第109話 俺とめぐは同じ気持ちだった
「はぁ……はぁ……はぁ……」
MOAの操縦席に俺の荒い呼吸と、各種機器類の洗練された電子音が混ざり合っていた。
おそらく体力も、集中力も限界を迎えようとしている。
故に、これがめぐの90式MOA「焔」へ打ち込む、最期のチャンスとなるだろう。
(やっぱりめぐは手強かったな……)
武器は弾を打ち尽くしたライフルを鈍器としたもの。
スペックも人工筋肉の搭載量も、烈火に比べ、焔は圧倒的に劣っている。
それでもここまで持ち込めたのは、めぐの元々持つ、天才的な操縦センスのおかげなのだろう。
(だがーー!)
こちらにはメインヴァンガードのポジションを獲得し、めぐを守りたいという明確な意思があるのだ。
ここで屈するわけには行かない!
(めぐは俺が倒すっーー!)
俺は烈火をグングン加速させ、めぐの焔との距離を詰めてゆく。
鋒の狙いを胸部のコクピットエリアへ定める。
すると応じるようにめぐの焔もまた、鈍器化ライフルを大きく振りかぶる。
めぐの狙いも、同じくこちらのコクピットエリア。
「ッーー!!」
しかし後少しで届きそうだった、その時、俺の意思は烈火の腕をコクピットエリアからやや上方向へずらしていた。
(いくら模擬戦でも、やっぱりコクピットは無理ーっ!!)
カタナの先端が、めぐの焔の頭部を刺し貫いた。
次の瞬間、こちらへも"ドンっ!"という衝撃が伝わり、フッと画面が消失する。
『橘、田端、同時撃破! 訓練終了しまーす!』
どうやら俺の烈火は、めぐの焔に頭部を叩き潰されたらしい。
決着は引き分けのようだ。
シミュレーターの扉を開くと、隣の機材を使っていためぐもまた、出てくるところだった。
視線が重なり合い、お互いの間に少々気まずい空気が流れる。
「あ、あの、しゅうちゃん……」
「な、なに……?」
「なんで、その……途中で狙い、変えた、の……?」
ただ淡々とめぐはそう問いかけてくる。
少なくとも、怒ってはいなさそうだ。
「いや、その……幾ら、模擬戦でも、やっぱりコクピットを狙うのが嫌で……」
「どうして? あそこ狙ってたら、勝てた、よ?」
責めてはいない。だけど明らかに問い詰めるような視線と物言いだった。
もはや正直に答える他ないのだろう。
「勝ち負けよりも……もしも、本当の戦闘だったら、あそこにはめぐが居ただろうし……やっぱり、そんなところを狙うのはどうかと思って……」
「……」
「それに、めぐだって、途中狙い変えたじゃん?」
「ひぃうっ!? あ、あ、えっと……」
「な、なんでだよ……?」
逆襲と言わんばかりに問い詰める。
戸惑っているのか、なんなのか、めぐは亜麻色の髪の先を、指でクルクル弄んでいる。
「しゅ、しゅうちゃんと、おんなじ……」
「ん? なんか言った?」
「だ、だから、しゅうちゃんとおんなじ! 本当の戦いだったら、あそこにしゅうちゃんがいるだろうから、そこを潰すのが嫌になっただけ! だから狙いを変えたの!」
やぶれかぶれと言った具合にめぐは、顔を真っ赤に染めながらそう叫んだ。
つまり、その気持ちというのは……
「そ、そっかぁ。じゃあ、お互いに同じ気持ちだったんだ……」
「う、うんっ……同じ気持ち……一緒っ……! しゅうちゃん、と……!」
俺とめぐは互いに顔を真っ赤に染めて、俯いてしまった。
「あのさー! そこの2人ぃー! いつまでもラブってないで、早く集合してよぉ!」
との恥ずかしい言葉を投げかけてきたのは、鮫島さんだった。
先に撃破された仲間たちはすでに軍曹殿の前へ整列をしている。
俺とめぐは、お互いに若干頬を赤く染めた状態で、皆のところへ向かい、整列する。
「各員、ご苦労だった。初搭乗にしては皆、良い動きをしていた。戦い方も個々の個性を活かし、MOAへそれを十二分に反映させていた。これはこの隊が持つ大きな武器であり、貴様らの最大の武器であろう。誇りの思うが良い!」
開口一番に林原軍曹殿は"良かった点"を口にした。
永らく、この方の指導を受けている俺たちは、この後の展開を自然と予測し、より一層背筋を伸ばす。
「だが! このままではそこらの荒くれ者と変わらない戦い方だ! 個性的に戦うのは良いが、それでも貴様らは遊び気分が抜けておらん! こんなので戦場に出れば、邪魔になるどころか、隊の連携を乱し、余計な被害を出しかねん! そのことをよく肝に銘じておけ!」
確かに俺もちょこっとゲーム気分だったのは否めなかった。
他のみんなも、どこか楽しそうだったように感じる。
しかしMOAは兵器であり、国民を、人類を、脅威から守る最強の矛であり盾。
遊び気分で乗るのは確かに良くないことだ。
「これより、MOAの基本動作訓練を行う! 貴様らのふざけた根性を徹底的に叩き直してやる! 各員、搭乗再開! モタモタするなぁ!」
俺たちは軍曹殿の発破に背筋を伸ばして敬礼し、再び駆け足でシミュレーターへ向かってゆく。
「ちょっと、アンタはこっちよ」
なんで毎度俺は、誰かに道を遮られるのだろうか……と若干辟易しつつ、目の前に立ち塞がった"白石 姫子特務中尉"へ視線を合わせ、背筋を伸ばし、敬礼をする。
「ご無沙汰しておりました、特務中尉殿!」
「うふ、礼儀わかってるじゃない。しかも敬礼姿、結構様になってるわよ?」
「ありがとうございます! ところで中尉殿、具申をよろしいでしょうか?」
「なぁに?」
「自分にどのようなご用でしょうか!」
「良いから、ちょっとついてきなさい。翠とユキにはちゃんと許可とってあるから」
「は、はぁ……?」
俺はさっさと歩き出す白石さんに続いてシミュレータールームを出てゆく。
一瞬、誰かの視線が気になったので、脇の方をチラリと覗いてみる。
……なんだか、めぐがずいぶん"どよーん"とした目をして、こっちを見ているような……?
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