第11話『ダンジョンっ!!……に入る前に』





 第十一話『ダンジョンっ!!……に入る前に』





 早朝から歩き通してやっと辿り着いたダンジョン。

 編成画面の時計を見ると六時間経っていた……


 粒子によって強化されたお蔭で疲れはないが、徒歩は非効率だな。


 ダンジョンに潜る際のケイジィは毎日この距離を走って通っていたようである。彼ら『紋無し』は馬や馬車に乗ってはいけないらしい。


 まぁ地球でも古い階級社会だと無いわけではない話だ。文明が進化する過程で一部の人類が通る試練とでも言うか、悪習だと決めつけるのも難しい。その試練が俺に降りかからん限りはなっ!!


 しかし遠かったなぁ。幼児は俺とケイジィが担いでいたが、他の子達は特に疲れる様子も見せずに約二十四kmを歩いた。強化人間ってスゴイ。


 そんな強化キッズには驚くが、もっと驚いたのは強化ケイジィだ。


 彼が元々強かったのもある、だがレベルによる能力値の増加と言うモノをハッキリと認識出来た。


 ダンジョンに着いた直後の事、俺達が集まって一服していた時だ、一つのハンターパーティーがケイジィに話し掛けて来た。


 曰く、『お前のレベリング依頼、俺達に譲れ』との事。依頼主の俺を抜いてする話じゃぁない。


 ケイジィは義理堅く俺にうかがいを立てた。

 そんなもん決まってる、却下だ。


 ケイジィは俺の答えを奴らに伝える。俺の言葉は奴らにも聞こえていただろうが、ケイジィは不遜な相手にも義理を通して伝えた。


 すると、リーダーと呼ばれていた大男が面倒臭そうに一歩前に進み、ケイジィの左頬を長剣の鞘でブッ叩き、『俺達は譲れと言ったんだ、無能』と言いやがった。


 これには温厚な拙者もカチンとキましたぞ、ハッチャク率いるキッズも目付きが変わる。アンドロイドの二人は拳銃を抜いて子供達の前に出た。


 しかし、ケイジィは右手を上げて俺達を制し、アハハと変な半笑い顔で困ったように俺を見る。


 どうかしたのか、と右眉を上げて答えを促す俺。


 ケイジィは答えた、『あのさ、全然痛くねぇんだけど……』と。


 何だコレ、ヤダ怖い、そう言って困惑するケイジィ。


 彼の頬が打たれた音はかなり大きかったが、痛くないようだった。


 ブッ叩かれて吹っ飛びもせず、困惑しつつ半笑い状態の無能から『痛くない』と言われたリーダーは激高して抜剣、鞘を投げ捨てると上段からケイジィの頭に長剣を振り下ろすっ!!


 ――だが、振り下ろされた長剣は空を切った。


 一瞬でリーダーの背後に回ったケイジィが呟く、『抜いたなテメェ……』、俺や子供達はケイジィの動きが見えなかったが、アンドロイドの二人は目で追ったようだった。


「なるほど、お強い」と女性アンドロイドのベルデ、「士官クラス、恐らく尉官の実力者」と男性アンドロイドのアザンが続く。


 下士官は星1のキャラ、士官は星2のキャラ以上、つまりケイジィは星1から進化した強化済みの完凸星2アンドロイド視点で見ても士官と呼べる程度の強さが有った。



 無能に後を取られたリーダーは驚愕の表情を作ったが、大した隙も作らず後方へ長剣を横薙ぎにする。しかし、士官アンドロイドに一目置かれたケイジィの敵ではなかった。


 横薙ぎの剣を一歩下がって避け、ケイジィは腰の剣を抜く事すらせず、右のこぶしをリーダーの顔面に叩き込んで終わらせる。


 殴られた瞬間リーダーの顔面が陥没、それを見て死亡を確認したレイディが一瞬で死体を換金、そんな形で証拠隠滅は完了。リーダーは千二百円だった。


 衝撃的な出来事に言葉を失うパーティーメンバー、残り五人。


 ケイジィが俺に視線を送って指示を待つ――のが今の状況です。


 周囲に居たハンター共も集まって来たな。

 おっと、兵士も居るな、ダンジョン入り口の衛兵か?


 あぁ~、メンドクセェ……全部で何人だ?



『ハンターは二十二、兵士が小隊規模の二十六、全員が武器をこちらに向けています』



 えぇぇ、小隊はまだしも、ハンター共はケイジィ達のやり取り見てただろ、それでも武器を向けるのか?


 って、俺にも向けてるんですが……?


 俺は面倒臭そうな顔をケイジィに向ける。



「すまねぇな坊ちゃん、これが無能の立場ってやつだ。で、どうするね? あぁ、話し合いは期待するだけ無駄だぜ、無能の言葉を聞くのは無能だけだ」


「俺も馬鹿と話す気は無いな」


「ハハハ、そりゃ良かった、坊ちゃんの服は高そうだからな、無能と一緒に居る貴族の持ち物なんざ兵士の小遣いだ、今回は俺より坊ちゃんが狙われてる」


「俺のバリアを抜ける奴が居るとは思えんが、そうか……舐めやがって――」



 殺し合いなら是非も無い、躊躇ためらう理由を無くしてくれて有り難う。


 ケイジィとアンドロイド達に視線を送る。



「――殺せ。ベルデは子供達から離れるなよ、アザンはケイジィと一緒に馬鹿を殲滅しろ」


「ハッ!!」

「閣下、使用武器はサーベルで宜しいでしょうか?」


「ああ構わん。なるべく綺麗に殺せ、換金率が悪くなる」



『アザン、四十秒で殲滅しなさい、南から騎馬の集団がこちらへ近付いています。特に恐れる必要も警戒する必要も有りませんが、司令に無駄な時間は無いのです』



「了解しました」



 南から騎馬集団?

 あぁ~、防衛レーダーを建てたのか、優秀っ!!



『造船所を後回しにしました、勝手をして――』



 いいや、良い判断だ、すぐに役立ったじゃないか、気にすんな。



『有り難う御座います……おや? ハッチャクが何か言いたげに司令を見ていますよ?』



 ん?



「あ、兄貴ぃ、俺もアイツらブッ殺してぇんだけど……特にあの、あっちに居る赤髪の兵士、アイツ、あのクソ野郎、アイツ、俺の姉ちゃんを……っ!!」


「殺って来い。一応、赤髪から離れた位置で銃を使え」

「っ!! 有り難う兄貴っ!!」



 ハッチャクの姉貴か……黒髪美人だったんだろうな、運悪くウダツの上がらんゴミの目に留まったか、ロクなもんじゃねぇな。


 ありゃぁ異民族より憎んでるだろ、業が深ぇよこの国の奴らは。


 おっと、ハッチャクがヘッドショット決めた……後に股間を何度も的確に撃ち抜いている、どんだけ憎いんだよ……


 しかし、怒り狂っているようには見えんな、射撃も的確だ。これもmilfスキー粒子の影響か、強化人間の精神安定度には目を見張るものが有る。


 虐殺を見ている俺も特にどうと言う事もない。

 そもそも殺害命令を簡単に下せるのが……良いねっ!!



『司令、殲滅を完了しました。死体と散った血液等を回収します』


「あぁ、よろしく」

「ん~、何がぁ?」



 抱っこしていたカーリが首を傾げた。レイディとのやり取りは聞こえんからな。


 カーリに『何でもねぇよ』と言って頭を撫でる。この子もこんなあどけない顔して強化サイコパスなんだよなぁ……たくましく育って欲しい。


 さて、今回の稼ぎは幾らだ?



『十八万八千円です。小隊長格の装備品と兵士の鉄製軽鎧に資源としての価値が有りました。他はゴミです』



 五十人近く殺してそれは……どうなんだ?

 モンスターと比べてみん事には何とも言えんな。


 ガチャはダンジョン攻略後にしておくか、金はモンスターの価値を見極めてから使おう。



 うっしゃ、そんじゃぁダンジョンに入りますかぁ。







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