片思いの佐藤くん、実は鬼らしい
ゆる弥
第1話 きっかけ
塾の帰り道は暗くていつも怖い。今日に限ってコンビニの前には男人達が屯していた。下を向いて足早に通り過ぎようとする。
「おぉー? 塾の帰りかなぁ?」
「顔はそんなだけど、真面目な感じがいいねぇ」
「ねぇ、俺たちと遊ばない?」
男達は口々に声をかけてくる。私は恐怖のあまり目をギュッと閉じて縮こまった。
「なぁ? こいよぉ!」
「遊ぼぉーぜぇ?」
腕を触られる。
やだ。恐い!
それは突然だった。
急に男達とは反対方向に腕を引っ張られ誰かに抱き抱えられる。
「止めろよ」
私の前に立ちはだかってくれた。誰だろう?
後ろから見る制服は私の通っている学校の制服だ。胸が高鳴る。誰が私なんかを助けてくれたの?
「なんだテメェ!?」
「痛い目にあいてぇ見てぇだなぁ!?」
「格好つけてんじゃねぇぞぉ!」
前に立ちはだかる人にドンッと衝撃がくる。
殴られたのかな?
大丈夫?
「おい! やべぇって!」
「に、逃げるぞ!」
「お前がいけねぇんだからな!」
盛大な足音を立てながら男達は去っていった。
静まり返った暗闇の中で前の人が振り返る。
月明かりに照らされた顔は整いすぎていて、どこか冷淡で鋭い目はこちらを見下ろしている。その顔は見た事がある顔だった。
「あれ? 佐藤くん?」
隣の家の佐藤太郎くんだった。同じクラスの男の子で普通すぎる名前が逆に目立ってるって話題だった。容姿も相まって、学校では知らない人はいないと思う。
「千田さん、大丈夫?」
そう私への心配を口にする佐藤くんのお腹からは血がドバドバ流れ出ていた。
「えっ!? ちょっ! 大丈夫!?」
「んー。問題ない」
「いや、あるよ! きゅ、救急車!」
慌てて携帯をカバンから取り出して119を押──
「──本当に大丈夫だから」
手を握られた。あまりの手の冷たさに私の火照りが伝わらないかと心配になる。佐藤くん凄い手がツルツル。
佐藤くんを見上げると目の錯覚かな?
目が赤くなってるし、頭に角のようなものが見える。
何やら「シュー」と音を立てながらお腹の傷が治っていく。
「ねっ? 大丈夫でしょ?」
「ねっ? じゃないよ! どういうこと!?」
「んー」
顔を近づけてくる。
えっ?
なに?
近いよ!
「この事は内緒にしてて? 隣人のよしみで」
そう呟くと回れ右をしてゆっくり歩き出した。ついて来いってこと?
確かに家隣だけど。
ゆっくりと後ろをついていく。私の歩幅に合わせて歩いてくれているみたい。いきなりなんでだろう。こんなにドキドキするなんて。
なんで、急にこんなことになるの?
しかもさっきの何?
謎が多すぎるよ。佐藤くん。
「おっ! 穂乃果じゃないか! 太郎くん、送ってきてくれたのかい? ありがとうね!」
「あー。いえ」
家の前であったのは私のお父さんだ。
佐藤くんはそのまま家に入っちゃった。
もう。お礼を言うタイミングがなかったよ。
「お父さんのバカ!」
そう言い放ち家に入った。
部屋に入るとベッドに飛び込む。
まだドキドキしてる。
佐藤くんの体、ゴツゴツしてたなぁ。
はっ!
ダメよ。変なこと考えちゃ!
「うーーーっ!」
私みたいな地味な女が佐藤くんとなんて有り得ないよ!
うん! 有り得ない!
はぁ。明日どんな顔して会えばいいんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます