殺意のくすり
@3tamaria
殺意のくすり
殺意を検出する薬ができてからというもの、日本の殺人事件はとても少なくなった。だがその反面、突如ぐわっと起こる猟奇殺人だったり、残酷な殺され方をする事件が目立つようになってきた。
今年46歳になる黒い髪よりも白い髪の方が多い刑事の荒川は、今日も捜査にあたっていた。バラバラ殺人が起きた。三件目だった。
その日は、とても暑かった。ジメジメとした熱気が顔を押し除けそうになるのを堪えて、荒川は山奥の殺害現場周辺を歩いていた。すると、どこかもわからない場所に出てきてしまった。そこには川が流れており、小さな広場のようになっていた。川のせせらぎに少し暑いのが安らいだ。
テントがあった。
荒川は、長年の勘で何かあると思った。恐る恐る覗くとそこには、男が二人いた。血塗れの。正確には、刃物を持った血塗れの男と血の元であろう切り込みの入った男だった。刃物の男は「やあ」とにこやかに笑った。荒川は信じられないと思った。人を殺したのに笑ってるなんて。
そして、荒川がもっと信じられないと思ったのは、殺意がない、ことだった。日本国民は全員、殺意検査薬の投与が義務化されている。殺意があれば、手首の部分が蛍光色に光る。なのにこいつは光っていないのだ。
そして男は
「よくここが分かったね」
と変わらない貼り付けられたような満面の笑みで言った。荒川は怯えながらも聞いた。
「お前がバラバラ殺人の犯人だろ。なんでこんなことをした」
「だって可哀想じゃない?社会に揉まれて同じような毎日を過ごして死んでいくなんて。だったら僕が救ってやるのさ。君も、そのひとり」
そう言って男は荒川を刺した。何度も何度も。
荒川は遠のく意識の中、考えた。
最近猟奇殺人が目立つ理由が分かった。殺人を楽しみとする者、正義とする者、いわゆるサイコパスは殺意がないのだから見抜けない。
殺意のくすり @3tamaria
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます