第5話『でもそれゴミなんだ』





 第五話『でもそれゴミなんだ』





「坊ちゃん、ここだ。入ろう」


「お、おう」



 レイディ、コレは何だ?



『竪穴式住居……いえ、縦穴ですね、地面に掘った穴です。木製の蓋で穴を塞いでいるところに辛うじて文明の香りを残す穴です』



 この貧民窟で一二を争うヒドイ住居だ、間違い無い。


 み、見ろレイディ、木製の梯子はしごだ、釘を使わず組み合わされた逸品、たくみの技が見て取れ……あ、三段目が折れた、クソがっ。



「すまんケイジィ、あとで弁償しよう」


「あぁ~折れちまったか、逝っちまったアイツが四年前に作ったモンだったからな、まぁ……気にすんな」



 クッ、寂しそうに笑いやがって……

 レイディ、目にモノ見せてあげなさいっ!!



『編成画面の基地内に在るアルミ製の折り畳み式脚立きゃたつを貸倉庫へ送ります、ご利用ください』



 御苦労っ!!



「ケイジィ、代わりと言っては何だが、コレを使ってくれ。軽いが頑丈だ、数十年はもつ」


「そいつぁ……何だコレ軽っ!? だが硬い……スゲェもん持ってんなアンタ、ここまでしてくれなくても、いや、有り難う」


「うむ、では参ろう」

「フフッ、ああ」



 梯子を下りて回れ右、次は横に掘られた穴を進む。


 横穴は長身のケイジィが身をかがめる必要のない高さが有る、幅は大人が並んで通れる程度には広い、だが突き当りまでの距離は短い、五歩で到達だ。


 突き当りを左へ、そこに部屋と呼べるような空間が在った。



 在ったが、コレは……野戦病院かな?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 薄暗い洞窟の中にズラリと並ぶしかばねの様な子供達。


 こいつは酷いな……

 可哀そうな妹さんどころの話じゃない。

 ひぃ、ふぅ、みぃ……十四人、全員幼い。


 しかも全員目が死んでいる、こちらを見る奴なんて二人しかいない。まぁあんな状態じゃぁ仕方ないか……



『四肢が揃っている子が居ません、眼球や耳なども欠損しています』



 ふぅ~、心身を強化されたお蔭か目を背けるような真似はせんが、さすがにクるものが有るな……



「坊ちゃん、気味悪いだろうが少し我慢してくれ」


「いや、大丈夫だ問題無い。こいつらはお前が養っているのか?」


「あぁ、ほとんど戦災孤児だ。そ、それで、例の薬だが……よいしょ、この、このチビ助に使ってくれねぇか? 一昨日からピクリとも動かなくなっちまって……」



 ケイジィが部屋の奥に寝かされていた子供を抱っこして来た。幼稚園児くらいの年齢だろうか、その幼く汚れた容姿からは男女の区別もつかない。


 その子供を見つめたまま動かない俺を不安気に見つめるケイジィ。



「……坊ちゃん、使ってくれるかい?」

「それは構わんが、どうせなら全員に飲ませろ」


「ッッ!? ぼっ坊ちゃん、俺だってそうしてやりてぇが……金が、坊ちゃんが持つエリクサーを買う金が無ぇんだよ……っ!!


「いや、金は要らん(エリクサー?」


「街の教会は金が有る無しに関わらず門前払い、上級回復魔法も上等な回復薬も望めねぇ……だから、今回俺が坊ちゃんから報酬で受け取るその一つだけしかっ、コイツらに用意してやれねぇんだ……っ」


「そうか、それは難儀だな。俺の薬はタダで良いぞ」


「ああ、ダンジョンのレベリング程度でエリクサーが手に入るんだ、実質タダのようなもんさ」


「違う、話を聞けアホ、全員分タダで良いと言っている。ハッキリ言うが、薬は腐るほど有る……確かに貴重品だが、俺にとってはそこまで重要な物ではない(正直言えばゴミなんだ」


「…………本当か?」

「くだらん嘘は好かん」


「坊ちゃん……クッ、ハハハ、何だこれ、目から水が出て来やがったぜ……っ」


「水を出すのは後にしろ、ホレ、これが回復剤だ。唾液で溶けるから口の中に入れるだけで良い。口内がカラカラな子には口を開けてから割って中身を飲ませろ」


「あ、あぁっ、分かったっ!!」

「左側に寝ている子達には俺が飲ませる」


「何から何まで……こりゃぁレベリングだけじゃぁ足りねぇな……へへへ」



 不気味な笑い方をするアホから離れ、左の壁際に寝かされた子供達の許へ向かう。


 先ずは手前の子から……うん、やっぱこの子ら普通の人間じゃないな、この子は耳が尖っていて長い、隣の子はケモ耳が生えてる……ネコ科かな?



『二人の外見はバズール星人とヤック星人に酷似していますね。司令と敵対している異星人でしたが、同種ではないようです』



 バズール星人はエルフ似だが肌色が青い、ヤック星人は獣が二足歩行しているだけだ。この子らとは似ても似つかんよ。


 さぁエルフっ子、お口を開けてコレをゴックンするのです。


 エルフっ子の後頭部と首の付け根を左手でふんわり持って軽く上半身を起こしてやり、右手で下あごを下げて小さな舌の上にカプセルを乗せた。


 歯もボロボロだ、大丈夫、それも治るさ。


 そうそう、良い子だ、そのまま呑み込め、違う違う舐めるな。



『回復剤を包む硬化デカチンは糖衣ですから、甘くて美味しいのでしょう』



 あぁ~、なるほどな。


 甘味が乏しい食事ばかりだとしたら、これも美味しく感じるか。


 さて、ケイジィに大見得を切った感じになったが、不思議科学の回復剤は効くかなぁ~、ケイジィはエリクサーと勘違いしてるしなぁ……おっ?


 エルフっ子の目がカッと見開いたっ!!

 金髪碧眼の美少女(五歳くらい)だっ!!

 いかにも不健康だった肌に張りと艶がっ!!

 失っていた右の前腕がニョキニョキとっ!!


 そして俺をギョロリと見つめながら口をモゴモゴして……プップップッと虫歯に侵された小さな歯を俺の顔にぶつけた。何で?


 まぁ、歯が生え変わったみたいなのでヨシッ!!



「……お兄ちゃん、だぁれ?」

「フッ、俺は偉大なる大ニッポンヌ帝国の皇太子――」


「ぼぼぼぼ坊ちゃんっ!! ココココイツぁ凄ぇぜっ!!」


「……あぁ、俺も確認した。まさに完全回復だな」



 エルフっ子に軽い嘘を教え込もうとしたらアホに邪魔された。まぁいい、今度は重い嘘を教え込もう。


 さぁ次の子だ、エルフっ子はそこで寝ていたまえ。

 ちょ、服を掴むな、放して下さい。



「お手伝い、する」

「ん? 薬を飲まされたのを覚えているのか?」


「うん」

「そうか、じゃぁハイこれ、向こうの少し大きな子に」


「わかった」



 エルフっ子はカプセルを一粒持ってテクテク歩いて行った。

 さすがにこの猫系ケモ耳幼児は任せられない。幼すぎる。


 見た感じでは三歳にも満たない。

 この子はカプセルを割って飲ませよう。


 よ~しよしよし、ほら、お口を開けましょうねぇ、お利口さんねぇ、その無くなった右の耳も生えてくるからねぇ……




 まったく……


 これは少しケイジィに環境の改善を考えろと言うべきか……


 いや、その前にこの子達の事を聞くのが先か……

 別に関わるつもりは無いんだけどなぁ……



『情報収集はとても重要な事ですよ司令』



 ……うむ、そうだな、まぁ焦らずゆっくりやっていくか。









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