第2話 殺人鬼

「昨日、亜留市で今月に入って三件目の殺人事件が起きました。今回も自宅前で惨殺死体で見つかっており──」


 朝食を食べていると物騒な事件のニュースが聞こえてきた。しかも、私の住んでいる市ではないか。


 今日は塾の日じゃないし、学校から真っ直ぐ帰ってこよう。


「なんだか物騒だなぁ。穂乃果、気をつけろよ?」

「気をつけてって玄関前でしょ? どーしろって言うの?」

「まぁ、なんだ。玄関に入ったらすぐ鍵を閉めるとかな。父さんはちょっと今日大事な会議でな。遅いから」


 言われたけど無視する。意味わかんない。そんなので助かってたら誰も殺されないでしょ。ホントに仕事のことしか考えてないんだから。


「ママがいてもねぇ? 役に立たないわよねぇ? こんなか弱いおばちゃんじゃ……」


 そう語る母は170cmの身長に体重70キロくらいのプロレスラー見たいな体格をしている。暴漢くらい撃退できるんじゃないだろうか。


「お母さんは狙われないだろうね」

「そう? 可愛いから心配だわぁ」


 一体どの口が言うのだろうか。ため息をついて食べ終わった食器を片付ける。


 高校へは電車通学。だから、佐藤くんとも会うことが多い。いつも見かけるけど、恐れ多くて話しかけたりはしないんだ。


 学校でも殺人事件の話をしている人達がいた。


「俺んとこ来たらワンパンだぜぇ」


 なんて馬鹿なことを言っているんだろう。そんなの無理に決まってる。その人達の話を怪訝そうな目で見ているのは安倍くん。


 どっかの男子が言ってたのよね。退魔師とかいう家業をついてるんだとか。現代だよ? 妖怪なんて出るわけないんだし。インチキってみんなに言われている。


 そういえば佐藤くんも角みたいなのがあった様な……。その思考も隣の友達に声をかけられて忘れていくのであった。


 ◇◆◇


「もう! なんで今日に限って委員会があるのよ! 急に開くのとかやめて欲しい! 塾がなかったから良かったけど」


 最寄り駅から早足で歩く。今日の朝のニュースが耳に残っていて後ろを何度も振り返りながら歩を進める。


 もう少しで家だ。なんだか後ろから足音がする気がする。段々と足音が早くなってくる。私はもう我慢できず走り出す。


 玄関を開けて力いっぱい閉めた。

 扉が閉まらない。

 扉の隙間には足が入っている。


「えっ!?」


 隙間からはツルツルの頭のお爺さんが見えた。

 扉はこじ開けられ腕を掴まれて外に引きずり出された。あまりの事に声を上げることもできない。


「イヤッ!」

「ケッケッケッ。柔らかい肉を裂いてやるのさぁ」


 目をギュッと閉じて倒れ込む。それでも引きずられて外に出された。


 私は殺されるんだ。

 もう終わりだ。


「おい? 何やってんだ?」

「邪魔すんなぁ!」

「チッ! お前が最近騒がれてる連続殺人犯か」


 佐藤くんの頭には赤いツノが生え、目が赤くなった。あれ? また? 目の錯覚かな?


「なっ!? なんで鬼がこんなところに!?」

「どこにでも居るだろう」

「くそっ! 予定外じゃ!」

「安心しろ。始末してやる」

「いやじゃ!」


 私を離して逃げようとしたお爺さんを捕まえる佐藤くん。


「千田さん。目、瞑ってて」

「えっ!? は、はい!」


 ギュッと目を瞑る。鈍い物音がしたかと思うと小さな悲鳴が聞こえる。何かが燃えるような音がしたかと思うと焦げ臭い匂いが鼻を突く。


 その匂いも落ち着いた頃。まだ私は胸のドキドキを感じながら目を瞑っていた。


「もう開けていいよ」

「う、うん」

「ぬらりひょんが暴れていたとはな」

「ん? なに?」

「いや、なんでもない」


 何か言っていたけど、誤魔化されちゃった。

 

「手ぇ赤いよ?」

「こ、これはケチャップだ」

「ケチャップ潰したの?」

「そ、そうだ。気にしなくていい」


 また私は佐藤くんに助けられたみたい。鬼とかぬらりひょんとか、なんだか妖怪みたいな……。でも、そんな妖怪なんて居るわけないよね。

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