第37話 起動
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オシリスの羊たち
ep.37 第37話 起動 予約中
掲載日:2024年12月24日 18時00分
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本文
〔これまでのあらすじ〕
オシリスの羊シロ、魔王の娘クロ、誘拐された妻を探すアラクネ族の末裔パウク、死を偽装して自由になった元騎士イグニス、彼を慕う元騎士ヴィトラ、そして2人目のオシリスの羊ミヅイゥ。6人の世界を救う旅は続く。
水渧宮を離れリュポクス海岸に戻ってきたシロクロ一行だったが、突如ミヅイゥの瞬間移動テレポーテーションのスキルが発動し、とある丘の上にワープしていた。そしてそこはシロのよく知る場所であった。
「クロさん…あれを」
シロが見つめている先を指差した。
「何…あれ…」
「私この場所知っています。おつかいで通ったことがあって。あそこ、レニカの街ですよ」
「空が…赤い」
その場にいる全員が同じ光景を目にしていた。つまりこれは幻覚でもなんでもなく、れっきとした現実であった。
「とにかく行ってみましょう。シロ、街まで案内してちょうだい」
6人は街へと急いだ。
人魔境界線付近に位置し、普段から閑散としているレニカの街であったが、そこには妙な静けさがあった。
通りには人一人おらず住宅の窓も閉め切られ、室内の灯りが漏れる建物もわずかだった。
シロの知るレニカの街で最も暗かった。その暗さは印象の問題だけでなく、厚い雲で太陽は遮られ、照度の面でも実際に暗かった。
街に入るとひたすら空に伸びる赤い光線を目印に進んだ。
やがて街を抜けて再び草原に出る。その先に塔はあった。
その塔こそがこの事態の元凶のように見えた。塔の先端から放たれる赤色の光線が空を貫いていた。
「深陥睡眠ユーピモルグ」
突如足元で術が弾ける。白煙が辺りに立ち込める。
「ガスか…!吸っちゃ…」
手遅れだった。6人はその場で気を失う。
「運べ」
「「「ハッ」」」
「おい、起きろ。おい」
雑に体を揺さぶられる。6人は目を覚ますとどこかの木の板の上に寝そべっていた。
――板…いや、これは床だ。
クロはガバッと体を起こす。
「ここは」
「お目覚めか。ようやく会えたな。逃亡者」
「貴方は!」
そこにいたのはレニカ騎士隊隊長カピタノであった。
6人は続々と目を覚ます。
イグニスの前に一人の男が立つ。
「報告を受けてまさかとは思ったが、生きていたとはな。イグニス・ヴォクユ」
「セレスト・ナヴアス騎士団長…!?」
「やはりヴィトラ・イコゥはヴォクユと共にいたか。何のつもりだ?」
「申し訳…ありません。どうか分かって下さい、騎士団に刃向かうつもりはありません。私達はただ、旅をしているだけで…」
「手配されている人間と共にか?」
「彼女達に悪意はありません。本当です」
「ならば答えろ。どうしてここに来た」
「もちろん、あの塔を止めによ」
ヴィトラの代わりにクロが答えた。
「貴様は魔族ではないのか?何故人族の味方をする」
「確かに私は魔族よ。でも私は人族も救いたいの。二つの種族が争いなく共存する世界を望むから」
「理解に苦しむな。大方スパイといったところだろう」
「信じて!私は人を食べたことがない」
「口先でなら何とでも言える。証拠がない」
「…ベッヘルム」
「人界北部の?」
「そう。あそこに攻め入ろうとした魔王軍を退けた」
セレストは考えた。
――確かに妙な動きだった。それに知りうるのは一部の人間のはず。
「それにセントプリオースやプロリダウシアを救ったのもシロとクロだ」
「その件については騎士団は一切の関与を受けていない」
「関与がないだと?セントプリオースで死んだ奴らのことはどうなんだよ!?」
イグニスが怒鳴って立ち上がる。
「座れ」
イグニスはどかっと座り込む。
「分かった。じゃあ囮でいい」
クロはそう言い出すとそのまま続ける。
「私達がレニカの街の一件を片付ける。騎士団はその様子を見ているだけでいい。もしも私達でも手に負えなかった時は貴方たちが好きにすればいい。騎士団にとっても悪い話じゃないはずよ。だからお願い、私達をあの塔に向かわせて」
クロはセレストを真っ直ぐ見ながら言った。セレストは一瞬考えると答えた。
「許可する。但し条件が二つ。こちらが攻撃開始を判断した時の君達の安全は保証しない。そして見張りを1人同行させる」
「みんなはどう?」
クロが尋ねる。誰一人として意見する人はいなかった。
「それでいいわ」
「交渉成立だ」
クロとセレストは握手を交わした。
そしてシロ、クロ、パウク、イグニス、ヴィトラ、ミヅイゥの6人は騎士団に連れられて塔の近くまでやってきた。赤い空の真下、特に塔の付近には多くの鳥の死骸が転がっていた。
まずは塔の様子を伺う。
「これより皆さんと行動を共にするアシミラです。どうぞよろしく」
セレストが提示した条件によって6人に同行する騎士がアシミラという者であった。
「お初お目にかかります。ギニラルイグニス・ヴォクユさんとテネラルヴィトラ・イコゥさん。お供できて光栄です」
「ありがとうね」
合流前、ヴィトラは全員に言った。
「同行する騎士は私とイグニスに任せて。あなた達は何も喋らないで」
当然である。他は追われの身と魔族と素性不詳しかいなのだから。加えてアシミラの判断が彼らの今後を左右するとも言えよう。少しでも不審に思われては詰みである。
「アシミラはレニカの街の?」
「はい。この街出身の二等騎士です」
「あの塔について知っていることを教えてくれないかしら」
「はい。一ヶ月程前のことです。建造責任者のシャンティーサ・フィコさんがこの街にやってきました」
クロがヴィトラを見る。ヴィトラは頷く。
「待って、あれを作ったのがシャンティーサ・フィコなの?」
「ええ。記録では着工日が確かチベ25日だったような」
「どういうこと?一ヶ月前でチベ25日?月を間違えてるのかしら?」
「いえ…。それはないかと。今はメーシャ29日ですから」
「は!?それは本当かよ?」
思わずイグニスが声を上げる。
「ええ。今朝も確認しましたが…」
イグニスはクロに囁く。
「だってリュポクスの宿のカレンダーがチベの5日とかだっただろ?したら一ヶ月どころか二ヶ月近く時間が経ってるってことになるぞ」
「水渧宮にいたのもたった数日のことだから…もしかして時間の進み方が違った?」
クロが言う。
「あ、ああそうね。私が間違えていたわ。今はメーシャだものね」
ヴィトラは慌てて誤魔化す。
「それで…シャンティーサ・フィコはまずいわね」
「何がですか?」
アシミラはキョトンとしている。それもそのはずだ。
「アシミラは…獣って知ってる?」
「獣?イノシシのことですか?それとも魔物?」
「違うわ。黙示録の獣」
「初耳です」
レニカの街の人間にセントプリオースの一件が伝わるはずもなかった。
「私達が2度対峙した最悪の魔物よ。人の脳に入りその人を支配する」
「そんな…。まさかフィコさんが?」
「私達はそう踏んでいるわ。この塔がシャンティーサ・フィコによるものなら獣が関与している可能性は高い」
「やったな。好都合だ」
イグニスはそう言う。
「ここで獣と決着をつける」
ヴィトラが力強く頷く。
「分かりました。警戒しておきます」
アシミラを加えた7人は改めて塔に向き直る。
「それじゃあ行きましょう」
扉を開けて中に入る。そこには上へと伸びる螺旋階段があった。それ以外は何もなかった。
クロが先頭に立って階段を登る。中々先は見えない。階段が続く。
そして突如目の前が開けた。7人は塔の最上部に到達した。
「おやおやおやおや」
そこにいたのは…
「シャンティーサ・フィコッ!」
イグニスはその名を叫ぶ。まさしく本人であった。
「久しぶりだね。イグニス・ヴォクユ。ヴィトラ・イコゥ。そして初めまして、君がデュアル・パレスチャンピオンのシロだね」
シャンティーサはシロを真っ直ぐ見て言う。
「あなたなの?3人の巨漢を送り込みシロの本を奪ったのは」
「君は?」
「私はクロ」
「そうか。どうぞよろしくクロ。二人合わせてシロクロか。実に面白い。そして質問の答えだが、イエスだ」
「あれはシロの物よ。返しなさい!」
「生憎もう私の手元にはないのだよ。すまないね。他を当たってくれ」
「俺にも質問させろ。お前、ロゼットに何をした?」
「ああ。ロゼット・プロパニア君だね。大進化シリーズ識別名称コードネーム:ウルフの贄になってくれたよ。どうだったかな?ウルフの性能は」
「テメェ、ふざけるのもいい加減にしろよ」
「そう気を荒立てないでくれ。私は命令に従ったまでだよ」
「なんだと?」
「イグニス・ヴォクユ、君を殺す為の兵器の開発にね」
「…俺?」
「そうだよ。君の強さが招いた事だ。ロゼット・プロパニア君も可哀想に。きっとまだ意識はあったはずさ。君に殺されるその瞬間までね」
「ちが…ざけんな…」
イグニスの声が震えている。あからさまに狼狽えている。
「適当な事言わないで!あなたが原因でしょう?」
ヴィトラがすかさず語気を強めて反論する。
「確かにウルフを送り込んだのは私だ。だが大人しく本を渡していれば済んだことだったのではないのかい?」
「急に襲ってきて何を言っているのよ。よく分かったわ。あなたは獣も関係なく狂っている。今もこの塔で悪事を企んでいるわね」
「いやいや、これも全て人類の為だよ。私には成すべき事があるのさ」
「ふざけないで。空を真っ赤に染めて、何が人類の為になるの?」
「うむ。私のそばにあり、今も光を放つこの装置。これを時空間位相逆行装置ウプ・レンピットと呼ぶ。今この塔が放っている光線は準備段階に過ぎない。そして間もなく、全ての準備が整う。感謝するよ諸君。長話に付き合ってくれて。できればこのまま邪魔をしないでもらいたいのだが、そういうわけにもいかないだろう。だから用意しておいたんだ」
シャンティーサが指笛を吹く。するとシャンティーサと7人の間にある男が姿を見せる。
「識別名称:カメレオンだ。後は彼と楽しんでくれたまえ。それでは失礼しようかな」
シャンティーサは手元のボタンを押す。するとウプ・レンピットを乗せた円形の台座が上昇を開始する。同時に台座と同じ大きさの穴が天井に開く。
台座は穴にはまり、天井は再び閉じられる。
「ケラケラケラケラ。俺様が相手だゼェ」
カメレオンはそう言って姿をくらませる。
「ヴィトラ!」
「魔術解析サピテリア。そんな!見えない…」
「なんだって…ガッ!」
イグニスの腹部に拳がめり込む。イグニスは透明の腕を掴もうとするもすでにそこにはなかった。
「コイツ…見えねぇだけじゃなくて、速い!」
――ダンッ
ふくらはぎを勢いよく蹴られたイグニスがその場に倒れる。
「クソ…ッ。おちょくりやがって」
イグニスは立ち上がり双剣ヨモツマガツを引き抜く。
「どこからでもかかってきやがれ!」
パウクはその間にも部屋中に糸を張り巡らせていた。
「これなら相手の動きを感知できるはず」
しかし待てども糸はぴくりとも動かない。
刹那、糸が一気に切断される。
「なっ…!」
カメレオンは身のこなしで糸の間をすり抜けながら糸に僅かな切れ込みをいれていたのであった。
「シロとミヅイゥは危ないから下がってて」
クロはそう言って2人の前に出る。
「クロさん…」
「大丈夫。あなたはいるだけでいいの」
――でも…。
即座の五連撃によりクロはよろける。
「クロさん!」
透明の拳がシロに迫る。
「危ない!」
間にアシミラが割って入る。ひたすら殴られ続けるアシミラだったが、その場を退こうとはしなかった。
「うーむ。なんとも面白くなイ。ウルフ兄さん達を殺したお前らなら楽しめると思ったんだがナ」
カメレオンは移動しては一瞬姿を見せて場を翻弄させる。そして気の向くままにそばにいる人を殴り倒した。
――みんな戦っているのに。私は…。
『シロも戦いたいのかい?』
脳内に声が響く。
――その声は…キュビネ!
『久しぶりだね。ボクはこの塔の地下で待っているよ。力を求めるなら、下りておいで」
シロは後方の階段に視線を向ける。意を決すると一気に飛び出して駆け下りる。
「シロ!…キャッ」
シロの背中を目に留めたクロであったが、カメレオンの攻撃から逃れることができなかった。
一方、シャンティーサはさらに上階にてその時を待っていた。
「来た」
塔の先端であるドーム状の屋根が開く。ウプ・レンピットから放たれていた赤色光線が収まる。
射出口の先端から4本の支柱が伸び、傘状の鏡面が展開する。
「獣よ、準備はいいかい?」
「アア」
「放熱完了。全計器正常値確認。それでは始めようか、パラダイムシフトを。ウプ・レンピット起動」
シャンティーサは最終電源を入れる。射出口から放たれた紫色の光線が鏡面で反射して全方位に広がる。
光線は塔を中心に半球状に伸び、地面へと到達する。その空間一帯が紫色の膜に覆われる。
「ハハハハハ、ハハハハハ!遂ニ始マルゾ。黙示録ヘルガ!」
オシリスの羊たち 白黒羊 @hi_tu_zi2020
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