第105話 シミュレーター訓練開始!
「そうなんだ……やっぱり……」
総評験終了後、林原軍曹は"前回の試験で犠牲者が出た"とおっしゃっていた。
気になった俺は、後日、過去の記録を文書室の端末で検索していた。
そして前回の犠牲者とは"山碕 豪、川島 泰造、豊田 義継"の3名であるとわかった。
(だからこの世界に、俺を元の世界でいじめてた山碕たちがいなかったんだ……)
正直、いじめがどうとか言ってはいられないこの世界での世相である。
だが、彼らがもしこの世界に存在していたら、俺はここまで"強く"なることはできなかったかもしれない。
「しゅうちゃん? 総評験の履歴なんてみてどうしたの?」
気づくと一緒に文書室へ来ていた、めぐが後ろに立っていた。
「あ、これって……」
「帰還のヘリの中で軍曹殿がおっしゃっていたことが気になって……」
「ほんと、今回は誰も犠牲者が出なくて、良かったです……前回はこの事故のせいで途中で中止になりました……」
「一歩間違えたら、俺がこのリストに入っていたかもな。だからこうして無事、合格して、こうしてここにいる。あの時は助けてくれて、本当にありがとう」
「あの時、しゅうちゃんが生きることを諦めなかったから……私は、その手助けをしただけだよ!」
めぐはそう言ってくれるが、彼女には本当に感謝をしている。
俺はきっと、一生彼女に頭が上がらないと思えてならない。
「さて、時間だ。そろそろ行こう」
「うん!」
俺とめぐは文書室を出て、第四ブリーフィングルームへ向かってゆく。
ーー今日より、俺たちはいよいよ、シミュレーターを用いたMOAの運用訓練に入る。
するとすでにシミュレータールームには、過日の合格者が全員顔を揃えていた。
やがて定刻となり、林原軍曹と真白中尉が姿を見せる。
そして林原軍曹の鋭い号令がかかった。
「中尉殿に敬礼!」
「ほとんどの人が初めてだよね。私は、真白 雪。この美咲基地で、MOAの管制を統括しています。よろしくね」
「では、まずはMOAの運用に関する復習をしたいと思う。貴様らは休暇の間に、MOAの運用を頭に叩き込んだはずだから応えられるはずだ!」
軍曹殿の厳しい声を受け、俺たちの間により一層の緊張が走る」
「佐々木! MOAの小隊行動においての基本的な単位を答えよ!」
「四機1小隊が原則であります、軍曹殿!」
いつもはふざけ気味の佐々木さんも、こういう言葉遣いができるんだなと思った俺だった。
「よし! ではその理由を……井出!」
「あ、はい! えっと……四機の意味は……」
井出さんが言い淀んでいると、その前に立つ蒼太が、指で正方形を形作る。
すると井出さんはそれを見て、ハッとした表情を浮かべた。
「小隊を正方形とし、その頂点の角度によって、フォーメーションを変化させるためです! 代表的なフォーメーションとして、四角形の面を敵へ向けるファイヤウォール、一つの頂点をメインヴァンガードとして敵中へ突撃を仕掛けるロンブスアローがあげられます!」
「よし!」
軍曹の声を聞き、井出さんは安堵の息を吐く。そして、蒼太の背中へ熱い視線を送り始める。
井出さんの隣にいる鮫島さんは、やや落ち着かない様子を見せている。
(あそこなんか大変そうだな……機会を見つけて、なんとかしてやらないと……)
と、そんなことを考えている俺へ、林原軍曹が視線を向けて来た。
「田端! よそ見をするな!」
「申し訳ございません軍曹殿! 今からMOAに乗ると思うと、興奮のあまり、視線がシミュレーターへ行っておりました!」
「ほほう、そうか。なら貴様は早くMOAに乗りたいと思うほど、座学は完璧なんだな?」
「はっ! なんでもお聞きください!」
「ではMOAが四機編成であるもう一つの意味は何か!」
「はっ! MOAの最小編成単位が2機1組の分隊であるためです! MOAは前衛・後衛があってこそ、初めて効果的な運用ができます! この効果の発祥は80年代後半に提出された、バーミヤーンレポートです! ちなみに過日行われた総合技術評価試験に置いて、他の者との連携した上での帰還が義務付けられていたのは、この考え方を染み込ませ、MOAの小隊運用に生かすためであります!」
回答を終えると、皆がポカンとした顔で、俺のことを見ていた。
そして、林原軍曹は珍しく、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「ふっ、語るようになったな田端。それだけ、早くMOAに乗りたくてウズウズしているんだろ?」
「はいっ! 今からとても楽しみです!」
「よぉし、わかった! 復習は以上だ! これより訓練を開始する! 初日の訓練は……みんな大好きバトルロイヤルだ! ここでの戦績は、今後のポジョション決めの参考資料となるため気を抜くなよ! わかった!」
林原軍曹の声に、皆は声を揃えて『了解!」と叫ぶ。
「よし! 各員、搭乗開始!」
皆は事前に割り振られた番号のシミュレーターへ小走りで向かってゆく。
「田端くんはちょっとタンマ!」
と、俺のことを止めたのは真白中尉。
「田端、貴様はこっちだ」
俺は林原軍曹に導かれ、1番奥のシミュレーターに案内された。
なぜかそのシミュレーターだけは搭乗口のところへ、赤い線が刻まれている。
「軍曹殿、これは一体……?」
「貴様にはこの最新型のシミュレーターを使ってもらう。上からのお達しでな」
上からのお達しで、特別な機器の使用を許可される!
これって、なんだかすごくーー異世界転移した主人公っぽい! やばい! めっちゃ嬉しい!!
「ありがとうございます! ご期待に応えられますよう、誠心誠意尽くします!」
「いい返事だぞ、田端! さぁ、乗れ!」
「はっ!」
俺はニヤニヤ笑いを必死に堪えつつ、新型シミュレーターとやらに飛び乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます