第9話『殺人童貞、散らすよ兄貴っ!!』





 第九話『殺人童貞、散らすよ兄貴っ!!』





「お父しゃんどいて、そいつ殺したい」



 ダンジョンへ向かう道すがら、俺が抱っこしているネコ耳幼児のカーリがそんな事を言った。


 カーリが殺したいと言った異民族の男は、すでにエルフっ子のネイによって強烈な腹パンを喰らい地面にうずくまっている。


 ついでに、ハッチャクを筆頭とした他の子供達から追撃の制裁を受けている最中だ。リンチと言っても過言ではない、って言うかリンチです。


 その光景を見ているケイジィは『たくましくなったな……』と優しい眼差しを向けつつ涙を浮かべて鼻をすすっている。


 まったく、困ったもんだ……


 俺はキッズがダンジョンに同行する事に反対したんだ、彼らを護衛するアンドロイドを用意してからで良いじゃないか、と。


 しかしケイジィは『まぁ、大丈夫だ』と言った。


 どうやらステータス上の能力数値的には何の問題も無いらしい。


 俺にはまだ実感が湧かんが、子供達がmilfスキー粒子を摂取した効果は抜群だったようだ。


 俺や子供達はまだ弱いままだが、ハンターとしてモンスターを殺し、いわゆる経験値を稼いでレベルが上がっているケイジィは、粒子の効果が数値や体感として顕著に能力値へ反映されている。


 とは言え、仮に俺や子供達の同年代でレベル1の者が居たとした場合、そいつらと比べたら遥かに強いだろうとケイジィは言っている。


 その正否は眼前の光景で明らかになった。


 子供達は今まで恐怖の対象でしかなかった異民族の男をボコボコにしている。恐怖心が薄れているのも積極的な攻撃性も、すべて粒子のせいです。



『大成功ですね』



 成功かなぁ……?


 見なさいレイディ、ハッチャクが瀕死の男を逆さに持ち上げて頭から地面に叩きつけましたよ?



『プロレス技の【パイルドライバー】ですね、見事です。あ、男の首が……死亡しました』



 うわぁ……見なさいレイディ、ハッチャクのあの笑顔を、ソ連に居た伝説のシリアルキラーと同じ笑顔です。




「へへへっ、兄貴の服を奪おうなんて、俺が赦すわけねぇぜっ!!」



 ハッチャクが伝説の笑顔を俺に向けて何故か誇らしげだ。


 すぐ勃起するマンの彼に兄貴と呼ばれるのはキツいモノが有るが、黒髪は俺とハッチャクだけなので、そこに親近感が湧いたのか、ハッチャクは同じ黒髪の俺を兄貴と呼ぶ。


 取り敢えず右手を上げて子供達に『ご苦労』と言っておいた。


 しかし何だな、国内は荒れているとケイジィから聞いていたが、王都を離れてすぐの、しかも普通の道に単独行動の異民族が白昼堂々馬に乗って……ナメられてんなこの国。



『偵察や哨戒しょうかいが目的だったのでしょうか?』



 知らんよ。分かったのは、コイツ一人の為に人々が道の端に寄って顔を地面に向ける事と、道を歩く女性が居ないって事だけだな。


 今は子供達を恐れて道の端に寄ったままだが。

 しかしこの惨殺死体、どうすんだ?



「おいケイジィ、コレはどうする、穴でも掘って埋めるのか?」


「ん? いや、道の端に放っておしまいだ。腐る前に獣が寄って来て掃除してくれる、屍毒しどくが出る事も無ぇ」


「ふぅ~ん、疫病蔓延の心配は無さそうだな」


「ところで坊ちゃん、ガキ共に護衛を用意するって言ってたが、坊ちゃんの周囲には今もそんな人間は居ない……ひょっとして護衛ってのは使い魔とか、そんな感じのモンが居るのかい?」


「居るな、アンドロイドと言う名のゴーレム達が」


「アンドロイド……? 今、出せるのかい?」


「一体だけ居るが、そいつは俺の秘書官として基地内の仕事をしている。あと三日で完全体になるから、その時に基地から出るそうだ」



 そう、今日の朝、二日目のログインボーナスでレイディが一凸になった。その時に俺が『お前って出られるの?』と聞いたら、施設のビルドアップ管理に忙しいので、レイディの能力が飛躍的に高まる完凸状態を待ってから外に出る事になった。


 彼女を補佐するアンドロイドが居れば良いが、俺のキャラクター倉庫はスッカラカンになって誰も居なかった。レイディが人事部建築を優先する理由だな。


 何はともあれ、今朝方レイディが人事部を建ててくれたので【キャラクターガチャ】が解放された。


 これでレイディの言う『物質課金』が出来れば、子供達の子守と護衛を任せられる課金ガチャ産アンドロイドを用意出来る。無料ガチャではなく有料ガチャだ、出る可能性の有るキャラのレアリティに上限が無くなる。


 クックック、今から楽しみだ……物質集めにも精が出るぜっ!!



『司令、その死体で課金しても宜しいでしょうか?』



 え、出来るの?



『出来るようです』



 マジか、特に良心は痛まないのでやってみて下さい。



『畏まりました』



 レイディが了承した瞬間、地面に転がる男の死体が消える。ケイジィと子供達が驚いたので『俺が消した』と説明したら『カッコいい……』と言われた。


 よせ、褒められるのは慣れてないんだ、もっと大きな声で褒めてくれ。


 それで、あのアホはどれ程の値段が付いたのかねレイディ?



『身体の価値が七百円、損傷過多、用途無しにつき減額。装備品の合計額が二千五百円、希少価値無しとの判断です、値段は物質そのものに付いた価格ですね』



 ……世知辛ぇな、野郎の価値は三千二百円か。


 人間を狩って課金するのは効率的ではないかな、『用途無し』ってのがカギか……


 こりゃぁダンジョンでのモンスター狩りがはかどりそうだ。



『鉱石等も採れるようですので、施設のビルドアップにも役立ちそうですね。その場を制圧出来れば最良ですが……兵も制圧兵器も資源そのものも、何もかも足りない』



 ははは、何かサーセン……頑張ります。



『ところで提督、今回手に入れたお金で十連ガチャ三回と単発を二回回せますが――』



 キャラガチャに全ブッパでっ!!









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