第24話『ティッシュが足りんよ何やってんのっ!!』
第二十四話『ティッシュが足りんよ何やってんのっ!!』
【魔王討伐隊野営地にて】
早漏提督がレイディから戦況報告を聞く少し前、ダンジョンから3kmほど離れた討伐隊の野営地、その端に集まる数名の異世界勇者達が、周囲を警戒しつつ声を潜めて話し合っていた。
「魔法もダメ、物理もダメ、魅了スキルも隷属スキルも効かない、今のところ打つ手が無い」
「とんでもねぇな、追放サレキャラってのは……」
「小林の【予知】も熟練度が低すぎてアテにならねぇ……」
「そもそも俺達と同じ日に召喚されて彼だけ無能なワケがない、当日俺の鑑定スキルを弾いたのは彼だけだった、鑑定の宝珠が無反応だったのは当然だ。愚かだよ王宮は」
「明確な敵対行為をしなくて助かったな」
「あの日、彼を指差して笑っていたのは……」
「あっちで明日の一番槍を譲れとモメているユウタ達だ」
「おかしなもんだ、俺達は追放された彼から何の被害も受けていないと言うのに、ユウタ達は楽しそうに彼を殺そうとしている……もう俺達はゲームの中のキャラクターじゃぁないんだがな」
「そうだよ、あの人達オカシイよ、気持ち悪い……オフで会った時は大人しそうな学生さんだったのに……」
濃い紫色のトンガリ帽子を被った小柄な魔法使いの少女『アーたん』が不満を漏らす。周りに居た者も同調するように溜息を吐いた。
「……
そんな時、召喚された者の中で最年長の大男、赤い髪に隠れた隻眼と筋骨
「山さん……」
「でも
「国の周囲は異民族に支配されてるって聞くし……」
「何処でも良いさ、何なら異民族の所に自分を売り込んでも良い」
「……それもアリですね、追放の彼には勝てる見込みが有りませんが、異民族の勇者とやらに私達が引けを取るとは思えない」
「まぁなぁ、追放さんのあの物量チートと意味不な結界には乾いた笑いしか出らんが……そうか、異民族の所に転がり込むのも悪くねぇ」
「でも山さん、いつもドッシリ構えてるアンタが急に出奔を口に出すとはなぁ、何か理由が?」
山さんの隣に立つ金髪碧眼イケメンの狩人エルフこと『モッちゃん』が不意に問う。ただ何となく疑問に思った事を聞いた。
山さんはダンジョンの方へ一度目を
「……俺ぁ、俺ぁ彼の、彼が着ていた軍服を知っている」
“““ッッ!!!!”””
驚愕する一同。
山さんは彼らの反応に苦笑し話を続ける。
「初め見た時は気付かなかった、彼の事はあまり気にしていなかったしな、だが、小林の予知を聞いて彼の容姿を頭の中で
「な、何を?」
モッちゃんが生唾を飲みながら答えを促す。
山さんは乾いた唇を下で舐めて口を開いた。
赤髪が頬に流れる汗に張り付く。
「彼は、彼の軍服は……大宇宙大戦で大戦果を挙げた司令に贈られる特別な長官服だ……つまり、彼が俺達と同じようにゲームの影響を受けた能力を手に入れたとするならっ……」
「だ、だとしたら……?」
「恐らく、彼は、
「いや待て山さん、それはさすがに――」
「モッちゃん、あのダンジョン入り口に居た黒い奴ら……あれ全部アンドロイドなんだぜ、しかも明らかに【ガチャ産】だ、信じられるかい?」
「それって……」
「あぁ、ガチャ回せるんだよ彼は、兵隊は無限湧きに近いぜ多分。奴らの装備品もガチャ産だ……既に『対宇宙』の『軍』を持ってんだよ、俺達とは規模が、スケールが違うんだ……」
「何だよ、それ……」
「彼の能力となったゲームが俺の知るそれなら……宇宙船や巨大施設が秒で出来るぜ?」
山さんの話を聞いた一同が息を呑む。
魔法使い少女のアーたんがピンクのお下げ髪を振り回しつつ周囲を確認し、盗み聞きの心配を払拭してから山さんの前に一歩出た。
「ここに居る皆で逃げよう、このままじゃ私達も巻き込まれて死んじゃう。ユウタ君達には黙って行こう、あの人達少し変だよ、絶対に衝突する」
「アーたん……ふぅ、そうだな、アイツらには悪いが付き合ってられねぇ、皆はどうする?」
「行こう」
「山さんと一緒に行く」
「そうだね、ここに居る皆で行こうよ」
全員が出奔に同意。
しかしモッちゃんが懸念すべき点を挙げた。
「でも山さん、俺達の動きは小林の予知でバレるんじゃ?」
「問題無い、運良く小林ちゃんは聖女ちゃんと城に戻された、彼女が予知出来る時間的範囲と空間的範囲はまだ狭い、彼女が知る頃には既に俺達はここを離れ彼女の予知範囲から抜けている」
「オッケ、安心して脱出出来るぜ」
その日の深夜、討伐隊の野営地から八名の異世界人が姿を消した。
野営地に残された地球人勇者達はそれを『追放魔王が拉致した』と邪推して怒りを見せたが、数時間後に真実を知った小林由貴子は何も語らなかった。
七名の仲間を引き連れ、山さんは東へ走る。
キモデブニートの四十八歳こどオジだった過去は捨てた山さん、そんな彼を月の光が優しく照らしていた。月の光を反射していた悲しき頭頂など既に無い、そこにはハードボイルドな赤髪が有るのだから……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【八名を追う追跡隊の休憩地にて】
東へ走る山さん達を追う二十六名の追跡小隊。
山さん達が明け方休憩を取ったタイミングで同時に部隊を止める。
「彼らは宿泊施設を利用しませんでしたね、隊長」
「足跡を残さん為と、逃走速度維持が目的だろうな、誰一人文句も言わず纏まりが有って良いチームだ。さて、俺達も少し休憩しよう。副隊長、見張りの班分けを頼む」
「ハッ」
追跡小隊の隊長『ストーク』が隣に並んで双眼鏡を覗く女副隊長の『メリー3』に指示を出した。
メリー3は指示通りにテキパキと仕事を
二人は地面に腰を下ろし、注意深く双眼鏡で目標の動きを注視する。隊を率いる二人は休憩中でも気を抜く事が無い。
「……ッ、隊長、目標AとCがセクロスを開始しました」
「……あぁ、そのようだな。BとDも、いや、四組に分かれて始めやがった、全員が違う場所でセクロスだ。国境目前で気が緩んだか、まぁ分からんでもないが、少々ヤりすぎだな」
「な、なんとハレンチな……っ!!」
「GとHを見てみろ、まるで獣の交尾だ」
「す、すごい……ゴクリ、あんなアクロバティックに」
「フッ、しっかり録画しておけよ、これも勇者の生態調査だ」
「か、畏まりましたっ……あっ、男Gの方が分身をっ!!」
「……ヒュ~、単独で二穴責めとは恐れ入る、あれもスキルか」
「た、隊長、私、何だか、あの、下腹部がムズムズします……っ!!」
「……馬鹿野郎が、訓練が足らんな」
「すみません……」
「……しゃぶれ」
「……ポッ」
追跡分隊の規律はとても厳しい、しかし、愛で溢れている。
『はぁ……司令、これは厳罰ですね、まったく』
「休憩中だ、大目に見てやれ……しかしマジスゲェな分身ファック……」
追跡分隊の行動を把握するのは上官の務め、早漏提督はゆっくりとズボンを下ろし、編成画面に映された光景を
「レイディ、ティッシュ……は枕元に有った、サンクス」
『どういたしまして』
秘書官たるもの司令長官に不自由させてはならない、ティッシュは池田さんに頼んで用意済みだ。
ちなみに、枕元にティッシュを置いたのはカーリだ。
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