第3話『俺は【早い司令】だ……っ!!』





 第三話『俺は【早い司令】だ……っ!!』





 自主追放失敗によって酷くガッカリした人々を眺めつつ僕は考える。


 そう言えば、俺にはまだ名前が無い……

 良い感じの名前、何かないかな……



『司令の記憶に残る印象深い人物等にならってはどうでしょう』



 記憶に残る……この朧気おぼろげで少ない記憶に残る……


 あ~、有るな……

 アウグストス……ティムール……テムジン……


 ガクキ……ノッブ……アレクサンドロス三世……ふむ。


 あっそうだ、ソウソウも居たな、曹操か……


 でも曹操とか信長はメジャー過ぎてさすがになぁ……

 まぁ曹操は姓と名がセットで楽だが――



『早漏ですね、了解しました…………入力完了』



 違うバカ、曹操だ、ソウソウ。

 ソウロウじゃない、入力を取り消しなさい。



『改名には【改名の強化ジェル】が必要です、十四万円で購入出来ます』



 改名で十四万円はヒド過ぎワロタ……

 改名の強化とはいったい……

 ってかドコに課金すんだよ……


 もういいよ、名前じゃなくて司令って呼んでくれ。



『了解しました早漏司令』



 ッッ!! お前……


 何だコイツ、微妙にポンコツだな……

 まぁいい、どうせコイツの声は俺にしか聞こえん。



「外部スピーカーもバッチリです早漏司令」



 ッッ!! お前……


 突然俺から発せられたレイディの声に驚いたのだろうか、驚愕の顔で俺を見る玉座の間に居る人々……見んな、早漏の何が悪い?


 いや早漏じゃないけれども、むしろ遅漏で苦情が出るような記憶が有るのだけれども?


 国王の隣にいるハゲが何故か『同志を見つけたっ』的な目で俺を見ている、スマンが俺はマジで遅漏なんだ、ご理解いただきたく早漏。


 そんな事より、家の手配について話し合おうじゃないか。


 え? スラムに在る家ならどこに住んでも構わない?

 タダでくれてやるから安心して早く行け?


 ……いやいや、無一文で出て行けと?


 俺がそう言うと、ケツ蹴りクソ文官が胸元から革袋を取り出し、舌打ちしながら銀色の小さい硬貨を一枚投げ渡してきた……


 この硬貨の価値は分からんが……お前、良い奴だったんだなっ!!



『恐らく横領した公金です』



 やっぱクズだったんだな……っ!!

 でも有り難いのでポッケに仕舞っておく。



「付いて来い、城の外まで案内する」



 クズの隣に居る騎士が無表情で言ってきたので、礼を言って付いて行く。


 俺を見送る転移者達にも軽く頭を下げて立ち去る。彼らの表情は不安と嘲笑の二つ、憐憫れんびんは無い。


 嘲笑組は今後ちょっかい掛けて来そうだな、ツラは覚えとこう。


 それじゃぁ今度は本当に、さようなら。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 この国の人間はアレだろうか、人のケツを蹴らねば死んでしまう病気か何かだろうか……?


 無言のまま俺を城の出口まで案内してくれた騎士は、俺が城から出る瞬間にケツを蹴りつつ『次は無い』と言ってきびすを返した。


 ズッコケながら呆然とする俺、次第に笑いが出てくる。

 城に居る人間の鏖殺おうさつを提案するレイディ。


 俺は土で汚れた膝をはたきながら彼女をなだめた。


 落ち着くんだレイディ、これもスパイスだ、いつか来る日の為の貴重なスパイス……今は有り難く貰っておこう。



『しかし司令、司令の思考が怒りで爆発寸前ですが……』



 問題無い、大丈夫だ。

 今の俺はそんなにヤワな男じゃぁない……


 ……ところでレイディ、何だか僕はスラムへ行く前にゴロツキが多そうな場所に行きたくなりました。



『精神衛生上必要な行動ですね、参りましょう』



 うむ、君なら解ってくれると信じていた。

 取り敢えず裏路地を徘徊しよう。


 いざっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 クッサーーーッ!!


 何だこの裏道は、物凄く臭いっ、排泄物が散乱している……



『バリアで臭いをカットするよう念じて下さい、嫌な臭いや雑音等は任意で遮断出来ます。五感対応となっておりますので、不快な感覚は全てカット出来るかと』



 さすが不思議科学っ、開発者にビールをおごりたい。

 ……しかし、もうちょい早く教えてくれても、エエんやで?


 では早速……ふむ、ウンコ臭が消えたな。



「よう兄ちゃん、一人かい?」



 おおおっ、小汚い道に入ってすぐに獲物がやって来たぞっ!!

 金髪碧眼イケメン高身長のファンタジーヤンキーだっ!!


 見ろレイディ、服装がグリム童話の絵本に出てくる男性の様じゃないかっ!!


 恐らくあの赤いベストは傾奇者かぶきものの証に違いないっ、だってあんな派手な赤を着てる奴はここに来るまで見なかったからっ!!


 でも全体的に不潔だな、衣服は当然のように薄汚い、目元辺りまで伸びた髪はセクシーと言えなくもないが……ゴワゴワで臭そう。


 お前はどう思う?



『腰に下げた長剣、服の上からでも分かる鍛え上げられた四肢、胸板も厚く首も太い。高身長の所為せいで細身に見えますが、少なくとも王城で出会った騎士達より身体能力は高そうです。何者でしょうか?』



 お、おう。俺もそんな感じに思ってた。



「オイ兄ちゃん、聞いてるか? アンタ一人かって聞いてんだよ」


「え、あぁ~、一人だ。俺だけ、他に連れは居ない、もの凄く一人だ、襲われたら死んでしまうかもしれないほど一人だ」


「ふぅ~ん? ところでアンタ、言葉がなまってんな……服装もそうだが、他所者よそモンか、まぁどうでも良いが……しっかし、とんでもねぇ美男子だな」



 美男子なのか俺は……そして訛っていると、まぁイントネーションが分からんから訛るだろうな。


 当然、この服装も立つよな……って事は……待てよ、俺はコイツよりかぶいてる……っ!?



「それで、見たところ貴族の坊ちゃんっぽいが、貴族様が堂々と一人でこの場所に来たって事は……そう言う事なんだろ?」



 何言ってんだコイツ……?



『司令、これは直接的敵情視察任務の訓練として貴重な体験です。偵察機未開発の現状を打破する機会と捉え、今後の為に彼と話を合わせて下さい』



 コイツに話を合わせる?

 任せろ、ウソとハッタリは大好きなんだ。



「フフフ、察しが良いな君、名を聞こうか」


「フッ、俺はケイジィ、金になる話の匂いに敏感でな、この辺りじゃぁ【鼻のケイジィ】なんて呼ばれてる」


「ッッ!! そ、そうか。私は――」


「おっと、名乗りは不要だ。俺みてぇなゴロツキに名乗ってくれるのは有り難ぇが、アンタの事は坊ちゃんと呼ばせてもらうよ。で、何をすればいい? 殺しか? それともお忍びでレベリングかい?」



『司令っ、レベリングをっ!!』



 了解。



「レベリング」


「へぇ、そっちか。殺しの方だと思ったんだがな」


「君への報酬は?」


「前金で金貨二枚、あとは状況に応じた歩合でいいぜ。まぁレベリングの場所にもよるが……森ならダンジョンよりは割り引いて良い」



 聞きましたかレイディ?



『ええ、ダンジョン一択で』



 だなっ!!


 ただ……渡せる報酬が無い件について。











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