第4話『病弱な妹(妄想)だと……っ!?』





 第四話『病弱な妹(妄想)だと……っ!?』





 報酬をどうしようか、もうダンジョンの場所だけ聞いてサヨナラしちゃう?



『それでも構いませんが、ここは我々が所持する軍用品の価値を確かめる場として利用しましょう。司令の【貸倉庫】には貯め込んだ物資が潤沢に有りますし、いずれまた勝手に増えていきますから』



 貸倉庫……そう言えばこの貸倉庫課金制だったな、課金してて良かった。


 どれどれ、うむ、編成画面の右上に有る貸倉庫アイコンをタップ……よっしゃ、倉庫内の枠は解放済みだな。



「どうかしたかい坊ちゃん?」


「あぁ、いや、私はこの国の金貨を持ち合わせておらん、我が国の貴重品なら有るのだが……(チラッ」


「金貨ならドコの国の物でも構わんが、貴重品ねぇ……今、見せてもらえるかい? 荷物は宿か?」


「……いや、私の特殊な魔法で保管してある」


「ヒュ~、収納魔法か……なるほど、固有スキルで授かったのがソレで家を追われたってトコか……俺達ハンターからすりゃぁ羨ましいスキルだがな、貴族の考える事ぁ理解出来んね。おっとスマネェ、ただの愚痴だ、アンタらへの文句じゃぁない」


「分かっている、気にしていない。では、そうだなぁ、身体の負傷を即座に修復する飲み薬など……どうだ? 一応死人も復活出来る、ハズだ」


「ッッ!!!! ぼぼぼぼ坊ちゃん、ちょ、ちょっと待ちな、ソイツを出すなよ、良いかい、まだ出すなよっ!!」



 スッゲェ焦りだしたんだけど……

 キョロキョロして……いやギョロギョロしてんな。



『司令が彼に与えると提案したのは兵に持たせる【回復パック】でしょうか?』



 そうそう、クラン本部から毎日支給されるヤツ。惑星制圧歩兵が三百回復するゴミ。序盤を過ぎた戦争では万単位で死人が出るのにな、初期以外使わんゴミ。


 でもあれってよく考えれば『三百人を復活させた』って事だろ?


 しかも回復『パック』だ、バラせば一本ずつさばけるかもしれん。



『はい、パック内には硬化デカチン糖衣カプセルで包んだ回復剤が三百本入っています。口内に入れると少量の唾液で溶けますし、カプセルを割って水に溶いてからでも使用可能です。ついでに回復剤も甘口です』



 ふむふむ、完璧じゃぁん(硬化デカチンって何だろう?)


 取り敢えず、眼前に居る目を血走らせながら周囲を探るアホを落ち着かせよう。



「落ち着けケイジィ、ここで出すのは控えよう」


「ハァハァ、そ、そうか、ハァ~、出さないなら、良いんだ……」


「しかし現物の確認は必要だろう、回復剤の効果も見たいだろうし……どこか都合の良い場所はないか?」



 俺がそう尋ねると、ゴクリと唾を呑み込む鼻のケイジィ。

 そして真剣な眼差しで俺を見つめる。



「坊ちゃん、歩合の報酬は要らねぇ……最初の、その最初の『効果を見る』ってやつだけで良い、他には何も望まない、頼む、俺の家に来てくれ」


「ああ、構わんよ」


「ッッ!! すまねぇ、恩に着る」



 この必死さ……妹やな、死にそうな妹が居てるんやなっ!!


 僕は軽い足取りでケイジィの後に付いて行った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 目的地に着くまでケイジィに色々と教えて貰った。


 ここは王都で、三つの壁に囲まれた城郭都市。この国は東西南北から四つの異民族が略奪にやって来る場所に存在するらしい。


 四方の異民族が良いサイクルで略奪に来るので平和な年が無い。数年前までは北を除く三方に友好的な国が在ったが滅ぼされたようだ。


 異民族の英雄達が強すぎて手に負えず、人間を含む貢ぎ物を贈って滅亡する時間を先延ばしにしている状況……等々。


 モンゴル帝国が四つはさすがに草。まさに大草原やな。



『地球人を拉致召喚したのはそれが原因でしょうか?』



 それはどうかな、アイツら召喚に慣れた様子だった、原因ではなく要因の一つってところだろ。


 異民族の英雄に対処出来る人材が得られればもうけもの、仮に、召喚するたび特殊能力を身に付けた者が現れるなら、ハズレを引いても使い道は有るだろ。


 ローリスク・ハイリターンなら召喚の準備が出来次第やりまくるわ。当たれば国家存亡の危機が救われるしな。



『司令はハズレと認識されたワケですか、大当たりでしたのに』



 う~ん、当たり認定されていたとしても、あの城の人間を見た後じゃぁいずれ出奔すると思うぞ。何なら異民族の味方になっても良いわ。



「異民族を知らなかったって事は、坊ちゃんはやっぱり他国の貴族様だったか、しかしよく奴らの活動域を無事に通って王都まで来られたな、御付きが優秀だったのかい?」


「ん? あぁ~まぁ、そんなところだ。ところで今通ったのは……」


「スマンな、第三城壁をくぐる城門だ」


「なるほど、つまり王都を出たワケか……しかし壁外にも家が並んでるな」


「あれは貧民くつだ、俺の家は王都を囲むその貧民窟に在る。貴族が足を運ぶ場所じゃねぇんだが、その家まで付いて来てくれ、本当にスマン」


「いや、構わんよ、実に興味深い」


「ははは、そうかい」



 ケイジィが申し訳なさそうに笑う。

 彼が向かうのは貧民窟に在る家だと言うが……

 この不衛生極まる場所に住む理由が有るのか?


 彼の見た目は幾らでも稼げそうな武芸者、見掛け倒しには見えんがねぇ……ダンジョンとやらではもうからんのか?


 金銭ではなく人種や階級の問題だろうか?


 あの不潔な裏路地が花畑に思えるほどここはヒドイ。人間の住む場所ではない。って言うか、不潔耐性を持つ野生動物が絶望するレベル。


 取り敢えず、ケイジィの『死病に侵されて今にも死にそうな妹さん(妄想)』が不憫でならない的な表情で歩こう。



『素晴らしい表情です司令、スパイの素質がお有りです』



 よせよ、照れるぜ。











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