第17話『不穏な動き(意味深』





 第十七話『不穏な動き(意味深』





 異世界三日目、午前八時、ダンジョン六階層のジャングル。


 三日目のログインボーナスでレイディが二凸になった、順調だ。


 今日は早朝から子供達はレディオ体操、軽快なリズムがテントの外部スピーカーから流れ、アザンのキビキビとした号令と共に体を動かしていた。


 レディオ体操が終わると、体操前に子供達へ配られていた体操スタンプカードに『ニコニコマーク』のスタンプが押されていく。


 スタンプを三十個貯めると『池田お姉さん(四十八歳独身)のイチゴショートケーキ』が貰える仕組みなので、子供達は間違い無く皆勤を果たすと思われる。


 テント入口前はそんなほのぼのとした雰囲気だが、その数歩先は凄惨だ。就寝中にテントへ近付いて来た魔物やハンターのしかばねが山積みされている。


 警告を無視したハンターは処分しろとレイディが命じていた、死んだハンターの数を見るに警告無視が多発した模様。この巨大なテントにただの庶民が寝泊りするわけなかろうに……


 ひょっとして、国の情勢がアレなので、貴族等の権威や権力が意味を無くしているのか? 有り得ん話ではないな。


 貴族を殺して貴重品を奪い異民族の支配域に逃げ込めば、この国としては手が出せんだろう。異民族に捕まるリスクは有るが、国の兵に捕まって全てを失うなら、よりリターンの高い方を選ぶ……的な?


 どちらにしろ国が亡ぶのは時間の問題、被征服民の扱いは奴隷と決まっているようだし、少し頭のアレな奴等なら強盗を躊躇する事も無いか。


 しかしそれにしても頭が悪すぎんか?


 一斉に殺されたならまだしも、先に殺されたハンターや魔物の死体を見ているはずだ、それなのに突っ込んで来たのか?



『深い階層に居た強者達ほど帰還に時間が掛かり後から来ますので……』



 あちゃ~、低ランクの奴から順に向かって来て死んだと。


 なるほど、それで警戒が甘くなってあなどったわけか……



『それ以上に欲がまさったようです。テントの護衛も武器を抜かず警告が先でしたから、この国の常識からすると弱腰に見えたようで』



 いやいや、だから先に来たハンター達は殺されてるだろって、弱腰って何だよ……あぁ~、そこで欲が勝ったわけですな。アホくさ。



『司令、テント入口付近の死体は回収しました、次の場所へ向かいましょう』



 はいよ~。


 って言うか、回収出来る距離と範囲が広がったな。



『基地レベルが上がったからですね、偵察機が有ればもっと広がるかと』



 ふぅ~ん、このダンジョンを攻略したら開発すっかぁ。


 あ、そうだ、どうせ一日で森が再生するならこのフロアの木は全部伐採して回収しようぜ!!



『手の空いた護衛達に伝えます』



 よぉ~し、やいケイジィ、お前ちょっと伐採して来い。


 範囲? 全部だよ、『え?』じゃねぇよ、あくしろよっ!!


 ベルデに挿入後一分でイク時みたいにあくしろよっ!!


『ッ!! 何で知っ』じゃねぇよ、あくしろよっ!!



 まったく、絶頂は早いのにノロマな亀だなっ(ドヤァ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




【王都ハンターギルドにて】




「まだ誰も戻って来ない……か」

「ええ、誰一人、一階層で活動するルーキーすら」



 王都ハンターギルドのギルドマスター室、安物のタバコを咥えたスキンヘッドのギルド長『肛門壊しのショアタニアス』が、その大きな背中を椅子の背もたれにゆったりと預け、青い瞳を鋭く天井に向けたまま巨大な両足を机の上にドカリと置いた。


 ピカリと光るショタニアスのハゲ頭を眩し気に見つめ、美しい金髪ときらめく碧眼の爆乳美女たる副ギルド長『千の竿サオ兄弟を持つ女マルデビッチ』が肩を竦めて首を振る。


 首を振る彼女の仕草に合わせて揺れるその巨大な乳房にショタニアスは吐き気をもよおした。マルデビッチが着る白いブラウスの胸部分は乳房を包み込む形をした特別仕様、男子の夢がそこに在った。



「ェップ……はぁ、考えられるのは異民族によるダンジョンの接収、または国による譲渡」


「魔物が溢れた……って事は無さそうですね、時期が合わない」


「ああ、魔物の異常繁殖は数年先だったはずだ、例外的な異常繁殖も考えられなくはないが、現実的じゃぁない……ところでお前、今日のスカートは短すぎるぞ」


「あらごめんなさい、他は洗濯してて。気を付けます(チッ」



 ほぼ股間が見えている黒いスカートの裾を伸ばしつつ、申し訳なさそうに謝罪しながら舌打ちを鳴らすマルデビッチはノーパン。無論、ブラウスもポッチ突き出しの防御力ゼロ仕様。


 ショタニアスはスカートの裾から覗く黄金の毛に小さく溜息を吐いたが、彼は股間に灰皿を置いた状態の全裸。そして獣人でもないのに何故か尻尾が生えており、その尻尾は毎日違う色と形状、しかも魔力を流すと振動する。こちらは攻撃力に全振りした仕様だ。


 そんな尻尾を右手で掴みシゴキながら、ショタニアスはシブい声でマルデビッチに問う。



「ダンジョン前に在る警護隊詰め所に誰か向かわせたのか?」


「早朝、ティンカス兄弟を向かわせました……報告は午後ですね」


「あの香り立つ兄弟の脚なら報告は早そうだな。城には今回の報告を入れたんだろ?」


「ええ、城は数名の斥候を放つようです」


「数名の斥候、か……異民族を恐れて二十人規模の部隊すら出さんとは……」


「仕方のない事です、我々も先を考えておきましょう。あ、そうそう、城に勤める弟(意味深)から聞いたのですが、王家は異世界から年若い勇者の集団を召喚したとか」


「……年若い、勇者?(ゴクリ」

「見目麗しい男女、とのこと」



 ッ!!


 ショタニアスの股間に有ったガラスの灰皿が天井近くへ跳ね上がった。



「女性の勇者は王子殿下方が囲うようですが……」

「フンッ、女の勇者などどうでも良い、そう思わんか?」

「うふふ、気が合いますね、完全に同意します」


「城へ。ゆがみ無く馬車を出せ」

「お供致します」




 早漏提督が子供達のレディオ体操に目を細めたのち、ケイジィにパワハラをしていた同時刻、王都に住まう高名な強者二人が動いた。


 果たして、陰毛渦巻く王城でショタニアスとマルデビッチはナニをしようとしているのか……


 ショタニアスがナニかの門を破壊し、マルデビッチがナニかの兄弟を増やすかもしれないが、答えは誰も分からない……











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