隠キャだった俺が過酷な異世界生活から"強さ"を得て帰還したら……"難攻不落の子"といわれる学校で1番可愛い、しかも隣人の子に懐かれました!〜Megu-Philia〜
第101話 俺はジェイソン中尉らに腹を立てる
第101話 俺はジェイソン中尉らに腹を立てる
ダミアン少尉のM4A1カービンーーアサルトライフルーーに装着された赤いレーザーサイトが、何度も俺の視界を横切ってゆく。
だが幸いにも、まだこちらの存在には気づいて居ないらしい。
(今すぐ逃げるべきか? いや、大荷物を背負っているんだ。この状態で逃亡するなんて不可能だ。だったら……)
俺は同じく息を潜めている橘さんを見やった。
彼女が迷わず首肯を返してきてくれた。
どうやら、俺と同じく"このままやり過ごす"という方針らしい。
(ジェイソン中尉、お願いだから諦めてくれ……!)
もはや祈ることしかできない俺は、息を潜めつつそう必死に念じる。
だが無情にも、俺たちとジェイソン中尉らの距離は縮むばかり。
その度に、鼓動が頭の中に鳴り響き、異様な緊張感のためか、視界が歪む。
(判断をミスったか……やはり、さっさと逃げるべきだったか……!)
これ以上、距離を詰められると見つかる恐れがある。
ならば少しでも移動すべきか。
「ーーっ!」
しかし俺の動きを察知したのか、橘さんは俺の腰のベルトをグッと握りしめる。
どうやら"動くな!"と伝えたいらしい。
もはやこの状況では、橘さんの判断を信じる他はない。
「「ーーっ!!??」」
そんな中、森中にアラームのようなものが鳴り響き、俺と橘さんは僅かに身を揺らす。
「おおっと! 焼き上がりの時間だ! 戻ろうぜ!」
しかしジェイソン中尉は僅かに震えた茂みに全く気づかず、緊張感を解いていた。
「焼き上がりって……ちょっと緊張感なさすぎじゃ無いですか、隊長?」
キャサリン少尉は相変わらず周いを警戒しつつ、そう唇を尖らせる。
「まぁ、良いじゃないか。キャンプ気分でもなきゃ、こんな森の中で、ガキのお守りだなんて仕事やってらんねぇって」
「ですな。相手は丸腰、しかも重装備のガキたち。ガチでやりすぎたから、こちらが勝つのは当たり前です! なぁ、隊長?」
「ダミアンの言う通りだ! ってわけで、ジェイソン隊帰投! これより昼のブリスケット完食作戦を開始する!」
「はぁ……もぉ……」
ジェイソン中尉らは警戒した様子を全く見せず、そのまま森の奥へと消えてゆく。
そして中尉らの姿が完全に見えなくなったのを確認した俺と橘さんは、ようやく緊張を解くのだった。
「よ、よかったですね、助かって……」
「……」
「どうか、しました……?」
「あ、いや……」
「?」
きっと今の俺は橘さんが首を傾げてしまうような不思議な表情をしているのだろう。
実際、俺自身でも今の胸中はとても複雑である。
もちろん、こうして襲撃をやり過ごせたことにはホッとしている。
でも、先ほどのジェイソン中尉らの"キャンプ気分"といった発言が妙に腹立たしかったのだ。
(こっちは死ぬ気でやってるのに、あの人たちは……!)
もしかすると、こうして油断しているのはジェイソン中尉らだけかもしれない。
でも、こうして敵の中に大きな"穴"があることはわかった。
これはこれから先へ進むに当たって、大きな収穫であるのは間違いない。
「行こう」
「あ、はいっ!」
俺と橘さんは再び歩き出す。
そしてしばらく歩き、最短ルートの通過点である谷間に達しようとした時のことだった。
「なんか、匂わないか?」
「この匂いっ……ゴクリ……」
橘さんは生唾を飲み込んだ。
俺もまた、このふわりと香ってくる、肉の焼ける良い匂いに空腹感を刺激される。
やがて、木々の間からワイワイガヤガヤといった英語まじりの話し声も。
俺たちは匂いに誘われつつも、慎重に歩を進めて行き、そして唖然とした。
なんと、最短ルートの谷間の中腹には、敵兵たちの陣地が形成され、道を塞いでいた。
確かに、俺をはじめ、多くの訓練兵はここを通過点と設定するだろう。
ここを通らなければ大幅な、しかもかなり険しい山道を行軍する羽目となるからだ。
だから、ジェイソン中尉らはあえてここに陣取り、俺たちを一網打尽にしようという魂胆なのだろう。
加えて圧倒的な装備や練度の差があるため、余裕がある。
そうした余裕があるためか、ジェイソン中尉らは陣地でバーベキューなんかをしている。
更に酒のようなものを飲んでいるような様子も……。
「……」
「……」
俺も橘さんも正直、開いた口が塞がらなかった。
更に俺に至っては、腹立たしさがより明確になりつつある。
「……やっちゃおうか、橘さん」
「でも、どうやって……?」
橘さんは俺の発言を否定することなく、しかし最もな問いを投げかけてきた。
「アイツらかなり油断してるし、襲いかかるとか」
「それでもあっちは大人数で、武装してます。返り討ちに合います。みんなが集まるのを待つ、のは?」
確かにそのアイディアは面白うだと思った。
だけど、そのために時間を浪費するのもなんだか惜しい気がする。
(なんかジェイソン中尉らをギャフンと言わせる手段はないものか……)
と、考えている最中のこと。
ジェイソン中尉らの陣地へ、剥き出しフレームの胴体を中心に、巨大な四肢を持つパワードスーツのようなものが、大きな木箱のようなものを運んできた。
箱の中身は生肉とビール……って、今着目すべき点はそれではなく、パワードスーツの方だ。
(確かあれってあっちが使ってる、ブラッドレーとかいう
アレだったら、訓練で何度か搭乗し、隊の中でも1位の成績をとったことがある。
すると、俺の魂胆に気づいた橘さんは、
「ブラッドレーを奪えば、勝機ありますね!」
橘さんも橘さんとて、やる気満々のようだ。
「だな。でも、どうやって?」
「私が、囮になり、ますっ! 田端さんは、その好きにブラッドレーを奪ってください!」
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