第22話 勝利条件

〔これまでのあらすじ〕

世界の終焉、〈神判の日〉まで残り1年。魔族の娘であるクロは世界を救う鍵となるオシリスの羊という存在の少女シロと出会う。クロを助ける為に騎士を殺したシロは、その罪を償う為にもクロと共に世界を救う旅に出たのであった。

プロリダウシアにてデュアル・パレスに参加したシロは第一回戦バルゼンジーク討伐ゲームをクリアしたのであった。


「それでは第二回戦運試し鬼ごっこゲームに参りましょう」

司会のマーターの声と共に観客が沸く。

「このゲームは文字通り運要素の強い鬼ごっことなります。タッチされたら交代の変わり鬼形式ですが、しかァし!普通の変わり鬼ではなく鬼が不明の変わり鬼となります」

「鬼が不明?」

まだよく理解していないクロがマーターの言葉を反芻する。

「第二回戦出場の71名のうち、こちらで41名の鬼を選出いたしました。しかし誰が鬼なのか、それはドデン様のみが知っているということです。あなた方にはドデン様の合図が送られるまで鬼ごっこをしてもらい、最後に鬼だった41名が失格となります。もう一度言いましょう。誰が鬼かは分かりません。もちろん、自分が鬼であるかどうかすら。仮に鬼が鬼にタッチした場合は鬼が譲渡されないので注意しましょう。自分が鬼である可能性を信じて他人に鬼をなすりつけるもよし、鬼でない可能性を信じてひたすら逃げるもよし。ただ一つ確定している事は、第三回戦に勝ち残れるのは30人だけということです」

「なるほど、だから運試しか」

パウクが手のひらに拳を置いた。

「納得してる場合じゃないわよ。これじゃあどんなに実力があっても運だけで失格じゃない」

背中を曲げて太ももの上で指を絡めるクロが言った。

「クロ殿、シロ殿を信じましょう」

パウクの言葉にクロは目を見開いた。

「それではお前ら準備はいいか?」

マーターが開幕コールの前振りをする。

「そうね」

クロは顔を上げてフィールド上を見つめた。

「デュアル・パレス第二回戦運試し鬼ごっこゲーム、スタートッッ!」


シロは辺りを見回した。どうやら他の闘者もどう動くか考えているようだった。

――自分が鬼である可能性を考慮すれば、とりあえず誰かに触れてから逃げた方が確実ではある。でも相手が鬼だったら…いや、どっちみちあ・れ・を使うべきか。それなら今のうちに溜めを…。

シロがポシェットに手をかけた時だった。

招蟻地獄ポラリベル

誰かのスキルが発動した。シロは足に違和感を感じた。

――動けない!

「ハッハー!テメェらは一歩も動けないぜアリンコちゃん」

アリジゴクの罠にかかったのはシロだけではなかった。フィールド全体が蟻地獄と化していた。

「これで俺以外誰も動けない。仮に俺が鬼だとしても、俺は好きなようにタッチして鬼を譲り渡すことができる。完璧だ」

アリジゴク男は自分に拍手を送っていた。

「失せろー」

「死ねー」

「ふざけんなー」

観客席からヤジが飛ぶ。

「如何いたしますか?」

「気に入った。奴は面白い」

しかしドデンは違った。自らの部屋で観戦するドデンは一人ほくそ笑んでいた。いくら卑怯で反感を買おうとドデンが気に入れば排除されることはない。デュアル・パレスはそういうものである。

「どうせなら〜女の体を弄りてえよなあ〜」

アリジゴク男はまずは外見で品定めをしていく。

「わざわざプロリダウシアまで来ているんだ。上等な売春婦はどこかな〜?お、君いい乳してんねえ!」

アリジゴク男は女性の背後に回ると女性の体に覆い被さるようにして弄り始めた。

「ちょ…やめ…」

「いやいや何言ってんの(笑)これは鬼ごっこなんだからタッチする必要があるじゃないの。たまたまタッチするのがパイだったり太ももだったりするだけで(笑)」

女性が体をくねらせて抵抗する。しかし足が動かなければそれはアリジゴク男を楽しませることにしかならない。

「よーし、これで少なくとも俺は鬼じゃなくなったわけだ。制限時間までこのままにしておいて安全に第三回戦に進むぞ〜」

「おいゴラァ!解放しやがれ」

誰かがアリジゴク男に怒鳴った。

「うーん?このスキルのいいところは狙った女にイタズラできるだけじゃない」

アリジゴク男は怒鳴った男の前に仁王立ちする。

「威勢のいいクソキモいオスを、ボッコボコにできるとこだよなあ」

左手で髪を引っ張り顔を持ち上げると、右拳で男の頬を何度も殴り始めた。

「お前ら、みたいな、声と態度だけでかい、奴らは」

次は足で腹や脛を蹴る。

「大っ嫌いなんだよ、オラ!どうだ?今までそうやって、自分が気に入らなければ声を荒げて、そうしていれば周りが配慮してくれたか?あぁ?キショいんだよ、お前らみたいな、カッコつけのクソカス野郎共がァ!」

怒鳴った男は腹を押さえてうずくまる。

「はぁ、はぁ、はぁ。やっぱ男の本懐は、女と暴力っしょ。あ〜楽しっ。次はどんな子にイタズラしようかな」

アリジゴク男の独壇場は続いた。

「わお、わお、わお、わお!」

17人目の女性を触りながらアリジゴク男は目を丸くした。

「チョー俺好み。やっぱデカけりゃいいってわけでもないよね。人となりに合ってなきゃ。ごめんよ、もっと早く見つけられなくてさ。俺向こうにいたから、近場から食おうと思って。その、そんなに目よくないし。はは、君、名前は?」

「…シロ」

「シロ、そうか君が。第一回戦でバルゼンジークを仕留めた子だ。凄いね」

アリジゴク男がゆっくりとシロに近づく。

「こんな綺麗な子がプロリダウシアにいたとは。どうかな、この大会が終わったらどこか2人で…」

四肢裁断スランザ

シロの虹彩の縁が赤く染まる。

なんの予兆もなくスパッと四肢が切れたので、アリジゴク男の胴体だけが宙を浮いて前に倒れた。

途端に足が自由になる。

「やっぱりスキルの発動元は足でしたか」

シロはアリジゴク男に近づく。

「手足がなくても生きていますし鬼になりますよね?」

そう言ってアリジゴク男の肩に触れた。数歩下がるとそこで目をつぶった。

魔術解析サピテリア

シロは両目を見開いた。赤く染まった目のままアリジゴク男を睨みつけると、名前年齢身長体重スキル名とともにはっきりと『鬼』の文字があった。

シロは瞬きすると鬼のそばから小走りで離れた。

途端に巻き起こる歓声。

それと同時に全ての女性闘者がシロの周りを囲んだ。

「アンタ名前は?」

近くの人に尋ねられた。

「シロ…ですけど…」

すると名を尋ねた女性は声を荒げた。

「テメェらァ!何としてでもシロをお守りするぞオ」

「「「オオオオオオオオォォォ」」」

女性陣が右手を上げ叫ぶ。全員がシロに背中を向けるとシロを守る壁となった。

男はキョロキョロと周囲を見回すと互いに距離を取り始めた。

「終了だ」

突然、ドデンがマイクでそう告げた。


「ドデン様、よろしいのですか?」

「飽きた。それに奴等は元々鬼にならないよう調整している。とっとと鬼を潰せ」

「承知しました」


「どうやらこれで第二回戦運試し鬼ごっこゲームは終了のようです。それでは鬼のまま迎えてしまった不運な闘者の脱落が決定します!」

途端に闘者がバタバタと倒れていく。シロの周りでもそうなってしまった人が何人もいた。

「これで41名が脱落しました。残された30名の皆さん、おめでとうございます!第三回戦出場決定です!」

「第三回戦は30分後に行う」

ドデンはそうアナウンスした。


女性闘者控室にてシロは話題の中心だった。

「あなた、この街の人間じゃないわよね」

「シロはどうしてデュアル・パレスに参加しているの?」

「世界を救う為です」

「「「おおお」」」

「そういえばシロだけじゃなくて、何人か見ない顔の連中がいるわよね」

「そうそう、さっきのクソ野郎もそうよ」

「ただでさえ倍率上がってるっていうのに、人増えちゃたらウチらからしたらチョー迷惑だっての。あ、シロは全然歓迎だけどね?」

「そんでもってかなりやり手よね。スキルなんて使うんだし」

「普段はスキル無しなんですか?」

「無しっていうか、使えないしねえ」

「そうよ。だからイグニス・ヴォクユが勝ち続けるのよ」

「なるほど…」

「そういえばシロってバルゼンジークも倒してなかった?」

「まあ、一体ほど」

「えー、マジー?」

「すごー」

「そんなこともないですよ。少しスキルが使えるってだけで。そういえば皆さんはどうしてデュアル・パレスに?」

プロリダウシア住みの人々は顔を見合わせた。

「そりゃ街から出るってのが一番だけどね…」

「ウチらがここに来たのはまあ自業自得って言うか…」

「それなら、ここで生まれて一生を過ごすような子供達を助けてあげたい…みたいな?」

「やっぱり他所の子とか関係なくてさ」

「腐ったこの街から全ての子供を追い出したいのよ」

シロは口をつぐんで頷いた。


「それでは第三回戦バトルロワイヤルゲームに参りましょう」

闘技場内にマーターの声が響く。

「ルールはシンプル。最後まで勝ち残った者が勝利だあああああ!」

「「「うおおおおおおおお」」」

観客席のクロは周囲の熱量に圧倒されていた。

「恐ろしい熱狂ね」

「やっぱり、闘者同士の直接対決が一番盛り上がりますからね。観客は皆、それぞれ推しの闘者に賭けているわけですし」

「なるほどね」

「負けずに拙者達もシロ殿を応援せねばな」


「それでは第三回戦バトルロワイヤルゲーム、スタートッッ!」

30人中9人いる女性闘者は開始早々集まった。

「やっぱり私達は数で戦うわよ」

「ええ。シロ、一緒に頑張りましょう」

「最初は男達に潰し合わせて…」

「…皆さん、ごめんなさい」

シロは大きな声を出した。

「私は何としてでもこの戦いに勝たなきゃいけないんです。それに皆さんはいい人です。傷つけたくない。だから…だからここで、脱落して下さい」

「え?」

深陥睡眠ユーピモルグ

シロを見た8人全員がその場で倒れた。

「おーっといきなり8人がダウンだ!ただ1人そこに立つのはシロ!第三回戦も絶好調だア」

残る闘者は22人。シロの戦いは続く。

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