第21話『チートだな、卑怯だぞっ!!(つ鏡』





 第二十一話『チートだな、卑怯だぞっ!!(つ鏡』





 第十一階層は広かった、編成画面のマップで見るとその広さが理解出来て面倒臭さが増したので、子供達の経験値を適当に稼ぎつつ下り階段まで一直線に進んだ。


 階段前の広場で昼食を摂り、休憩を挟んで階段を下りる。


 第十二階層はまた広大な湿地、ここも階段まで一直線。調査や全体の掌握は攻略後の大部隊に任せる。


 十二階の魔物は十一階と同じ、大きな両生類が出てきた。


 子供達は慣れた様子で狩る、獲物が消えるとオヤツタイム、その繰り返しだった。


 十二階は十一階より広い、下り階段に着いたのは十七時過ぎ、予定より攻略速度は遅い。


 だが焦る必要も無いので本日の攻略は終了、俺のテントを壁際に張って子供達を中に入れる。


 テントの外で大人達は立ち話、その間、レイディがアンドロイドの斥候隊を編成して第十三階層の下見に送った。



「そう言やぁ坊ちゃん、坊ちゃんの体の周りに有る障壁は魔法も効かないのかい?」


「魔法……どうだろうな」



 どうなんだ?



『魔法と言うモノが原子で構成された物質を使ったモノならば防ぎます……しかし、そうですね、テツォ星人が使う念力のように非科学的な攻撃を完全に防御出来るかは……』



 え~っと、つまりアレか、精神とか時間とか空間とか、いわゆる非物質の攻撃はヤバいかも、って事か?



『申し訳ございません、早急に対策を練ります』



 いや、別に謝る必要は無い、俺も油断してたし。

 まぁ対策は急いだ方が良いが。



「ケイジィ、精神攻撃とが時空間魔法とか、あとは……そうだな、即死魔法みたいなヤツの存在を知っているか?」


「あぁ知ってる、魔法よりは固有スキルの方がそっち方面は多いな。それこそ異世界勇者様の得意分野だぜ、まぁ勇者様の数は少ねぇし会う事もねぇだろうが、坊ちゃんの障壁を破りそうなのがそれだとしたら……安心は出来ねぇな」


「そうだな」



 お城に勇者が三十人くらい居たんですがそれは……


 しかしそうか、固有スキルか……要注意だな。

 俺の能力はチートだがスキルは無いからなぁ……


 いや、俺のゲーム能力自体がスキルか?



『司令、斥候隊が第十三階層でハンター集団を発見しました、全員が黒いバンダナを頭に巻いております……進行方向は南、昇り階段へ、全員武器を構えて警戒態勢です』



「黒いバンダナの集団?……知ってるかケイジィ」


「そりゃクランだ、ハンターが集まって出来た集団だよ。複数のパーティーが集まって出来る場合が多い、黒いバンダナを付けた集団なら盗賊上がりの【黒光りコックス】だ、間違い無ぇ」


「そいつらが武器を持ってこちらに向かっているようだ、警戒しながらな」


「……帰還にしちゃぁ物騒だな、いや待て、アイツらはこないだギルドで見た、俺達より深く潜ってるって事は、ダンジョンの転移ゲートで十五階層か二十階層に潜ってたのか……?」


「何で十五か二十階なんだ?」


「転移ゲートは十と十五と二十階のボス部屋に繋がる、ゲートを使うには希少な転移石ってのを使うんだ、クランなら大体持ってる」



『司令、斥候隊が盗聴に成功……奴らの狙いは我々の捕縛、もしくは殺害のようです。斥候隊に殲滅させますか?』



 俺達の捕縛……?

 思い当たる点が多すぎるなっ!!


 でもどうやって俺達の居場所や情報が判ったんだ?



「ケイジィ、クランの目的は俺達の捕縛か殺害だと判明した。俺達の情報があちらに伝わった方法に心当たりは有るか? あ、お前を疑っているわけじゃないからな?」


「ハハハそりゃどうも。う~ん、そうだなぁ、ダンジョン前に在った警備隊の砦には記録の魔道具が有るが、あれは子供達の乱射で撃ち抜かれてたし、もし無事に回収されていたとしても、俺達が居る階層までは知りようがない……」


「ふむ、続けたまえ」


「う~ん、俺が思うに、それこそ誰かの固有スキルじゃねぇかな、予知みてぇな?」


「ほう、予知か、そりゃ回避出来んな」


「それで、十五階層から上って来たんじゃねぇか? 多分挟み撃ちだぜ、十階からも下りて来てるはずだ」


「なるほど、良い読みだ、後で缶ビールをやろう」


「ヒュ~、ごっそさぁ~ん」



 レイディ、上の階へ部隊を送れ、隊長格以外は殺して良い。バンダナ集団も同様だ。尋問も念入りにな、俺は子供達と風呂入ってメシだ。



『畏まりました。部隊を派遣後、隊長格の捕縛及び戦闘員の殲滅を実行します』



 よろしくな。


 さぁて、今日の晩飯は何かなぁ?

 池田さんに期待せずにはいられない……っ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 【王城の晩餐会場にて】




「あっ……」

「どうしたの小林ちゃぁ~ん」



 白いマーメイドドレスを着た金髪碧眼の美女エルフ、地球から召喚された『小林由貴子ゆきこ』が食事を中断し唐突に小さな驚愕の声を上げた。


 由貴子の隣に座る桃髪碧眼の美男子天使、由貴子と同日に先日召喚された『大森天使えんじぇる』が背中の白い翼を揺らし、白く輝く絹の腰巻だけを身に付けた姿で由貴子の肩を抱きつつ問う。



「ディナーが不味マズかったのかなぁ~?」



 大森と由貴子の会話に耳を研ぎ澄ます会場の一同。



「違う……【追放の魔王】に、バレた……」

「……ッッ!!」



 由貴子の言葉にざわつく晩餐会場。



「チッ、マヌケ共が」

「言わんこっちゃない……」

「やっぱ俺達勇者が行くしかない?」

「アイツ無能なんだろ? どうなってんだ?」


「そ、それで小林ちゃぁん、ダンジョンに入った奴らは?」


「……全員死ぬ、二人生き残るけど……生還は――」

「なっ!! ぜ、全員死ぬって……何で……」



 静まり返る会場、周囲の視線が由貴子に集まった。



「魔王は眷属を呼んだ、凄い数の眷属、とても強い……」



 天使大森の問いに淡々と答える由貴子。

 楽しい晩餐会場を重く張り詰めた空気が支配した。


 国王や宰相は白目を剥いて失禁、侍従や侍女が慌ただしく駆け回る。



 そんな中、会場の端にたたずむ二人の男女は重い空気をものともせず己が道を行く。



「マルデビッチ、あの天使勇者、腰巻の下は……」


「お察しの通り、ノーパン……しかも包茎、我慢汁少々、完璧です」


「ッッ!!……ふぅ、魔王討伐隊の編成は、分かってるな?」

「うふふ、勿論ですわギルド長、既に手は回しております」


「さすがだな、マルデビッチ」

「いえいえ、サポートは私の仕事ですので」



 翌日早朝、新たに編成された魔王討伐隊がダンジョンへ向かった。












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