弐 ぼくはみた
僕がアレに出会ったのは『僕』がまだ『ぼく』だった頃に遡る。
僕に家族はいない。
生まれてすぐに事故で両親が死んだ
らしいとしか言えないのは記憶が全くない。
辛うじて覚えているのは曇り空のように煤けた色の髪の女の人が、真っ赤に染まりながら何かを言っている様子だけだった。
恐らく、それが僕を庇って死んだ母親なんだろう。
僕は母方の親類――
だけど、僕に家族はいない。
僕はいない者として、扱われた。
伯父、義伯母、従兄。
誰もが僕のことを「気味が悪い」「不吉な子」と思っている。
面と向かって、言われたことはない。
彼らの目がそう言っていたのだ。
だから、僕は居場所を探した。
住んでいる町は小さな町で僕はいらない子だった。
僕を見ても彼らは影でこそこそと何かを話しているだけだ。
彼らの目から、逃げたくて、隠れたいと思った。
そして、見つけた。
神社の鎮守の森だった。
町に古くからある神社だ。
滅多に人を見ることがないくらいに寂れている社だ。
管理する人がいるのかも怪しい。
神様を祀っているのに罰が当たるんじゃないだろうか。
周囲を取り囲む森は木々が鬱蒼と茂り、夜でもないのに暗い。
まだ、『ぼく』だった僕はそんな森へと逃げるように……実のところは誘われるように入り浸った。
不思議と怖くはなかった。
怖いのよりも心の奥底で懐かしさを感じたのはなぜだろう?
いるのにいない者として扱われる。
森で時間を潰す日々は減るどころか、増えていく。
そんな日々が延々と続いた。
いつしか僕は小学校に入学する年齢となった。
通い慣れた暗い森は落ち着く場所であり庭のようなものだった。
その日もいつものように勝手知ったる森を散策していた時のことだ。
バキ、グチャと耳障りな音がした。
思わず好奇心から、その音がする方に向かって駆けだしていた。
今になって思えば、なぜそんなことをしたのか分からない。
それは野生動物が立てている音ではないと知っていた。
それにも関わらず、僕の足は自然と音の方に向かっていたのだ。
そこで『ぼく』が見たのは信じられない光景だった。
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