第6話『無料ガチャ、イきます』





 第六話『無料ガチャ、イきます』





「モグモグ、それでな坊ちゃん、異民族の奴らは金品よりも食料や人間を狙って略奪しに来るんだ。ゴックン、美味ぇなコレ……」



 薄暗い地下の一室で地面に座り、レイディと妖精さんが用意してくれた野戦食レーションを夢中で食べながら、ケイジィはそう言って不愉快そうに鼻を鳴らした。


 不愉快そうだが異世界のメシは彼の口元を緩ませている。子供達も口に合ったか、体も元気になったし食事が楽しそうで何より。


 欠食児童の食事風景を眺めつつ、編成画面に映る食料資源のタンクを見る……数値に増減無し。


 今のところ編成画面内の基地周辺には何も立てていないので、所持資源は初期値の千、単位は分からんが鋼材・燃料・食料共に千有る。


 この資源である食料を使って基地の職員?に野戦食を作ってもらったが、食料資源は千のままだ。十数人分の食料を用意しても微動だにしない初期値、単位は気になるがコスパが良すぎる。



「これ美味しいねお父さん……」

「……そうか、鶏の唐揚げは美味いか」



 俺の隣に座るネイと言う名のエルフっ子が野戦食を食べながらニッコリ笑ってそんな事を言う。ケイジィではなく俺に言う。ヤメロと言っても聞かないので放置している。そもそも初めは『お兄さん』と言っていたのに……


 完全回復を果たした子供達は元気一杯だ、数名がまとわり付いて非常に邪魔である。コラコラ貴様っ、お父さんは今大事なお話をしているので邪魔しないように、いいね?


 俺の膝の上に座るネコ耳チビッ子(名前はカーリ、三歳くらいか)が俺の口に唐揚げを突っ込んでくるので、頭を撫でて厳重に注意してやった。


 カーリは伸びきった茶髪を左右に揺らし、黄色い瞳を輝かせながら俺の口に突き付けていた唐揚げを美味しそうに食べる。これを五回繰り返している、何が面白いのだろうか?



「だがなぁ坊ちゃんモグモグ、ゴックン、奴らはさらう人間を選別してるんだ、奴らは俺達の様な【紋無し】は狙わねぇ、無論大人は殺すがガキは捕まってもせいぜい甚振いたぶってポイ、まぁ運が悪けりゃ殺されるがな」


「モン無しとは何だ?」


「……マジか、魔法を使う為の【精霊紋】だよ、胸の真ん中に付いてるだろ?」


「いや、知らんな。見た事も無い」


「坊ちゃんの国はどうなってんだ……坊ちゃんにも精霊紋は無いって事か?」



 どうだレイディ?



『有りませんよ』



 だろうな。



「うむ、無いぞ」


「ッ!! 貴族でそりゃぁ……辛かっただろう。だがそうか、坊ちゃんが道具を出し入れするアレは魔法じゃなくて収納系固有スキルだったわけか、有能なのになぁ、国を追われて悔しいよなぁ……」


「気にしていない。ところで、お前の話からするに、ここに居る者は……」


「あぁ、俺も含めて全員、魔法が使えない紋無しだ。でなきゃぁそこに居るエルフのネイみてぇな美少女が甚振られるだけで助かるワケが無ぇ」



 コイツら甚振られたのか……病気で仕方なく体に欠損が有るわけじゃなかったんだな。取り敢えず俺の唐揚げを一個ずつあげよう、有り難く食べたまえ。



「しかし、ここまで可愛いなら……言い方はアレだが使い道は有るだろ? 将来性も有る、何故拉致しない? 甚振るだけで殺さないのも不思議だな」


「ハンターギルドで聞いた話じゃぁ、奴らの信仰的に紋無しと生活圏を同じくする事は駄目らしい。本来は接触するのも禁止だったらしいぜ。そんな紋無しガキを甚振るのは小さいうちから恐怖を植え付ける為って話だ、その後はワザと生きたまま逃がす」


「ふむ、逃がして異民族の恐ろしさを周囲に伝えてもらう作戦かな? 宣伝効果は高そうだが不満も高まりそうだな、おごりが見えますねぇ……」


「ハハハ、まぁ基本的に紋無しは無視される、この城外に在る貧民窟が無事なのも奴らにとって襲う利が無いからだな。貧民窟が紋無しの集まりだって事は奴らも知ってる、金も人も奪えない場所で暴れても労力の無駄だ。と言っても、クソ野郎は何処にでも居るからな、お蔭でこのザマだ」



 ケイジィは溜息を吐いて子供達を見つめた。


 しっかし、う~ん、微妙な戦略だな異民族。


 信仰的に邪魔な存在なら皆殺しにすれば良くね?


 甚振って野放しってやり方に理由があるとしても、復讐の鬼が生まれる確率が上がるだけの様な気がするが……


 強者の余裕か、文化的な慣習か……?

 いや待てよ?



「この国を四方から囲む異民族はそれぞれ別の民族か? 略奪の仕方は四つとも同じか?」


「ああ、同じ民族で同じやり方だ、奴らは兄弟らしい。頭は本国に居るって聞いたな、大王と呼ばれているとか何とか」


「なるほどなー、ところでこの王都の四方は貧民窟で囲まれてる?」


「そうだな、この南側と変わりない、どこも同じだ」



 ふむふむ、略奪の作法は四つとも同じ、と。


 じゃぁやっぱ司令官の考えとかじゃなく、国や民族の方針でやり方が決まっていると考えた方が良いか……まぁどうでも良いな。


 邪魔なら滅ぼせば良いし。



『戦艦や戦闘機が無くても司令の拳銃だけで済みそうですね。ガチャを回して入手し易い星1アンドロイドの集団に任せても良さそうです』



 あぁ~ガチャね、どうやって回すの?

 課金はどうすんの?



『課金……と申しますか、この惑星に在る物質をガチャポイントに交換してご利用頂けます。何が効率的に交換出来るかは今後調べる必要が有ります』



 ほほう、金銀よこせとか言われなくて良かった。土や石から調べてみっか。



『無料ノーマルガチャは毎日回せますのでお忘れなく。本日分もありますよ』



 今、回しますっ!!


 編成画面のガチャアイコンをタップ!!

 無料ノーマルガチャをタップ!!

 親の顔より見たノーマル演出をスキップ!!


 憎らしいドノーマルの茶色いガチャ玉が出現っ!!

 画面が白く光って玉が割れるっっ!!



『おめでとうございます、【二七式ネオナンブ拳銃】一丁です。警備隊の標準装備、小型レーザー拳銃ですね。ドワルサーの高威力には及びませんが、数十名の悪漢を薙ぎ払う程度なら活躍出来るでしょう。貸倉庫に保管しておきますか?』



 そうして下さい。


 しかし、いきなり有用な武器が手に入ったな……これで最低レアか、僕ワクワクが止まんないお。


 こりゃぁガチャ廃人になりそうだぜ……っ!!

 無料ガチャだけを続けても武器類は十分に揃いそうだ。



「お父しゃん、うんこ出たい」

「……え?」


「うんこ出たい」

「……うんこ、出たい?」



 膝の上に座るカーリが変な事を言っている。

 まるでウンコが『出してくれ』と言っているかのような……



「ン、出た」

「……出た?」

「出てきた」

「……そうか」



 出てきたか、ならばっ、是非に及ばず……っ!!

 勝手に出られたらな、しゃーない、しゃーないわ……


 これほどバリアを有り難く思った事が有っただろうか、いや無い。


 ところでレイディ、ガチャでオムツは出るだろうか?



『出ません。編成画面内の基地内にて科学研究所か兵器開発所を建てれば……製作出来るかもしれません』



 そうか、残念だ。



『あ、基地の用務員である池田さん(四十八歳、独身美熟女)が用務員室に有るタオルでオシメを作ってくれるそうです』



 ……え、基地の中に用務員が居るの?



『妖精的なアレだとお考え下さい。食事やアルミ脚立きゃたつを用意してくれたのも彼女ですよ』



 あ、そうなんですか……じゃぁ池田さんにお願いします。お給料はレイディが決めて下さい。



『お給料は司令が着た衣服の洗濯で良いそうです』



 ……じゃぁそれで。



 ……ふむ、妖精さんは業が深ぇな。







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