第28話『テメェは俺を萎えさせた(怒』





 第二十八話『テメェは俺を萎えさせた(怒』





 勇者が進入して来たと思われる第十五階層のボス部屋前、俺達は三つの大型テントを張ってボス部屋の入り口を半円形に塞いだ。


 大型テントと言っても、表面は強化フェラミックとか言うフザケタ名前の頑丈な素材で出来た硬い壁、その上小さめの古城や砦を想起させる威容、それを連結させればそれはもう即席城壁と変わらん。


 俺達はその連結テントに入って目標の動きを注視しつつ、後続に連絡を取って十階から上がってくるかもしれない敵の奇襲に備えさせた。


 テントのベランダや窓際には狙撃兵が待機、ライフルを構えてその銃口をボス部屋入口の大門に向けている。


 テントに入りきれない一般兵は編成画面内の基地内に一時撤収、戦況に合わせてレイディがポイント出撃させる。


 備えは万全、あとは目標の出方を待つのみ。


 俺は中央のテントに設置された司令長官室の椅子に腰掛け、隣に立ち目を閉じて俺の脳内基地とリンク中のレイディと共に、配下のアンドロイド達が見ている数十の光景を編成画面を通して見ていた。


 うむ、アンドロイドと編成画面のタッグが優秀過ぎて草。


 しかも、レーダーの索敵機能でボス部屋内の様子が手に取るように分かる。


 ボスを始末した勇者三人は集合して何やら話している模様。この会話の内容も押さえられたら文句なしなんだがな。小型諜報機の開発を急がせるか。


 ……おや?


 勇者が一人……離れた?

 一人が奥の部屋に引っ込んだな……

 そいつはそのまま動かない……?



「あそこは……転移陣が在る部屋かレイディ」

「そのようです、逃走経路の確保でしょうか」


「ふむ、一応の保険か? 取り敢えずコイツは転移スキル所持者である可能性は下がった、転移スキルが有るのに転移陣の部屋に居ても活躍の場が無い。それとも確実に逃走出来る態勢を取る必要を要す人物か……」


「または敗走時に転移陣を我々から守り通す殿しんがりとしての配置、だとしたら無意味な作戦ですね、まさに犬死」


「たった三人で乗り込んで来る時点で犬死だ、ダンジョン入り口も突破出来ん奴らが何故三人でイケると思ったのか、理解に苦しむ」



 舐めプをして良いのは舐められる覚悟が有る奴だけだ(キリッ


 ちなみに俺は舐められるのが大嫌いだ(キリッ


 目を閉じて横に立つレイディのプリケツは大好きだ(キリッ


 何故かお尻を向けてきた秘書官に賛辞を贈りたい(キリッ


 そのまま前屈して床のゴミを拾う姿勢になりつつ、うっかりズボンのベルトとフックが外れ、流れるようにファスナーが下がると同時にズボンもズレ落ちる女性を嫌いになれるか?(キリッ


 否だ、断じて否であるっ(勃キッ


 私は常々思っていた、『Tバックのズレは至高、戻すから』であると、これは座右の銘と言っても過言ではない。


 しかし私は司令長官、我が軍の最高責任者である。


 故に、部下が履くTバックのズレは直してやらねば司令の名折れ。


 私はそっと右手を伸ばし、菊門のズレた所に指を――



『こちらケイジィ、門が開くぜ、どうぞ、なんちゃって!! この通信魔法は便利だなぁ坊ちゃん!! まぁそっちでもこっちの状況は把握してるんだろうが、この通信を使いたくてさっ!! で、るのかい?』


「……あぁ、こんなに殺したいと思ったのは初めてだ」

「同感です、司令。ヤツは私を怒らせた……」


『ヒュ~、殺る気マシマシじゃぁんオフタリさ~ん』



 その時、レイディの頭部から何かがキレる音が聞こえた。


 お蔭で俺は冷静になった。


 よく考えてみれば膝の上にカーリが座ってクンクンしてるし、俺の左隣には顔を真っ赤にしたネイが俺達をガン見していた……


 危ないところだった、アホの犠牲によって私は過ちを犯さずに済んだのだ。


 戦闘終了後はレイディからシバキ上げられるであろうアホ。


 アホによる身を挺した戒めを私は決して忘れない……(キリッ




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ずびばぜんでじだ、がんべんじでぐだざい……」


「作戦行動中の勝手は赦しません、次は無いと思いなさい」



 シバキ上げは戦闘終了後じゃなかった、むしろ戦闘前にシバキ回していた。


 アホなケイジィは倒れる暇を与えられず、気絶も叶わず、ひたすらレイディから制裁を加えられた。死なないのが不思議でしょうがなかった。


 血を撒き散らしながら宙を舞うケイジィだったが、彼を助けようとする英雄は現れなかった。って言うかアンドロイドは全員が視線を門に固定する方向で飛び火をかわした。優秀っ!!


 男キッズは俺の背後に隠れていたが、女キッズはキラキラした目でレイディを見ていた。レイディママ頑張ってとか言ってた。


 血を流す保護者を見て目を輝かせるポイントが解らない……


 大丈夫? ミルフスキー細胞にかなり頭をヤられてない?



 俺が広いベランダに立ち女の子達の頭を心配していると、護衛統括のテツロオ大尉(完凸星3)が戦況報告に来た。



「閣下、門が開きましたが目標を視認出来ません、しかしレーダーには門を出て静かにこちらへ近付く生体反応が二つ映っております」


「う~ん、ステルスとか認識阻害とか透明化とか、三人のうち誰かが使えるのかな? 転移陣に居るヤツが二人に掛けて待機……この線も有るな」


「して、どのように致しましょうか?」


「ん? 予定では視認後即殺だったな、まぁ視認は出来んでも居場所は分かってる、殺せ」


「ハッ。アザン少尉、撃て」


『了解、狙撃隊、撃ち方ぁ始めぇっ!!』



 アザンの号令で狙撃兵が一斉射。

 ベランダや窓から幾十もの青白い光線が放たれた。


 門前の何も無い場所からドス黒い血が吹き飛ぶ。


 断末魔の叫びを上げる時間も無く、二人の勇者は死んだ。

 その死体すらまともな状態で残されてはいない。



『突入っ突入っ!!』



 サーベルを掲げたアザンが小隊を率い先陣を切ってボス部屋に流れ込む。迅速な行動に反して足音は無い、静かだ。


 俺は編成画面でボス部屋の様子を窺う。

 視点は先頭のアザンで固定、画面の揺れが酷い。


 奥の部屋にアザンが飛び込む。


 転移陣の上には驚愕する男が居た、見たツラだ。

 俺を指差し笑ったヤツらの中に居た、見覚えあるツラだ。


 男は急いで自分の姿を消した。

 いや常に消しとけよマヌケ。


 取り敢えず、コイツが透明化のスキルホルダーか……レーダーが有っても鬱陶しいのは変わらん、死んでくれ。


 アザンは男が居た場所に向けて左手でレーザー銃を撃ち、右手のサーベルを横にいで攻撃範囲を広げた。


 男が居た場所から血が噴き出し、奥の壁から煙が上がる。


 レーザーは腹部の辺りを大きく抉って貫通した様子。

 続くサーベルは手応え無し、空を斬った。


 転移したようだ。



「一歩遅かったか、残念。ご苦労だったアザン」


『クッ、申し訳ございません』


「いや、十分だ。転移陣警護の部隊を回す、お前達は戻って休め」


『ハッ』



 さて、一階層の転移陣に血塗ちまみれの透明人間が居るはずだ。



「後始末は頼むぞサラ30」


『りょ』




 ……りょてお前、りょは無いやろ、無いわ~。









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