第23話 激烈

〔これまでのあらすじ〕

世界の終焉、〈神判の日〉まで残り1年。魔族の娘であるクロは世界を救う鍵となるオシリスの羊という存在の少女シロと出会う。クロを助ける為に騎士を殺したシロは、その罪を償う為にもクロと共に世界を救う旅に出たのであった。

第一回戦バルゼンジーク討伐ゲーム、第二回戦運試し鬼ごっこゲームに勝利したシロは第三回戦バトルロワイヤルゲームに進んだ。


「私は何としてでもこの戦いに勝たなきゃいけないんです。それに皆さんはいい人です。傷つけたくない。だから…だからここで、脱落して下さい」

「え?」

深陥睡眠ユーピモルグ

シロを見た8人全員がその場で倒れた。

「おーっといきなり8人がダウンだ!ただ1人そこに立つのはシロ!第三回戦も絶好調だア」

完全防御コシフォン

シロを含めた9人の周りが爆撃に遭う。シロは寸でのところでバリアを張って眠る8人を守った。

「係員!早く彼女たちを回収して下さい!」

そう言ってシロはその場から走り出した。射線がその後を追う。

鏡面反射テラフレン

立ち上がる砂埃の中から閃光が煌めく。途端にシロを追う爆撃が止んだ。

「シロオオオオオ!」

――ドォォォォン

響く重低音。またしても闘技場に岩の柱が着弾した。

シロは地面を蹴ってギリギリで避ける。しかし着地できずに転がった。

「テメェは厄介だ。俺が優勝出来なくなるだろオオオ」

「やば!」

再び岩の柱が迫る。

粉崩塵壊ギラゼブール

シロの指先に岩の柱が触れた瞬間それは粉々に砕けた。

「チッ…なにッ!?」

カルブサヒは驚愕した。自分のスキルで生成したはずの岩の柱が大量に降り注ごうとしていたからであった。

岩石遊遊クロクロク

頭上に岩の壁を出現させて攻撃を凌ぐ。

「誰だアアア!」

「シロという闘者はどうやらスキルをそれぞれ一度しか使っていない。スキルは慣れと熟練だ。繰り返すほど精度は上がり体力の消耗も減る。つまり我々に比べシロは明らかに疲れている。ならば手練れのスキル使いを倒すの先決だろう」

グアルダはパンと手のひらを合わせた。

複製精製スピノピオン

無数の槍がカルブサヒ目掛けて放たれる。

「クソ、すでにコピーしたものなら何度でも作れるってかッ!?」

カルブサヒは拳で地面を叩いた。

「岩石遊遊」

逆に自らの足元に岩の柱を生成することで槍を避けた。槍は岩の柱に真っ直ぐ突き刺さった。

「俺に上を取られていいのかい??岩石遊遊」

グアルダは逃げた。カルブサヒはその後を岩の柱で追撃する。

「やっぱりそうだ。テメェは触れた物しかコピーできない。岩壁を作らないのはそれが原因だろうッッ!」

グアルダは避けることができる。しかし他の闘者は違った。何人ものスキルを使えない闘者が岩の柱の下敷きになった。

シロはグアルダと反対方向に逃れ、柱の影に身を潜めていた。

「ハァ、ハァ、ハァ。まだダメ…。続けなきゃ」

シロは歯を食いしばった。


「とんでもないことになったぞ、クロ殿」

「ツヴェルフさん、これが普通ですか?」

「滅相もない!異常でございますよ。どうして…」

「どうしてスキル使用者がこんなにいるの?」

3人はクロの右隣を見た。そうそこにはヴィトラがいる。

「それに見ない顔もチラホラ。どうしてプロリダウシアなんかに?ダスロ様が許可を出したの…?…まさか!」

ヴィトラの出した大声に周囲の注目が一瞬集まる。

「ねぇ、どうしたの?」

クロが尋ねた。

「そんな…あり得ない…。あってはいけない」

「だから何が…」

「イグニス殺し…ッ!そのカードだけは切らないと思っていたのに」

「イグニス…殺し…?」

その時フィールドにカルブサヒの怒号が響いた。

「やいテメェ!俺たちで争いあっても意味ねえじゃねえかよ!予定通りに動けや。テメェの仕事はまずあの女を殺すことだろォ!?」

カルブサヒがヴィトラを指差した。

「え?」

「こうなりゃ俺がやる。報酬アップだぞ。岩石遊遊」

観客席目掛け岩の柱が勢いよく飛び出した。

――バリン

ヴィトラの席の真上、隔離室の、フィールドを望む一面ガラス張りの窓を蹴破ってイグニスが落下した。

烈炎双剣デュアルフレイム

――ドンッ

落下の勢いを刃に乗せたイグニスはカルブサヒの岩の柱を叩き切った。

「願いの為なら命でも賭ける。デュアル・パレスの闘者っていうのはそういうもんだ。だから俺の命ならいくらでも狙え。だが、そこにヴィトラを巻き込むな」

イグニスは刃先をカルブサヒに向けて睨んだ。

「イグニス・ヴォクユッッ!ではここで貴様を殺そうかッッ!!」

「「「フォォォォォォ」」」

歓声が上がる。

「岩石遊遊」

「烈炎双剣」

途端に粉塵爆発。拮抗したスキルは辺りに暴風を撒き散らした。

カルブサヒに迫るイグニス。カルブサヒは岩の壁を続け様に出現させるもイグニスは一振りでそれを破壊していった。

「ウソだろ、話が違うぞダスロォ!」

「やはりその手先か。俺の剣では貴様の壁は切れない想定だったか?悪いな。俺だってプラプラしてたわけじゃない」

イグニスは地面を蹴った。大きく飛び上がる。

「強くならなきゃいけないんだ。獣を倒すまでは」

「潰れろォォォ!」

イグニスの上空と足元から岩の柱が迫る。イグニスはヨモツを上にマガツを下に向けた。刃に触れた柱が砕ける。

「烈炎双剣」

イグニスはマガツを振り上げヨモツを振り下ろした。マガツは右腕をヨモツは左腕をそれぞれ肩から切断した。

カルブサヒは倒れた。

「もう動くな。まだ助かる」

「いいいいやあああああ、まだ終わっちゃいねーぜええええけえ。俺はお前を殺したくなったああ!岩石遊遊、最大出力ウウウウウッッ」

闘技場上空に突如出現した超巨大円盤。岩の楕円柱は闘技場をすっぽりとその外周の内に収めていた。

「一度生成したものは俺が死んでも消えることはない。闘技場もろとも潰れて死ねえええええ。さあどうする、ヒーローッッッ!?」



一方、フィールドの反対側にて。

「ならば私は優勝を狙おうかな」

グアルダはパンと手のひらを合わせた。

「複製精製」

フィールドに乱立する全ての岩の柱に向かってコピーした岩の柱をぶつけた。

「さあ出てこいシロ。逃げ隠れて回復しようったってそうはいかないぞ」

瓦礫の山の中から何かが飛び出した。

「そこかッ」

無数の槍が放たれる。

「コート?」

グアルンダの背後には剣を構えたシロがいた。

「…クッッ!」

即座に身を翻しシロの腹に指先を向けて手を合わせる。

――パンッ

一本の槍が腹を貫いた。しかしシロの姿が揺らぐ。

「幻影だと…ッッ!」

「汝瞳に映るは夢幻の如く。姿現偽幻クラクラ

グアルンダの周りをゆらゆらと複数のシロが歩き始めた。

「ふざけやがって!」

――パンッ

シロを潰すように自らの周囲に岩の柱を落として囲った。

打投鉄球ビーブバル

シロは鎖を振り回し柱に向かって投げると先端についた鉄球が柱に穴を開けた。

「ならばこちらも奥の手を使おう。決勝に残しておいた余力を使い切るッッッ!複製精製ッッ」

グアルンダは右手で自らの胸を叩いた。

――ドンッ

すると地面から大量のグアルンダが湧き出てきた。

「どうするシロ、本体を見つけないと止められないぞ?」

「岩石遊遊」

シロは地面に手をついた。そこから十字形に岩の柱が乱立した。

霊峰針山トラストラス

シロの周囲の地面から長さ3mの針が無数に飛び出した。


「シロ…あの子やりやがったわ!」

クロが興奮気味に言った。

「どういうことだ?」

パウクは未だ分かっていない。

「言うなれば、全スキル発動待機状態!」

そう全ての呪文を唱えた今のシロは呪文詠唱の時間を無視して自在にスキルを発動することができる。それでもスキルが暴発しないのはシロの根性と言えよう。


それでもグアルンダは止まらない。

「そんなの序の口だぞシロ。手を休めるなァ。どちらが早く潰れるか勝負だッッ!」

大翼飛翔ウィンテリア

シロの背中に光の翼が生えた。そして闘技場の天井付近まで飛びあがる。

周知探索ルグルマース

シロは目を見開いた。

――上空ッッ!

しかしついに限界が来た。虹彩の輝きが失われていく。シロの両目から血の涙が溢れた。

――まだ、もう少しだけもって。…お願い!

シロは両目を手で覆い、硬くなった瞼を無理やり閉じた。

「天地開闢貫くは雷鳴が如く。金色の光より敵を討たん。雷金天弓ギラテラス

そして開眼。再び虹彩の縁が赤く輝いていた。

シロの手に弓が握られる。左手を天に向け右手で光の矢を引く。弓は光を放ちながらどんどん巨大化する。そしてついに弦が伸び切った。

「さあどうする、ヒーローッッッ!?」

イグニスは闘技場内に太陽を見た。それは厚い雲で覆われたプロリダウシアでは絶対に見られないものだった。しかし彼は太陽を知っている。何故ならプロリダウシアを出たから。太陽、それは彼らの自由の象徴。

「バカ言え。俺はヒーローなんかじゃない。ヒーローっていうのは…」

そこまで言うとイグニスはシロを見上げた。

「シロ、放て」

バンッ!」

シロは右手を離した。放たれた光の矢は闘技場の天井を貫き、その上に迫る岩盤を貫き、厚い雲を貫ぬくとそこで破裂して粉々に散った。

光の矢のカケラの一つ一つが流星群となって闘技場のフィールドに降り注いだ。

「ハハハハハ、空からの飽和攻撃か。そりゃ誰も勝てねえわな」

イグニスは心底面白がるように言った。

流星群は上空の岩盤を砕き、乱立する岩の柱を粉砕し、増殖するグアルンダを全て潰した。

更地と化したフィールドにはシロとイグニスと、瀕死のその他闘者だけが残った。

「そこまで!これで第三回戦バトルロワイヤルゲームは終了です」

マーターのアナウンスが闘技場の静寂を破った。途端の大歓声。

「決勝進出を決めたのは闘者シロ!それでは皆様、只今よりリベットタイムを行います。負け続けで一発逆転を狙うそこのあなた!チャンピオンか挑戦者に賭け直して一攫千金を掴み取れ!決勝戦は30分後に行われます!」

「やった!シロが、シロが勝ったわよ!」

「ああそうだな。シロ殿が勝った!」

「素晴らしい。お見事ですな!」

観客陣大盛り上がりであった。

「分かってるの?決勝ってことは、イグニスかシロ、どちらかが死ぬってことなのよ」

ヴィトラの一言でその場が凍った。

「…悪いけど、勝ちは譲れないから」

クロはなんとか言い返した。

それから30分、その場だけ無言が続いた。


「お待たせ致しました!いよいよデュアル・パレス春第二大会、決勝戦です」

マーターの声と共にファンファーレが鳴る。

「赤陣、チャンピオン、イグニス・ヴォクユ!白陣、挑戦者、シロ!」

2人が真反対のゲートから入場する。

「決勝戦はどちらかの闘者が死亡するまで続行します。死亡判定は3人の審判により行われます。さぁ両者位置についたようです」

シロとイグニスは互いの剣が交わらない程度の距離まで近づいた。

イグニスが抜刀した。獣により歪められた双剣ヨモツマガツを握りしめていた。

シロも鉛筆を取り出すとそれが剣に変わった。轟斬撃剣エクセスの効力は依然健在だった。

「それではいきましょう。デュアル・パレス決勝戦、スタートッッッ!!」

「ここまでよく勝ち上がった、シロ。だが獣を野に放ったこと、俺は許さない」

「獣を止めるためにもここで勝たなくちゃいけないんです。イグニスさん、世界の為に死んでください」

「世界くらい、俺が救ってやる。烈炎双剣デュアルフレイム

イグニスは顔の前でクロスさせたヨモツマガツを振った。炎の斬撃が飛び出す。

シロはその斬撃を断ち切った。足元に斜めに斬撃の跡が走る。

烈火大剣フレイムバーン

シロの虹彩の縁が赤く輝いた。

「……ダンッッ!」

――ザッ

シロは剣を足元に突き立てた。するとシロとイグニスを丸く囲うように炎の壁が地面から吹き出した。

最後にイグニスは師ダスロの言葉を思い出した。

『貴様の技、烈火大剣は文字通り剣を起点に火を放つ。ワシの技もそうだ。して炎属性のスキルの使い手と言えど、火を自然生成させたりましてや口から拭くなどできうる芸当ではない』

――完敗だ。

そしてシロの顔を見た。

――ドサッ


炎が降りた。フィールドには横たわるイグニスの姿があった。

その場に3人の審判が駆け寄る。一瞬の協議の後、同時に旗が上がった。

「白旗三本!イグニス・ヴォクユ完全死亡により勝者は挑戦者シロ!」

マーターの声が響く。

「……イグニスッッ!」

ヴィトラは身を乗り出して敗者の名を叫んだ。

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