第36話『クソアプデ……大丈夫だ、問題無い』






 第三十六話『クソアプデ……大丈夫だ、問題無い』





 異世界生活十日目、俺は久しぶりに朝のモーニングファック無しで起きた。


 メタル製錬施設の中央に建つ巨大な施設本部、昨夜はその最上階に設けられた司令長官室に泊まった。


 ベッドから出て大きな窓へ向かう。


 ……何度見ても凄い景色だ。

 これが全て自分の所有物である事実に勃起を否めない。


 ほとんど苦労せず手に入れたこの施設、いや、今俺が持つ戦力の全て、マジで神様はやっちゃった感じがする。


 与えられた力が余りにも強力だ。


 俺は身に宿ったこのゲームについて思い出す。

 あのブラウザゲームはクソだった……




 やっとの思いで貯め込んだ大量の資源を投入して指定した建造物をレベルアップさせても、中盤から『時短用課金アイテム』が無ければ絶望が待つばかり。


 資源増加や兵器開発、移動に進軍等々……時短アイテムが無ければほぼ全ての行動に余裕で数時間、多い時は三日も四日も要求される無課金殺しの厳しい仕様、まさに鬼畜ゲーっ!!


 多くのユーザーが改善を求めるも運営は『善処』を臭わせつつ最終的にスルー。


 ユーザーからの度重なる改善要求に運営が出した答えは……十一年間イベント無し・九年間これといったアップデート無しと言う離れわざでファイナルアンサー。


 無論、ユーザーは日を追うごとに消えていったが、いまだにサービス終了のお知らせが届かないイブシ銀の作品である。名作ではない。


 根強いファンが課金を惜しまないからだろうか、過疎化が進み過ぎて過疎自体が終了してしまった感はあるものの、運営もファン(笑)の期待に応えてサービス終了だけは回避する方向で頑張っている。


 勿論、この俺も根強いファンの一人だ、応援は惜しまない(微課金)


 だが勘違いしてはいけない、ユーザーが離れ始めたのはサービス開始から十日経った頃からだ。


 そう、あの日、十日目の朝、編成画面のメールボックスに運営からのお知らせが入っていた。


 不具合のお詫びだろうかとメールを開いて読む。


 そこに書かれていたのは……ログインボーナスの廃止と無料ガチャの廃止、今後は惑星所有数を競うランク制に移行、ランキング上位者のみにガチャを回せる『ジュエル』を配布、とあった。


 ジュエルは課金以外に入手手段が無い、これで無課金でもレアガチャを回せるようになると喜ぶユーザー。しかし運営はそんなに甘くはなかった。


 課金して得たジュエルと配布で入手したジュエルでは、ガチャを回した際の高レアカード出現率が七倍違っていたのだ……


 一週間もすれば圧倒的な火力を誇る課金勢が猛威を振るいだした。


 微課金者や無課金者は経験値扱い、新参の重課金勢からカモにされる始末。


 あっという間にユーザーは消えていった。

 残ったのは無双大好きマンと暇潰ひまつぶしマンだけだ。


 俺は微課金暇潰しマンだったが、危険が迫れば『無言勢加入OK』をうたう大きなクランに入り難をのがれた。


 そんな感じで十四年、最終的に一~二ヵ月に数度ログインする程度になっていたが、とうとうあのゲームのサービス終了を見る事が出来なかった。


 恐らく今も堂々とサービスを続けていると思われる。




 フッ、最上階の窓辺に立って外の素晴らしい景色を見ていたら、少しセンチメンタルになってしまった。


 ……さて、編成画面の左下で何故かピカピカ光っているメールボックスを開くか。


 十日目に届いたメールをっ、私はっ、開きます……っ!!


 大丈夫だ、ここは異世界、あの頭がオカシイ運営は居ないっ!!


 私はメールボックスをタップし、送信者不明の未読メールを開いた。



【転生者の皆様へ:明日からログインボーナスと無料ガチャは廃止となります。ダンジョンで得た素材等の換金率を十分の一に下げます。レアカード以上の出現率を下げます。魔法ガチャとスキルガチャの必要金額を上げます。以上】



 これ、神様じゃないの?

 ちょっと待って、何かオカシイ……


 魔法ガチャもスキルガチャも有りませんぞ?


 ……転生者の皆様って、そう言う事なの?

 ガチャ回せる系の転生者が他に居るって事……?


 えぇぇ……


 何と言う事だ、僕の特別感がけがされてしまった……


 グヌヌヌ、でもこれ拙者の被害は少ないで御座る?


 ログボと無料ガチャはどうでも良いし、換金率も何とかなる。


 魔法もスキルも無いからふところはそれほど痛まない……


 そもそも俺は時間を掛けて宇宙戦争に備えるつもりだしな、仮に他の転生者と同じ負担率になったとしても、特に困る事は無い。換金物資はダンジョン外で入手するだけの話だ。


 ただ、ダンジョン物資の価値が下がると、外で効率的な狩場を確保する為の争いは起きるかもしれんな。


 やれやれ、面倒だ。

 これはアホに出くわす前に足元を固めておくべきだな……


 メタル製錬施設のバフを考えると、残りの生産二施設も早めに設置したいが、上層は下層ほど面積が無い。


 しかし、食材加工と燃料精製の両施設はそれぞれの資源が豊富な中層と上層に置かなきゃ意味が無い、どうすっかな……


 何とかして中層と上層に最下層並みの面積を持つ階層を造りたい。


 尺八様に聞いてみるしかないか……


 何とか出来るなら何とかしてもらいたいね。

 俺に協力出来る事があれば何でもやってやるが……


 先ずは尺八様にmilfスキー粒子打ち込んで強化すっか。

 ロボと相性が良いスライモ粉末も大量に在るしな。


 強化後の方が何かと便利だろうし、あれこれ融通が利きそうだ。


 よし、それで行こう。


 って言うか、尺八様はダンジョン内の全てを把握しているって言ってたな、呼んだら来るのかな?



「お~い、尺八様~……」



「ンポッ?」



 尺八様が首をコテンと傾けながら目の前に現れた。

 ……可愛いかも、嫌いじゃぁない。



「……来たね、転移?」

「ンポッ(こくん)」



 ……あれ、何だろう、マジ可愛い?



「ンポッ……ン」

「え、ちょ、ンほぉぉぉ、しゅごい~」



 何故か尺八様に尺八されてしまった。

 さすがレイディの師匠、吸引力が違うひょー……







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