第35話『ヤツは歴史に学ばない系だから……』





 第三十五話『ヤツは歴史に学ばない系だから……』




 異世界生活九日目、早朝。


 昨夜はそのまま神殿の外にテントを張って寝た。

 アイスを食べられなかったケイジィは絶望していた。


 楽しい晩餐だった。


 さて、アホの絶望を回想するのは終わりだ。

 ベッドに横になったまま本日のログボを受け取る。


 うむむっ、星1の【リペアキット小×3】だな。


 小型艦を一瞬で修復するアイテムだが、現実の価値観だととんでもないアイテムだ、やったぜ。


 続けて無料ガチャ……灰色の演出、クソが。

 いや待てコレは……



「わ~い、星1【バッカスの酒瓶】ですぅ~☆」



 このアイテムは常に酒が湧き続ける謎の酒瓶、戦いの前に部隊へ贈ると戦闘終了時まで兵士の士気が高まり続ける優れもの。戦いが終わるまで酒は湧き続ける仕様だ。やったぜ。


 入手したアイテムを貸倉庫に送ウッ。

 今日のレイディは激しいな。


 昨夜、尺八様と長話をしていたが、それが関係するのだろうか?


 いつもの吸引力とは桁違いだウッ。


 さっきレイディに聞いたが、尺八様はこのダンジョンを俺達が護ってくれるなら同行しても良いと言ってくれたらしい。


 護るも何も、編成画面の自領マップに並ぶ獲得地の名称欄に【傀儡くぐつダンジョン】と言うこのダンジョンの正式名が記されている。


 俺が制圧して接収した場所を護らないわけがない。

 安心して同行して欲しウッ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「よし、この辺りを平地にしてくれ」

「ンポッ」



 攻略が済んだダンジョンではもう大した仕事は無い。朝食を済ませ、朝のレディオ体操を終え、俺達は第二十階層に在る鉱山に囲まれた少し開けた場所にやって来た。


 その場所にメタル製錬施設を置きたいので、ダンジョンの管理権をマスターに譲り受けた尺八様に頼んでフロアの改装、土地をならしてもらう。


 尺八様は俺に権限を譲ろうとしたが、管理嫌いの早漏を舐めないで頂きたい。


 今でもほぼ全部レイディ任せだ、そこにチョイと尺八様を一つまみ、そうすれば何の問題も無くほぼニート生活を続けられる、マスターなんて冗談じゃないと断った。


 ゴゴゴゴと地面が揺れ、轟音と共に鉱山が移動、地表が平らになっていく。凄い光景だな……



「レイディ、本当にこの広さが必要なのか?」

「はい、少し窮屈ですが、必要最低限の面積です」


「二十階層は縦横60kmの面積だ、その半分くらい平原になったが……」


「基本三施設はいずれもあのサイズです」


「ウソやろ……」



 四秒で建設出来る施設という物を軽く見ていたな……


 今回は編成画面の基地内でレベル上げした完成品を出現させるから建設時間はゼロだが……


 王城内でレイディに軽々しく施設設置を命じなくて良かったぁ。


 でも現実に四秒でそんな巨大施設が出来上がるとは思わんぞ?

 メタル製錬施設だけで王都方面一帯が収まりそうな規模だ……


 まったく……ファンタジーは恐ろしいなっ!!



「司令、設置しても宜しいでしょうか?」

「あぁ、頼む、あ、設置予定場所に人が居たらどうなる?」


「強制排除されます、短距離転移ですね」

「なるほど、ではオナシャス」

「ハッ」



 レイディが返答した途端に眼前の光景が変わった。


 えぇぇ、ちょっとコレおかしい……


 俺にゲーム能力くれた神様、やっちゃったんじゃねぇのコレ。


 ダンジョンの中に超未来都市が出来てしまった、あれ製錬所ですよね?



「ぼぼぼ坊ちゃん、こっ、これが坊ちゃんの隠された固有スキル、かい?」


「う、うむ」


「なんてこった、こんなもん、人が持っていい力じゃねぇ……一瞬で大都市を造っちまうなんて……」


「お父さんスゴーイ」

「おとうしゃんスゴーイ」


「ま、まぁな」


「ンポッ……ンッ、ふぅ……」



 どうやら尺八様も驚い……絶頂したようだ(困惑

 ロボだから創造系スキルが好きなのかな?



「司令、早速メタル製錬にバフが掛かりました、メタル生産量が2%上昇、おめでとう御座います」


「産出単位がmtの2%か、一万産出でプラス二百トン、二百トン増加はスゲェな……これで基地のレベルが上がって技術革新バフ覚えたらエライ事になるなぁ」


「司令、製錬所本部に参りましょう」

「お、おう、僕は今とても興奮している……っ!!」



 さぁ皆の衆、バギーに乗り込むのですっ!!

 あ、尺八様はカーリを膝に乗せて下さい、あ、どうも。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「こりゃぁまた……」


「デカすぎだぜ坊ちゃん……」

「お父さんっ、しゅ、しゅごい~」

「あちしウンコ出たい」



 突発性ウンコ出たい症候群を発症しているカーリの対処は万全だ、カーリを抱っこしていた尺八様から侍女副長ベルデが素早くカーリを受け取り、即行で展開したテントへ迅速に連れて行った。有能っ!!


 出たいウンコに出てもらい、設置されたメタル製錬施設の南側に設けられた簡素な検閲所をフリーパスで通り、施設内に入った。


 驚愕の建造物密集率、それでいて通りや建物の並びに乱雑さは無く、キチンと整理された印象を受ける。それがまた凄い。


 工業団地っぽさも無く、ただの未来的な街に見える……道路も綺麗、新品の施設だから当然だがゴミ一つ無い。


 アスファルト舗装された長い道路を眺める、その太い直線には不思議な圧を感じるな。


 ダンジョンの設定で先ほどにわか雨が降ったが、その雨が通った後の道路のにおい、嗅ぎ慣れた香りが鼻孔をくすぐる。好きな匂いだ。



「何だかあれだな、本部に入る前にこの場でボ~っと建物を見ながら一服したいところだが、残念ながらタバコはガチャで出らんな、ハハハ」


「司令、支給品の【ワイルド7】が有るじゃないですか、メイン倉庫をご覧下さい」



 レイディが不思議そうにそんな事を言う。


 メイン倉庫、つまり無課金勢が使う無料の倉庫だな。アイテムが五十個くらいしか入らんヤツ、そう言えばよく見てないなメイン倉庫。


 どれどれ……



「えっ、あっ、ホントだ……一枠に九十九本有るわ、こっちも枠の設定が変わってるのか……ポチッとな。あ、意識しなくても一本ずつ出て来るのね、ライターは……軍用ジッポが有るね、ポチッとな」



 見た目は普通のフィルター付き紙巻タバコのロングタイプ、まずは葉っぱの香りを楽しむ……っ!!


 コレは……喫煙者には分かる『良いタバコ』の香り……っ!!

 期待を膨らませながら私は火を付け、軽く一服……っ!!



「バ、バニラ、だと……っ!!」

「?? どうかしましたか?」


「ウンマァァァァァァ~イ!!!!」

「うっふふ、それは良かった」



 ま、間違いねぇ、コイツぁ高級品だっ!!



「少しずつ味わいながら残数を気にして吸う必要が有るな」


「タバコ等の嗜好品は日が変わった直後に最大数まで補充されます」


「ッッ!! ひゅ、ヒュ~、最高じゃぁん、ハァハァ」


「お喜び頂けて幸いです。しかし司令、ポイ捨ては駄目ですよ? ケイジィ少尉がポイ捨てしたら銃殺刑です、必ず、必ず殺してやる……っ!!」



 鬼の形相でレイディが酷い事言ってる……

 銃殺の脅しを受けたケイジィが驚愕(当然



「ッッ!! ヘイヘイヘーイ、ま、待ってくれよレイディさん、俺タバコなんて吸った事ねぇよ? ポイ捨てなんてした事ありませんが? むしろポイ捨てタバコを拾ってしまう側の男ですが?」


「そうですか、残念です。司令はこの携帯用灰皿をお使い下さい」


「お、おう、サンキュ……」



 レイディはポイ捨て犯に親でも殺されたのだろうか?

 僕は即行で携帯用灰皿の蓋をパカッと開けた。


 だがしかし……僕は思うんです。


 恐らく、タバコにハードボイルドを感じたケイジィが喫煙を始め、銃殺刑を忘れた頃に敷地内でポイ捨てを行い、レイディに撃ち殺される日が来るのだろう。


 僕はアホの生態に詳しいんだ。


 だって昨日レイディから理不尽にビンタされた事も忘れてるからな、ケイジィは。


 なんならご褒美だと解釈するまで有る。

 僕はアホの思考に詳しいんだ。









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