第29話『ケイジィの知り合いか、納得』





 第二十九話『ケイジィの知り合いか、納得』





 上官に対する敬意が微塵も感じられないサラ30の応答を終え、彼女の視界を借りて透明人間の行動を観察。


 ダンジョン一階エントランスの端に在る転移陣にライフルの銃口を向けるサラ30。


 転移陣が僅かに青白く輝く、転移完了か?

 数秒して転移陣の上に赤い液体がボタボタと落ちた。


 透明人間に付着した血液は透明化されるが、離れると解除される模様。片手落ちと言うか詰めが甘いと言うか、欠陥スキルだな。


 転移陣を使用すると陣が光るのも問題だ、敵陣の中で使用するにはリスクが高すぎる。


 おっと、透明人間が動いたな。


 サラ30が地面にしたたる血液を見つめ、透明人間が歩く先に銃口を向ける。



「ちょっと待てサラ、ソイツがどうやって入口を塞ぐテントを無効化したのか知りたい」


『りょ』



 軽いなぁコイツ……本当に了解したのだろうか?


 銃口は狙いを付けたままだが、トリガーを引く事は無いと思いたい。


 透明人間が出口に近付く、瀕死だと思ったが動きが軽いな……回復アイテムでも使ったか?


 ……ふむ、地面に落ちる血の量があからさまに減ったな。今は付着分が地面に垂れている状態か。


 まぁ回復手段は持っているだろうな、ネトゲを相当やり込んだ感じだったし、俺とは違って生きたままの転移組だ、色んな種類の魔法やアイテムボックス的な収納スペースに入れた大量のアイテム等がそのまま維持されていたとしても不思議じゃない。


 ん? 野郎が動きを止めた……



「司令、ダンジョン外から何らかの魔法……いえスキルが放たれました、攻撃ではありません」


「何だろうな、支援かな、透明人間が動きを止めたのは外部と連絡したからか……?」


「……そのようですね、男の生体反応がレーダーから消えました、完全に近いステルス性です」


「ふぅん、やるじゃん。でも制限付きっぽいな、時間か距離か判らんけど、目的達成までに効果が切れるようじゃ使い難い。しかし……」



 変だな、あいつらはスキルレベルカンストしてます的な実力者だと思ったが……


 あ、そうか、転移で身に付けた固有スキルってやつか、それならスキルレベルが低くて効果がイマイチなのも頷ける。まぁ憶測だが。


 さて、レーダーからも姿を消した透明人間はどう動くかな?


 テントの中に入るって事は無いと思うが……


 僅かにしたたる野郎の血を辿って観察。

 ふむ、テントの入り口には向かわず……?

 出口の端に向かった……?


 おぉ? 何だありゃぁ……穴?

 地下道かっ!!


 ケイジィから『基本的にダンジョンは不壊』と聞いていたが、出口から一歩、いや半歩出るだけで不壊効果は無効か……


 当たり前と言えばそれまでだが、出入り口の境界があやふやな点を利用されたな。



「迂闊でした、いつの間にあんな……」


「短時間で地下道を掘ったか、これもスキル臭ぇが……ダンジョン入り口とそこを塞いだテントの隙間から穴を開けて侵入……でもこれテントとダンジョン入り口に適当な隙間が在るって知らなきゃ無理な作戦だぞ?」


「予知で知っていたのでしょうか?」


「予知なら最初から地下道掘ってそうだが……それより測量的な何かのスキルかもしれん、どちらにせよ鬱陶しい事に変わりはないな」


「出し抜かれた形となって悔しいですが、侵入者がレーダーに映らなかった理由が解って良かったです。レーダー施設のレベルをもっと上げる必要が有りますね」


「そうだな、これからもっと荒稼ぎして基地周辺を完璧にしよう。よし、サラ、殺していいぞ」


『りょ。敵本陣にバズーカ撃っても良い?』


「歩兵の超長距離バズーカだっけ? あぁ構わん、ついでに王城付近に試射で一発撃ってみろ、城自体は狙うなよ、王は俺の獲物だ」


『じゃぁ城門のどれかを撃つ。司令は私のデリケートエリアを狙い撃つ、強引ね、嫌いじゃない』


「……何言ってんだコイツ?」

「……すみません、分かりません」


『目標を射殺、完了、続いて敵本陣に対戦車ロケット弾を斉射』



 俺とレイディが困惑している間に透明人間が死亡、透明化が解かれて上半身が爆散した姿を確認。対物レーザーライフルは恐ろしいな。


 サラがライフルを背中に回し、基地経由でバズーカを取り出す。ベランダや窓辺に立つ砲兵がサラに倣ってバズーカの照準を合わせた。


 レーザー兵器ではなく物理ロケット弾による攻撃だ。


 本来の砲撃なら計算やら何やらで高度な訓練が必要だが……


 レーダー施設による遠距離照準能力と目標射撃能力の向上、距離計算も完璧、ド素人の俺が撃っても当たるなこれは。



『撃て』



 威厳もクソも無いが何故か鋭いサラの号令、それと共に数十のロケット弾が空を舞う。ロケット花火みたいで面白い。


 続けてサラのみ体の方向を変え、基地から新たにバズーカを取り出し、二秒ほどで狙いを定めトリガーを引いた。ハッチャクの姉をヤった兵士の仲間に当たると良いな。


 遠くの林から爆発音が響いた。

 スゲェ土煙だ……討伐隊は全滅か?


 いや、今回は物理攻撃だから敵側にもワンチャン生存が有るか。


 早速レーダーを確認……うん、かなり生き残っている。

 生き残った奴らは高速で撤退開始、これもスキルかな?

 まぁ逃げる奴らはどうでも良い、いずれ俺と戦って死ぬ。


 そんな事より、この砲撃を防いだ手段は……


 おやおや、向こうにもマトモそうなのが居るじゃないか。

 コイツらが何かやったな、魔法障壁でも張ったか?


 しかし……殿しんがりを務めて仲間を逃がすとは大したもんだ。


 自分で残ったのか命令されて残ったのかは分からんが。



『司令、魔法障壁を張ったと思われる敵兵二名を視認した、粒子レーザーなら障壁を貫通出来る、どうす……敵兵二名が両手を上げて膝を突いた、撃っていい?』


「捕虜にする選択は無いのか、まぁ、撃って……いや待て、何か叫んでるぞ?」




『待ってくれっ、降伏するっ、俺はハンターギルドの元ギルド長だっ、敵対の意志は元々無いっ!!』


『同じくっ、私もギルドの元副長ですっ、私達は勇者の隷属スキルで体の自由を奪われ捨て駒にされましたっ、魔王様に敵意は有りませんっ!!』


『魔王様よっ、アンタなら俺達に掛けられたスキルを解除出来るんじゃぁないかっ、頼むっ、助けてくれっ、知っている事は全て話すっ!! なんならケツも差し出すっ!!(ハァハァ』


『魔王様はハンターのケイジィと行動を共にして居りますでしょうっ、私共は彼と仲良しですっ、ちなみに私は彼の筆下ろしを――痛っ、何ですかギルド長っ、今大事な話をしているんですっ!!』




 何だこの全裸男と半裸女は……


 取り敢えずケイジィを呼ぶか、ハァ……











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