第107話 最新式MOAで無双の活躍!


ーー10式MOA「烈火」は、この世界の西暦2010年より運用が開始された、設計から生産まで全て日本国内で行われているMOAだ。


 人工筋肉フリージアの増量による新型フレームの導入、新素材を装甲に用いた軽量化と防御力の向上により、この「烈火」は「焔」に比べて、細身でスタイリッシュ。


 エッジの効いた攻撃的だけど、洗練されたフォルム。ずんぐりむっくりな、焔とは一線を画す、ヒーロー感。そんな見た目なのだから、当然高機動型で白兵戦をもこなせる、まさに最新鋭機なのだ!

 真面目に訓練をし、心を入れ替えた俺ではあるがーー


「烈火、たまんねぇ! うっひゃー!!」


 すっかり童心に帰ってしまった俺は、かなり興奮気味に烈火の操縦桿を握っていた。


 第二世代MOAは飛翔種ペスト対策として、若干の航空能力を持ち合わせている。


 俺はそんな烈火の高機動力をいかし、スナイパーの狙撃を、低空滑走で掻い潜ってゆく。

そしてレーダーが、瓦礫の中で上手くカモフラージュをしている、MOAの存在を掴み取る。


(悪いな、めぐ! いただく!)


 俺は烈火の腰からGSX1100・カタナを抜き、瓦礫へ切りかった。

鋭い刃が瓦礫を両断する寸前、そこからブースターをふかし、90式MOA「焔」が飛び出してくる。

そしてこちらへ向けて、頭部の12.7 m mをばら撒いてきた。


 俺はひらりと重機関銃の弾を避けつつカタナをしまい、代わりに専用アサルトカービンライフルの36 m mを放つ。


『ひぅっ!? つ、強い!! さすがしゅうちゃん!』


 一瞬デバイスから、めぐの声が聞こえた。

めぐの焔はそのまま姿を消してゆく。


(なんかこうしてめぐと戦うのは、なんだか複雑な気分だなぁ……)


 俺はあの子を守ると決めているのだが……しかし、そのためにもここで好成績を掴み取る必要がある。

成績が良ければ、俺の狙うポジションが与えられると思うからだ。


 俺の狙うポジション、それはーー小隊の切込要員である"メインヴァンガード"


(なら、まずはポジション争いのライバルな、"あの子"を潰しておきますか!)


 レーダーで戦況を確認。

あの子はオフィスビル群の中で、蒼太&鮫島さんコンビと、激しい銃撃戦を繰り広げているらしい。


 まず、蒼太たちのMOAへ向け、ハンドグレネードをばら撒いた。

ついでに、ライフルにマウントされている投射機からグレネード弾も放つ。

結果、ビル群がガラガラと崩れ、蒼太たちと"佐々木さん"のMOAは見事に分断された。


『そ、その機体って10式!? もしかして乗ってるのって!?』


「さっきの続きだ、佐々木さん!」


 俺は腰へカタナを納め、アームカバーの中から、コールドメタルナイフを抜き、武器を切り替える。


 佐々木さんがいくら近接戦のスペシャリストであろと、武器が長刀とナイフではリーチがありすぎ、フェアではないと判断したからだ。


『くぅ! 手加減なんて! ナイフの扱いはピカイチな私をなめるなぁー!!』


 ナイフの鋭い鋒がこちらへ向かってくる。

俺は応じるように、同じく鋒を突き出した。

 2本の巨大な刃がぶつかり、打ち上げ花火くらいの大きさの火花が散る。


ーーナイフファイトの基本はフェンシングと同意。

 鋒を打ち合い、いかに相手の懐へ潜り込むか、である。


 生身の佐々木さんのナイフファイトは思い切りも良いし、相手の一瞬の隙を付いて懐へ潜り込む天性のセンスがある。


(俺も訓練では佐々木さんとのナイフファイトに一度も勝利をしたことがない。だけどーー!)


 俺は今、佐々木さんと互角か。

いや、僅かにこちらのほうが優勢だ。

その原因は、おそらくMOAの搭載する人工筋肉フリージアの積載数と、俺の同調率が、佐々木さんを上回っているからだ。


『こ、このっ! このぉー! ああん、もう! 上手く言うこと聞いてくれなぃー!』


 動き方も、ナイフ捌きもMOAは上手く表現している。

しかしその動きでさえも、佐々木さんの意図したものからはかなり"遅い"のだろう。

だからこその、今の悲鳴である。

ナイフの扱いには負けていても、動きの再現性が高い俺の方が圧倒的に有利!


「頂くっ!」


『あっーー!!』


 俺は佐々木さんの焔からナイフを打ち上げた。

そして間髪入れずに懐へ潜り込み、頭部へ思い切りナイフを叩き込んだ。


『佐々木訓練兵、撃破! システム遮断しまーす!』


容赦ない真白中尉の宣言が、全機へ通達される。


『あーんもう、くやしぃぃぃ! 覚えてなさいよ、田端くんっ! 美香、井出、報復よろしくっ!』


 まるで悪役の台詞のようなものを捨て台詞に、佐々木さんのMOAはその場から消失するのだった。


 だが、まだ安心をするのは早計。

ヘッドギアを通じて網膜投影されているレーダーサイトの僅かな光点をもとに、烈火を横へ滑らせ、瓦礫の間へ入り込む。

刹那、先程まで立っていた箇所に、36mmの雨が降り注ぐ。


(数は4。蒼太、鮫島さん。おまけに、たぶん撃破前に佐々木さんが救援要請を出した加賀美さんと井出さんだろう!)


 レーダーでは4機のMOAが方位をどんどん狭めて来ている。


(さすがにこれ以上距離を詰められると、俺でもやられるか。どうしたら……)


と、その時、自分のMOAが滑り込んだ"頭上の瓦礫ーー道路高架橋の残骸ーーをみて、アイディアが浮かぶ。


「やってみますか! ぬおぉぉぉぉ!!!」


 高架橋の瓦礫へ烈火の肩を押し当てる。

足でアスファルトを思い切り踏み締め、背面ブースターを全力で噴かす。

最初はうんともすんとも言わなかった高架橋の瓦礫。

それがやがて"ゴゴゴっ!"と、地鳴りのような音を立てながらゆっくりと動き出す。

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