第108話 しゅうちゃんvsめぐ


『ちょ、これ! 七海っ!』


『蒼ちゃんっ! きゃああぁぁぁーーーー!!』


高架橋の瓦礫が"どすんっ!"と倒れた途端、そんな2人に悲痛な声が聞こえてきた。


『貝塚、鮫島撃破! システム遮断しまーす!』


 どうやら2人まとめて撃破できたらしい。


 残るはこの惨状を呆然と眺めていた加賀美さんと井出さんのMOAのみ。


俺は再び烈火へカタナを装備させ、棒立ち状態の2人のMOAへ一気に突撃してゆく。


『ちょっと、最新式を使うだなんてずるぃ〜!』


『田端くん、おぼえてろぉー! ど畜生ーっ!』


 あっさり2人は俺のカタナの錆となって消えるのだった。


(よし、この調子で一気に!)


ーー俺はそのまま烈火を疾駆させ、残り5名の討伐に取り掛かる。


 まずは単身で移動をしていた、相川訓練兵の焔を背後から斬りつけ、排除。

同時期にレーダー上では、相川訓練兵とは別の光点が消失していた。


『相川、緑川撃破! 残り3!』


 緑川訓練兵を倒したのは、おそらくめぐのMOAだと思えてならなかった。


『敷島、撃破!』


 間髪入れずに、撃破報告が耳に飛び込んでくる。


 やはり俺とめぐの直接対決は、避けて通れない道らしい。


(なら、ここからはより慎重に行かないとな……!)


 なにせめぐは射撃、格闘技、座学に関しても常にトップを独走している天才なのだ。

だから、恐らくMOAの扱いであっても、きっと同様なのだろう。

現に、こちらのレーダーは、めぐのMOAの姿を捉えられていない。


 恐らく、先程接敵した時同様に、瓦礫の中に機体を沈めアンブッシュを狙っているようだ。


(正直、めぐがどこに隠れ潜んでいるかわからない。だったらーー!)


 俺は敷島訓練兵が撃破された広大な駅前公園エリアへ進んだ。

公園は開けていて、そこをビルや瓦礫がぐるりと囲んでいる。

まさに、狙ってくれと言わんばかりの地形である。


 そして予想通り、公園に到達した途端、嫌な予感が去来する。


「ーーっ!」


 烈火を翻すと、肩装甲を銃弾が掠めた。

間一髪だった。そしてこうして回避ができた俺自身も、どうしてこんなに俊敏な動作が可能だったのか、少々疑問をいだいてしまう。


(たぶん、このシミュレーターには人工筋肉搭載以外にも、何か秘密がありそうだな……でも、そんな考察は後にして!)


 烈火の背面ブースターをふかし、機体を一気に上昇させる。

そして陽の光を背景に、カタナを構えて、落下してゆく。

こうすれば、陽の光がスコープを遮ってくれる。

なによりもめぐの焔が瓦礫に身を潜めているのであれば、いきなり身を起こすなど難しいはず。


 すると突然、目下の瓦礫が盛り上がる。

そしてそこから、ライフルの銃身を持ち、上昇してくる焔の姿が!?

俺は逆噴射で機体に制御をかけ、落下を止める。

目の前をライフルのストックがよぎった。間一髪だった。


(ま、まさか、ライフルを鈍器にするだなんて……めぐの思い切り恐るべし!)


⚫︎⚫︎⚫︎


「やはり残ったのは田端と橘か……ふふ……」


 画面の中で激しくぶつかり合う2機のMOAをみて、林原軍曹はほくそ笑んでいた。


「だね。でも、やられちゃった他の子達も、なかなかいい成績をだしてたよ。さすが翠ちゃんが育てただけはあるね!」


「わ、私はあくまで、あいつらに戦士としての基本を教えただけだ……」


 真白中尉の言葉に、林原軍曹は少し恥ずかしそうな態度で言葉を返す。


「相変わらず謙遜が酷いわね、翠!」


と、林原軍曹と真白中尉の間に入って来たのは、


「姫子!」


「姫ちゃん、久しぶり!」


 軍曹と中尉は久方ぶりに、友人に会えたことを喜び笑顔を浮かべる。

白石 姫子特務中尉もまた、心の底から慕っている2人へ笑みを送り返すのだった。


「ほほう、やっぱり田端が残っているのね。どう、彼は?」


「正直なところ、来た当初は"この子大丈夫かしら?" と、思ったわね。だけど、彼は自分と仲間の力を借りて、立派に成長したわ」


 軍曹が自信満々に答えると、何故か白石はニヤついた笑みを浮かべる。


「翠も応援してあげたんでしょ? 自分の恥ずかしいところを曝け出しつつ!」


「なっーー!? な、なんでそのことを!? ちょっと、ユキ! 姫子にあの時のこと喋ったでしょ!?」


「キオクにゴザイマセーン!」


「姫子も、誤解を生むような言い方しないでよ! 確かにその……昔の失敗談は語ったりしたけど、別に変なことしてないからね!」


 軍曹は珍しく顔を真っ赤に染めつつ、そう叫ぶ。

そんな軍曹の素の表情が見られて満足したのか、突然白石は真面目な顔つきになる。


「でも、さっきユキが言った通り、この隊はすごいわ。天才の橘、天性の才能を持つ田端。その2人を筆頭に各種スペシャリストになれそうな精鋭が揃っている。この子達が戦場に立てば、人類の未来へ一筋の希望が指すかもしれないわね」


 軍曹と中尉も同様の意見であり、白石へ頷き返す。


「また生まれるかもしれないわね……稀代のエースだった、稲葉 兎中尉のような救世主が……」


 普段はちゃらけた態度をとりがちの白石の横顔に、僅かな寂しさを気取った軍曹と中尉は、あえてそこには踏み込まず、押し黙る。

そして3人は再びモニターへ視線を移す。


 モニターの中では橘 恵の焔と、田端 宗兵の烈火が対峙し、お互いに最後の一太刀を狙っている場面であった。


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