肆 ともだち

 僕は小学生になった。


 小学校に通い始めからといって、何かが変わったりはしない。

 僕は空気みたいなものだ。

 いてもいないようなものとして、扱われるのに変わりはない。

 空気は必要とされる。

 僕は必要とされない。

 ただ、それだけのことだった。


 変わったことと言えば、伯父、義伯母、従兄が戸籍上の父、母、兄に変わったくらいだ。

 だけど何も変わらない。

 何も変わりはしなかった。

 書類の上で家族になっただけで変わるはずなどなかった。


 『家族』の肩書を持つ彼らもそれ以外の彼らも変わらない。

 遠巻きにヒソヒソと話している。

 何を話しているのかは分からない。

 だけど僕に向けられる目が、決して好意的なものでないことだけはなぜか、分かった。


 正面から、「嫌いだ」「いなくなれ」「死ね」と言われる方がどれだけ、ましなのか。

 そう思えてくるような毎日だった。

 退屈で退屈で仕方のない乾ききった日々が続くだけ。


 あの日、森で見たアレはそんな僕に終わりを与えてくれる気がした。

 僕は終わることが出来るんだとアレに期待していたんだ。

 でも、アレは僕を終わらせてくれなかった。

 いつか終わらせてくれることを期待しながら、僕は待っている。




 そんな僕になぜか、

 誰も近寄らず、話しかけても来ない。

 いつも一人ぼっちの僕に「なんで一人なの?」と話しかけてきた女の子がいた。

 名前は黒雲紅葉くろくも くれは


 彼女も僕と同じで一人ぼっちだった。

 僕と違うのは彼女が誰にも見えていない存在のように思えることだ。

 みんなは意識して、僕のことを無視している。

 彼女はそもそもが誰にも意識すらされていないんだ。

 それが不思議だった。


「友達になろうよ」


 だけど、人懐こさを感じる彼女の笑みに僕は抵抗することが出来ない。

 無言で頷くことしか出来ない僕を見て、彼女は屈託なくけらけらと笑う。

 彼女の八重歯がやけに目立つと漠然と考えながら……。

 彼女の笑みが夕日に照らされたアレに似ていると漠然と思いながら……。




 それから、僕の白と黒しかなかったモノクロームの世界に少しだけ色づいた気がする。

 紅葉がいる。

 友達のいることが僕にとって、どれだけ大きいことなのか。

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