隠キャだった俺が過酷な異世界生活から"強さ"を得て帰還したら……"難攻不落の子"といわれる学校で1番可愛い、しかも隣人の子に懐かれました!〜Megu-Philia〜
第114話 佐々木さんと加賀美さんには、いつまでも仲良くいてほしい。
第114話 佐々木さんと加賀美さんには、いつまでも仲良くいてほしい。
「ではでは調理開始ぃー! 先生に、美味しい唐揚げをたくさん食べさせてねー!」
という真白先生の一声で、家庭科の調理実習が開始されたのだった。
「じゃあ、私鶏肉切ってるね」
包丁を手にそう、宣言してくれたのは同じ調理班となった"佐々木さん"
「おけまる〜。じゃあこっちは小麦をふるいにかけとくねぇ」
即座に佐々木さんに応じたのは親友の"加賀美さん"。
この2人は元の世界でも、そして異世界でもいつも一緒にいることが多かった。
そしてとても仲がいい。
2人のこうした平穏な日常を見られていることが、俺は嬉しかった……。
★★★
『256訓練隊は至急、体育館へ集合せよ! 繰り返す256訓練隊は……』
美咲基地MOA搭乗者養成学校卒業式の前夜。
喧騒が充満する基地へ、そんな放送が響き渡った。
俺たちは戸惑いの中、それでも急いで体育館を集合してゆく
そこで俺たちを待ち受けていたのは、専任教官である林原軍曹と、初老の美咲基地の司令官だった。
「これより、緊急ではあるが、256訓練隊の卒業式ならびに任官式を行う! 尚、各種儀礼は飛ばし、早速徽章授与を行う!」
驚きと戸惑いの中、基地司令は俺たちの胸へ次々と、MOA乗りを現す、"砲を抱えた天馬型の徽章"を授与してゆく。
「以上、卒業式ならびに授与式終了! 任官おめでとうございます! 皆様のこれからのご活躍に期待をしております!」
突然、軍曹殿の口調が丁寧なものへと変わり、違和感を覚える。
しかし、すぐさま、自分たちが"少尉"となったので、軍曹よりも階級が上になったから、こうなったのだと判断した。
正直、違和感バリバリだったが、慣れるしかなさそうだ。
何の感慨もないまま、俺たちの卒業式は終わってしまった。
そんな俺たちを、基地司令は冷徹な眼差しでぐるりと見渡してくる。
「任官直後で申し訳ないが、すぐに出撃任務に着いてもらう」
司令はそう言って場所を開け、そこに林原軍曹が立った。
俺たちは動揺を押し殺しつつ、林原軍曹の説明に耳を傾けてゆく。
「1905、南アルプス絶対防衛戦が破られ、敵の侵入を許してしまいました。皆さんには至急、第七MOA大隊と合流し、防衛線の再構築と、
ついに違和感へのリアクションが抑えきれなくった俺たちは、ほぼ同時に驚きの声を上げてしまった。
(まさか、敵がここに……!? しかもこんなタイミングで……!?)
いきなりの卒業、そして実戦。
正直なところ、まだ俺にはこれが現実に起こっていることだと認識できていない。
「尚、仮ではありますが、この隊の隊長は橘少尉殿を任命します」
「は、はいっ! が、がんばりますっ!」
「副隊長は佐々木少尉殿、お願いいたします」
「りょ、了解っ!」
てっきり、成績とかうんぬんで、俺が副隊長だと思っていたが……まぁ、でも佐々木さんは隊のみんなと分け隔てなく、仲良くしているので適役ではあると思う。
「以降、橘少尉、佐々木少尉の指示に従ってください。お二人の端末にはすでに状況や作戦概要を流してありますので、ご確認ください」
「伝達以上! 解散!」
司令の声が体育館へ響き渡った。
俺たちは相互に敬礼をし、すぐさま駆け足でMOAの格納庫へと向かって行く。
そして、敵が展開されている相垈市への進軍を開始する。
ーーそして目の前に広がった光景に、深い絶望の念を抱くのだった。
『は、話と違うじゃん……!』
開きっぱなしの通信チャンネルから、佐々木さんの絶望感を窺わせる声が聞こえてきた。
山間にある相垈市にはすでに、無数の巨大植物ジュライが我が物顔で生え揃っていた。
更にそこかしこには、90式MOAの残骸が転がっている。
どうやら、この残骸の山が、俺たちが合流するはずだった第七MOA大隊らしい。
それでもまだ数十機のMOAが残っており、必死にジュライへの抵抗を試みている。
『め、恵ちゃん! どうするの!?』
『友軍を救援しましょう! メインヴァンガードは佐々木少尉、田端少尉で! 各機、それぞれのポジションでオクトゴンフォースを構築!』
佐々木さんの問いに、めぐは冷静に指示を下した。
俺たちはめぐの指示従って八角形の汎用陣形をとり、すでに
『田端くん、勝負だよ!』
と、突入するなか、突然佐々木さんが俺へ個人チャンネルを開いてそう宣言してくれる。
初陣ですごく緊張していただけに、いつもの佐々木さんの声は、俺へ安心感を与える。
「どっちがメインヴァンガードとして活躍できるかだろ? いいぜ、受けてたつ!」
『今度は絶対に、ぜーったいに負けないんだから! この隊で1番の
「言ってろ! 吠えずらかかせてやる!」
『……』
無音。そして唐突に、俺の背筋が凍りついた。
脇のモニターには、飛び散るオイルと鉄片、更にグローブをはめた腕のようなものが宙を舞っている。
「サッキぃぃぃぃーー! いやぁあぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
親友の加賀美さんの悲鳴が響き渡り、俺の意識は現状へ引き戻される。
嘘だと思いたい。これが現実などと思いたくはない。
佐々木さんのMOAの操縦席が地面から突然湧いた、ジュライの蔓に刺し貫かれている現実など……
『か、各機、判断自由! 敵を殲滅してください!』
めぐは焦りを滲ませつつ、それでも懸命に声を張り上げた。
俺たちは唐突な仲間の死を受け入れる間も無く、地面から無数に湧く、ジュライの蔓との戦闘状態へ陥ってゆく。
『お前らなんなんだ……なんなんだよ! サッキーを返せ! サッキーをぉぉぉぉぉーーーー!!』
その中で加賀美さんは佐々木さんを殺された恨みを叫びつつ、どんどん敵深くまで潜り込んでしまっていた。
『急に湧いて出てきて、なにがしたいんだよ! なんで私たちからなんでも奪うんだよ! どうして最初がサッキーだったんだよぉ!」
『加賀美少尉、下がって! それ以上は危ーー』
めぐの声が、操縦席に響き渡った緊急アラートでかき消される。
地鳴りのような音と共に、目の前の木々が薙ぎ倒される。
そしてそれに巻き込まれた加賀美さんのMOAが、闇夜へ高く打ち上げられていた。
『いや……! 助けて、サッキー……! サッーーーーぎゃあぁぁぁぁぁ!!!』
耳を塞ぎたくなるほどの加賀美さんの断末魔が響き渡った。
地面へ激突した彼女のMOAを巨大な芋虫の大群ーーペスト幼体ーーがぐしゃぐしゃと、容赦なく踏み潰してゆく。
ーーすでにこの場は最悪の状況だった。
ジュライと共生関係にあるもう一つの人類の敵・ペストが発生してしまっていたのだ。
動きは単調ながらも、圧倒的な物量で迫ってくるペスト。
もはや、この場は地獄とした言いようがなかった。
でもこれは始まりでしかなかった……。
★★★
「サッキー、こっちは終わったよ〜……って、まだ鶏肉切ってんのぉ?」
「切り方一つで味が変わるの! だからこのペースなの!」
相変わらず、唐揚げの調理自習は続いている。
佐々木さんは凄く丁寧な手つきで、鶏肉を捌いていた。
やはり元の世界の佐々木さんも、刃物の扱いがとても上手い。
「あ、あのさ、田端くん……なにさっきから、こっちをジッと見てんのかな……?」
俺の視線に気づいた佐々木さんが、恥ずかしそうに目を向けてくる。
「あ、いや、その……すごく包丁の扱い方が、上手いなと思って感心していたんだ」
「あ、ありがと! 包丁はね、昔から得意なんだ! なんかしっくりくるみたいな?」
「あれれ〜? もしかして田端くん、サッキーにほの字なのかぁ〜?」
俺と佐々木さんが喋っている間に、すかさず加賀美さんが割ってくる。
「なにバカなこといっての! 田端くんの彼女は橘さんでしょ!」
「でもでも、今の熱い視線って、なんか意味ありげだったしぃ〜最悪、第二婦人でもよくね?」
「はぁ、もうバカ……2番目なんて嫌よ。愛してもらうなら、私はオンリーワンがいいんだから!」
佐々木さんと加賀美さんの明るいやりとり。
これをただ見ているだけで込み上げてくるものがある。
そして唐突に視界が涙でかすんでくるのだった。
「ちょ、ちょっと田端くんどうしたの!?」
「すまん……ちょっと、小麦が目に入って……それで……」
佐々木さんと加賀美さんは生きている。
そして今でも、こうして仲良く過ごしてくれている。
そのことがとても嬉しく、浮かんだ涙だった。
「あーごめんね。美香、昔からそういうの雑だからさぁ……」
「サッキーひどいぃ〜。いくら幼馴染だからって、それ言い過ぎじゃない〜?」
「幼馴染だからこそよ! 美香へ厳しいこと言えるの、私ぐらいなんだから!」
「だったら、サッキーにさわさわできんのは、私の特権だよねぇ〜」
「ちょ、急にやめ……っ……あんっ! あひゃひゃひゃ!」
加賀美さんは佐々木さんのことをくすぐりだす。
こうした2人の仲の良い光景を再び見られた。
それだけで心が洗われ、異世界での2人の凄惨な最期の記憶が薄まってゆく。
と、そんな中、突然向こうの班から歓声があがった。
「なにその包丁さばき!」
「橘さん、すごいっ!」
「それ飾り切りってやつでしょ?」
包丁でまな板とトントン鳴らししつつ、めぐがギロリと俺を睨んでくる。
なんだろあの目つきは……? もしかして、怒ってる……!? でも、なんで!?
「めぐちゃん、あれ嫉妬してるねぇ? サッキー、どうするぅ?」
「ええ!? こ、困るよそういうの! 別に私はもうそういうのじゃ……田端くん、彼氏として、あとでちゃんとフォロー入れといてよね!」
「あ、ああ……わかった……?」
嫉妬深いということは、それだけ愛されているというわけで……そういうところも含めて、めぐを可愛いと思ってしまう俺は、彼女に相当ベタ惚れなのだろう。
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