第3話 追っ手

 走って誰かが来る。

 よく見ると同じクラスの安倍くんだ。

 退魔師とか意味わからないあだ名つけられてる人。

 

「あぁ? 千田と佐藤じゃないか。こんな所で一緒にいてどうしたんだ? 今妖力を感じて来たんだが?」

「なんのことだ?」

「誰か来なかったか?」

「知らない」

「ふーん。そうか」


 なんだかそれっぽい会話が成されている。もしかして、二人とも今流行りの厨二病とか言うやつかな?


 妖力とかなんとか、そんなの本の話でしょ?


「千田、さっきまで誰かいなかったか?」


 そこで私に急に話を振ってきた。


「えっ? い──」


 前に佐藤くんに呟かれた内緒にしててという言葉が耳に甦った。凄くいい声で……。

 あぁ。ダメよ。頬が火照ってくる。


「いないよ!? 誰も居ない!」


 耳まで熱い私の顔を安倍くんは凝視して居たけど、怪訝な顔をしながら去っていった。


「千田さん怪我はない?」

「う、うん! 大丈夫だよ?」

「色々と引きつけるみたいだな?」

「えっ!? そうなのかなぁ? わかんないけど」


 頭の上に何かが置かれた。温かい。ポンッポンッと感触があった。


「無事でよかったわ。気を付けろよ?」


 えっ!? 私、頭ポンポンされてる!?

 佐藤くんに!?

 ヤバいよぉ!


 下を向いたまま佐藤くんの目を見られない。なんかもうどうしていいかわかんないくらい体が熱い。どうしよう。もう爆発しちゃいそう。


「なぁ、熱ないか?」


 私の目の前に佐藤くんの覗き込んだ顔があった。


 ち、ちかいよ!

 凄くいい匂いだし。

 私、倒れそう……。


「だ、大丈夫。ありがとね!」


 何とか口からお礼を絞り出して家へと逃げ込んだ。そして、そのまま部屋のベッドに飛び込む。枕をギューっと抱きしめる。


「恐かったけど。何でこんなに守ってくれるの? ダメだよ。私……この気持ちを抑えるのが大変……」


 でも、どうしようもないよ。

 佐藤くんに私なんて釣り合うわけない。

 ただ隣人だから気を使ってくれているだけだよ。


 うん。きっとそう。


「穂乃果ー? ご飯食べなーい?」

「食べるー!」


 なんかお腹空いてきたからご飯にしよう。

 下に降りていくとお母さんは満面の笑顔だった。


「顔真っ赤よ? また太郎くんね? イケメンだものねぇ?」

「ち、違うよ! なんでもないの!」


 からかってくるお母さんは放っておいてご飯を盛り付けて席につく。今日はお父さんが遅いみたいだから先に食べるみたい。


 ホントにお父さんは仕事のことしか考えてない。


 そういうば佐藤くんのお父さんは社長さんだったはず。忙しいんだろうな。佐藤くんご飯どうしてるんだろう?


 お母さんも夜のお仕事だったし、夜は一人なんだろうなぁ。一緒に食べようって誘ったら食べてに来てくれるかな?


 ダメよね。うん。そんな食べ物で釣るようなことは良くないよね。


「穂乃果? 食べないの?」

「あっ、ううん。食べる。いただきまーす!」


 最近食べ過ぎだからご飯あんまり食べないようにしなきゃな。


「また太郎くんのこと考えてたんでしょう? アタックしてみたら?」

「ぶっ! 違うよ! もう! うるさい!」


 私はご飯をかき込んだ。

 佐藤くんの変身した姿が頭から離れなかった。

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