異世界転移編2

第113話 元の世界で俺とめぐは激しく愛し合う。

【ご案内】

 本篇は少し複雑な構造ですので事前説明をいたします。

1エピソードあたり「元の世界」「異世界」「元の世界」この順番で描写されてゆきます。元の世界と異世界との切れ目は★★★で表しております。

 これは展開上、こうせざるを得ないといった判断です。あらかじめご理解の上、ご覧いただければ幸いです。以下、本編となります。なお、このエピソードには異世界描写は含まれておりません。


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ーー異世界での記憶を辿るために動かしていた筆が突然止まった。


おそらく、この先を辛い記憶が、筆を阻んでいるのだろう。


(でもここからが、書き出して、捨てなきゃいけない記憶なんだ……)


 そう思えば思うほど、指先が震え、胸が強い痛みに苛まれる。


 そんな中、不意に心地よい香りが鼻を掠めてくる。


「なに書いてるの?」


「ーーっ!?」


 反射的にノートを閉じた。

すると、ピンクの下着を付けただけのめぐが、背中から抱きついてきた。

傍にある彼女の横顔は、どこか不満そうである。


「隠しごと?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「そういうの、寂しい、な……」


 めぐの切なげな表情が胸に突き刺さる。

 確かに、もう俺たちは身体さえも交わす、深い仲だ。

それに……やはり、めぐには俺のことを知っていてもらいたい。


「実は、異世界での出来事を……書いていたんだ……」


「え!? そ、そんなことして大丈夫!?」


「今のところは、その……楽しかった時のことだから……兵士になるまえの、みんなと、あっちのめぐとの楽しい日々の……」


「そっか、あっちの私との……」


 口ではそういうものの、回されためぐの細腕がぎゅっとしまった。

軽い首しめの状態で、少々息苦しい。


「ちょ、ちょっと、苦しいんだけど……?」


「……」


「め、めぐ……?」


「同じ私かもしれないけど……今のしゅうちゃんの、彼女は、こっちの私、だもん……!」


 どうやらめぐは、あっちの自分自身へ嫉妬をしているようだった。

それだけ想われていることが、とても嬉しい。

そして同時に、そんなめぐへ少々、意地悪をしたい気分となる。


「でも、君は、あっちのめぐでもあるんだろ?」


「あうぅ……それは、そうかもしれないけど……」


 北海道への修学旅行で初めてキスをした時、元の世界のめぐは、自分が"異世界のめぐ"の生まれ変わりかもしれないと語った。

その言葉はきっと、俺の傷ついた心を労ってのものだったのだろう。

でも、そのことばのおかげで、俺は救われた。

だから俺が今、1番好きな人はーー


「めぐ、好きだ」


「急にどうしたの?」


「伝えたいから伝えただけだが?」


「急だと、恥ずかしい、ですっ……わ、私も、しゅうちゃんのこと、大好きだよ……!」


 ごく自然にお互いの唇を寄せ合った。

小鳥の啄むようなキスから、やがて、互いの唾液を交換し合うほどの激しいものとへ移り変わる。

こうして、お互いに気持ちを伝え合い、何の憂いもなく愛し合えることに強い満足感を覚える。


「ぷはっ……! ね、ねぇ、しゅうちゃん……あの、その……」


 めぐは薄闇の中でもはっきりわかるくらいに、頬を赤く染め、身体をしきりに揺すっていた。


「もしかして……? だが、もう3時だし……それに、もう空っぽだろ?」


「付けてなくても、私はいいよ……?」


 甘美なお誘いではあった。

実際、異世界のめぐとは、スキン無しでの行為が常だったので、有りでの行為は刺激が物足りないと思う節はある。

でも、ここはきちんと未来が存在する、元の世界。


「ありがとう。でも、無しでするのはやめよう。もしものことがあったら、困るし、そんなことでめぐのことを傷つけたくはない。無しでするのはお互いに責任がとれる立場になってからにしよう」


「そだね……変なこといって、ごめんなさい……心配してくれて、ありがと……」


 それでもやはりめぐは残念そうだった。

なので仕方なく、机の引き出しに秘蔵していた、新品を取り出す。

瞬間、めぐの表情が明るんだ。


「いくら明日が体育祭の代休だからって、ここまでだぞ? あと一回だけだからな?」


 めぐはウンウンと何度も首を縦に振った。


 俺はそんな彼女を抱き寄せ、ベッドへ誘ってゆく。


ーー結局、俺たちは一回では済まず、やはり複数回してしまった。

 そして二人して昼過ぎに起きて一緒に風呂に入ったり、いつものように一緒に食事をとったり……そのあとはやっぱりお互いにしたくなって、ずっと抱き合って、やがて疲れて、眠りに落ちるといった怠惰な1日を過ごす結果となった。


 こうやってなんの憂いもなく、愛し合えることは本当に良いことだと思った。


 そして、こうした時間を過ごしたことで、辛い過去と向き合う覚悟が決まった。


⚫︎⚫︎⚫︎


「ひぅっ! ううう……」


 制服姿のめぐは通学路を歩く中で、度々短い悲鳴をあげていた。

歩き方も少々ぎこちない。


「大丈夫か?」


「な、なんか、変な感じ……まだしゅうちゃんが、その、お腹の中にいるような気がして……」


 めぐは多少苦しそうながらも、お腹の辺りを摩りつつ幸せそうな顔をしていた。

 そりゃ、初体験からほぼ24時間し続けたのだからそうなってもおかしくはない。

実際、異世界のめぐの時も、初体験のあとはこんなリアクションをとっていたと記憶している。


「手、繋ぐか……」


「う、うんっ!」


 恥ずかしさを堪えてそう提案すると、めぐは喜んで差し出した手を握り返してくる。


 やはり元の世界のめぐの手は柔らかくて、スベスベしていて……戦いや、戦争とは縁の遠い存在なのだと、改めて思う。


 そんなことを考えつつ、通学路を歩いていると、ドキッとする2人の同級生の背中に出くわす。


「あ、田端くんに恵ちゃんおはよ」


「おは〜」


 俺とめぐへ朝の挨拶を投げかけてきたのは、同じクラスの"佐々木 京子さん"と"加賀美 美香さん"だった。


 ついこの間、この2人との思い出もたくさん思い出し、こうして挨拶を交わしただけで込み上げてくるものがある。

そして同時に、あの日の記憶も……


(あの日の最初の犠牲者は、佐々木さんと加賀美さんだったんだよな……)

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