班を向かわせるので気にせず言えとも追加。


 王都四方の貧民窟が大騒ぎになり医療班や兵士達が走り回っている間、侍女達は簡易テーブルを幾つも並べて朝食の用意。料理は基地妖精の皆さん。


 テーブルに並べられた美味しそうな料理から暴力的な香りが漂い、貧民達は腹を鳴らし唾液を呑み込んだ。


 医療班の診察や治療が済んで許可を得た者から席に着かせ、無料で幾らでも食事を摂らせるむねを拡声器にて貧民窟全体に布告。


 当然だが拡声器の声は貧民窟以外にも声は届く。


 城壁外の騒ぎと第三城壁を越えて漂う料理の香り、そして無料云々、治療云々の布告……


 無能貧民に毛が生えた程度の能力と経済力しか持っていない第三城壁の平民には、拡声器で広がった内容や美味そうで食い放題の料理はかなり心に効く。


 破壊されたまま放置してある南側の城門には第三城壁の住民が集まり始めている。数名の門衛じゃぁ抑えきれない数だ、暴動が起きるなこれは。


 とても面白そうなので南以外の門も壊す事にした。なるべく静かにレーザーで溶かせと厳命、爆音が上がると近付いて来んからなっ!!


 数分後、王都を囲む第三城壁内が騒がしくなった。


 城は動かず。

 この辺はまだ予知で想定済みだろうか、まぁ頑張れ。


 そして更に数分後、案の定暴動が起きる。


 城門破壊時に門衛が巻き込まれたので肝心の城門付近に兵が少ない、または居ない。


 逃げ惑う兵士達を蹴り倒し圧殺しながら民衆が城外へ向かう。


 第三城壁の住民がそこで見た物、それは自分達よりも健康そうで生気十分な無能の貧民が、綺麗なテーブルに並べられた見た事も無い美味しそうな料理を、美しい侍女が引いた椅子に座って泣きながら幸せそうに食べている姿だった。


 平民の諸君は当然キレた。



 無能の貧民風情が何をしておるかと老人が怒った。


 貧民が口にして良い物ではないと熱く語る商人風の若大将。


 肉付きの良い女、俺が飯を食う間しゃぶっていろと大男。


 そこのアンタはウチの娼館で今夜から働きな、肥えた熟女が醜く笑う。



 俺は軽く上げた右手を降ろした。



 老人の頭が消し飛んだ。

 若大将の腹に大穴が開く。

 大男の下半身が燃え上がる。

 肥えた熟女は下級娼婦一号として獄中奉仕百年の刑。



 うむ、まだまだ楽しくなりそうだ。








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