第26話『意味の無い設定だよ』

 




 第二十六話『意味の無い設定だよ』





 なんだってーっ!!

 貸倉庫にエアバイクがっ!?

 ちなみに無課金倉庫はたったの二十枠です。


 取り敢えずそんな物を入れた覚えはないが……?



「編成画面の基地映像を注意深くご覧下さい、よく見るとあの有名なフォンダ技研が開発したエアバイクに乗っている隊員が居ります」


「いや知らんし」



 画面上のキャラが小さすぎて気にもしてねぇよ……クソ細ぇ道を自転車でウロチョロする棒人間にしか見えん。


 そもそも注意深くつよく見なければ分からんモンを表示するな……


 それに『あの有名なフォンダ技研』とか言われても……



「バイクは貸倉庫の車両欄に入っております、ご確認下さい」


「車両欄……?」



 車両欄ねぇ……そんなものゲームで無かったよね?


 これも異世界仕様だろうか、あ、本当だ、倉庫の中身が種類別に分けられて親切な作りになってるじゃないですかヤダー。


 ほほぅ、何やら色々追加アイテムが有るな……


 俺の記憶によると、貸倉庫はログボ等の配布アイテムで埋まっていたハズだが……何か貴重品っぽいのがチラホラ……


 いや待て、俺がやっていたゲームデータと同じとは言えんか。


 爆死後の再構築とやらで初めからやり直し的な感じだしな、本来ならレイディは完凸状態で持ってたし。


 とりあえず車両欄を確認しよう、タップします。


 …………何、だとっ!?


 枠が、最大四百までだった貸倉庫の枠が……

 無制限になっているじゃないですかっ!!


 ヒュ~、こいつぁゴォ~キゲンだぜぇ!!


 薬品等の小物は一枠99個、バイク等の大物や人物カードは一枠消費、ゲームでは小物を輸送用コンテナに入れて一枠使えば上限の99個を無視出来たが……おぉ出来た。


 良し、ゲームの設定通りだ、ラッキー。まぁ枠が無制限になったからこの裏技も有難みは減ったがね。


 これは実質アレだ、いわゆる収納系スキルと同じだな……

 魔力やらMPやらとは無関係だから使い勝手は上か?


 ヤベェ……楽しくなってきた。


 あ、そうだキャラ欄は……何も無い、消えてる。


 キャラ強化エサ用の星1と星2キャラがクソほど入ってたんだけどなぁ……でもまぁ今の俺なら一時間の稼ぎで当時のキャラ数を軽く超える程度にガチャを回せるし、気にする必要も無いな。


 おっと、そんな事よりエアバイクを倉庫から出すんだったな、枠の無制限化にいささか興奮してしまった、面目無い。


 一先ず、胸躍る少年心を抑えてエアバイクを出す。


 車両欄の……一番上のコレだな、タップ。

 ついでに格納庫からアタックバギーも、ほいっ!!


 子供達が見守る中、何のエフェクトも無く突然出現するスペースファンタジーな物体。


 レイディがテキパキと指示を出し、子供達に随行する侍女と護衛を何組かに班分けする。


 班が決まったらバギーに乗り込んで試運転。子供達は大喜びだ。


 今回俺は一人でエアバイクに乗るので、ネイとカーリはレイディとバギーに乗る。


 このバイクは二人乗りも出来るようだが、ネイとカーリが後部座席の取り合いをしそうなので一人で乗る。


 幼女二人が悲しそうな視線を送ってくるが心を鬼にして「ダンジョンを出たら乗せてやる」と、正確な日時を伝えない曖昧で卑劣な大人の話術で我慢させた。



「しかしこのエアバイク、斥候車両としては目立つな……」


「我が軍の軍用車両は透明化迷彩標準装備車です、ご安心を司令、クスッ」


「そうか……」



 幼女二人と手を繋いだレイディが優しく微笑む。


 何だろう、この『仕事に行く僕を見送る美人妻と娘達』的な雰囲気は……仕事の前に教育的性指導を一発どうですかと言わんばかりの、もう少し子供を増やしませんかと言わんばかりの挑発的で妖艶な微笑みは……


 クッ、お前は少し早漏提督の心と股間に配慮しなさい……

 まったく、上官への敬意を忘れた部下はこれだから困る……



 アッチャ~、いっけねぇ、お父さんちょっと寝室に忘れ物をしてしまった、お母さん、一緒に取りにイクぞ、ハァハァ……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ……ふぅ。

 お母さんに困ったもんだ……


 まさか彼女が忘れ物を探す為にベッドの下を覗き込み、やたらとケツを突き上げた四つん這いの体勢になりつつ自然に腰のベルトが外れてズボンがズレ落ち、尚且なおかつ下着は食い込みがエグい黒のTバックを少し横にズラして履いているだなんて……天才かな?


 お蔭様で探し物はピュピュッっと四十二秒で見つかった。


 僕は早くて定評が有るんだ、早漏提督を舐めないで頂きたい。



 探し物を終えてテントの外に出ると、カーリが鼻をスンスンさせてきたが、大人の狡猾で巧妙な話術を用いて難なく回避。


 更に、俺と並んで歩いていたレイディが優しい笑みを浮かべながら華麗に幼女二名をバギーに連れて行く。まさに阿吽の呼吸。


 キッズに有無を言わさぬ自然な流れ、堂々としたその立ち居振る舞いはさすがだ、司令長官を秒殺した女傑は面構えが違う。


 彼女達が侍女と護衛をお伴にバギーへ乗り込んだのを見届けて俺も漆黒のバイクにまたがる。


 ふむふむ、良い座り心地だ。


 サイドミラーに映る俺の若い……美貌じゃぁん、こんな顔だったのか。



 自分の顔をペタペタ触っていると、バギーの窓を開けたレイディが話し掛けてきた。



「司令、出発前に第一種戦闘服に着替えられてはどうですか? 現在は礼服です、貸倉庫をご確認下さい」



 あぁ~、服ね。

 なるほど、ではそうしよう。


 え~っと、第一種戦闘服、第一種戦闘……コレか、タップ。

 むむむっ、着替えが一瞬で終わるのは素敵ですね。


 どれどれ、バギーの窓に映る自分の姿を確認。

 ヒュ~、イカしてるじゃぁ~ん。


 地球のポピュラーな軍服よりはかなりタイトだが、光を吸収しそうな謎の繊維を使用した黒一色のいかにも特殊部隊って感じの戦闘服、胸や関節等を護るプロテクターも未来的ですね、好き。


 では、行きましょうか。


 バギーの運転席に座ったレイディがこちらを見つめ出発の指示を待つ。


 俺は他のバギー班を確認して頷いた。

 準備は出来ているようだ。



「出るぞ」

「ハッ、出発」



 レイディが号令を掛けると護衛部隊が先頭を進む。


 俺とレイディ達のバギーを囲むように残りの各班が集まって前進。


 宙に浮くマシンは振動も無く乗り心地は抜群に良い。


 心地良い風が少し長めの黒髪を撫でつける……素敵やん。


 フォンダ技研製軍用エアバイク【NS-SEX/0721】……


 基本的に自動操縦で楽チン、少しお転婆だが……良いバイクだ。


 ジャジャ馬は嫌いじゃぁない。行くぜ相棒っ!!


 湿地を音も無く疾走する鋼鉄の猛獣、極限まで空気抵抗を無くした漆黒のボディに鬼が宿る。


 ヒールか、ヒーローか……

 その愛機ウマの名は……ナイスシャワーっ!!


 飛ばすぜナイスシャワー、次のコーナーは時速10km以下でお願いします。このままでは僕が吹っ飛んでしまいます。


 高出力ミルフスキー核融合エンジンをブルンと震わせ、愛機ナイスシャワーは速度を落として優しく右折した。お利口なAIだ、好きです。



「司令、そのと司令は相性が良いようですね、彼女の電子頭脳から≪お兄様大好き≫と喜びが伝わってきます、大切にしてあげて下さい」


「お、おう、了解した」



 女の子設定だったのか……何の意味が?

 大丈夫かフォンダ技研……





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




新作も宜しければどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/16817330669267314715


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