龍虎孔雀の三国物語り
星乃秋穂(ほしのあきほ)
第1話 龍虎孔雀の三国物語り
龍虎孔雀の三国物語り
龍国と虎国と孔雀国の三国が昔からあった。100年に必ず戦がやってくる。それは食糧危機のためなのか、人口が多くなり三国が耐えられなくなるのだ。そして三国は神の住む国と言い、天には大きな砂時計が浮かんでいる。その砂がすべて落ちた時、龍と虎と孔雀が動き三国が運命には逆らえないように戦が始まるのである。まるで仕組まれたように。
船が魚を運び出し、大勢の人々が集まる。船は多くの男たちが働いている。果物などを売る店や野菜を売る店。服や宝石など売る店。市場で多くの人々が楽しそうに買い物を楽しむのである。
ジンはそんな楽しい世界が大好きだった。
「今日は龍王様のために桃や鯛を買おうかな」
品定めをしていると周りの大人たちに声をかけられる。ちょっとした顔の知られているアイドルみたいなのだ。人気があり可愛がられる高校生くらいの男の子だった。
「龍王様は元気かい?」
「それならこれも食べるといい。うちの店の果物は新鮮で美味しいのだよ」
と大柄のおばさんが桃を二つくれた。
「今日はちゃんとお金を持っているよ」
「いいって!今日は私も気分がとても良くてねえ」
「いつもありがとうございます!」
「また、こっそり龍王様と桃を買いに来てね」
龍王様は中学生くらいなのだ。本当は宮殿で暮らさないといけないのに度々ジンは龍王様とお忍びで市場に行って買い物をするのである。国民から愛される龍王様なのである。
王様なのに国民にタメ口で話しかけられても平気なのだ。
だからジンが市場に行くと常にみんながおまけをして品物をくれるのある。
今日は鯛と桃だけ買うつもりだけなのにいつも袋が一杯だ。お菓子など小さい子までがくれるのである。申し訳ないと思いながらもお菓子を頂く。
時々みんなは砂時計を見つめるのである。こんなに幸せなのに戦が始まるのである。
「嫌だ。考えたくもない・・・」
おばさんが言った。
「大丈夫だよ。俺が守るから」
「何言っているのよ。みんなから愛されキャラが守れるわけないだろう。私たちが助けているからお前は育ってきているのよ。みんなに感謝しなさい!」
ふと、あんずの干したお菓子がある。これも龍王様が好きなのである。財布を開けたところちょっと高い。
「ん?これも欲しいの」
「まけてくれないかなあ・・」
「まあただではあげられない」
そして指を二つあげる。わかった200円割引である。
「よし、買います」
「絶対一人で全部食べたらダメだからね。王様割引だ」
ぱあ・・。と幸せそうな顔をするのだ。すると隣の店の旦那が普段ケチ過ぎのおばさんなんだぞと釘を刺された。愛されキャラはお得である。
「あーなんて幸せだろう。絶対喜ぶよ、龍王様」
みんなが楽しんで買い物をして、仕事をしてみんな幸せである。
自分の大好きなアイスを売っている店を見つけた。最近よく通うのである。自分の好きな桃味を買う。するとここでもお得でポイントカードにはんこをポンポンと押してくれる。
「おねえさん。おまけ・・」
「だめよ。もうしょうがない」
といって一つだけポイントをくれた。
「また買いに来てよ。特別にしている客と思われて困るわよ」
「うん!」
ルンルン気分で宮殿に帰るとまだジンはファンとの交流を深めてきたと思った。何で鯛と桃だけ買うのにこんなにも長時間遊んでいたのかと、お姉さんというか世話好きの人のユキに言われた。なんでみんなくれるのであろう買い物袋が一杯だ。
「だってくれるんだもの」
「だってじゃない。ちょっと国民に愛されると言ってもプライドをもって接しなさい」
「でも美味しいものばかりだよ」
「小さい子供からもらってどうする。お兄さんでしょう!」
袋の中には駄菓子が入っている。財布の中身を調べられ、またアイスを買ったことがばれた。
ジンは率先して市場に行くのを引き受けて一日中いる。日曜日でもないのに、まったくである。学問や剣術もやらない年ごろなのにみんなが許すのがいけない。
お兄さんであるナギが助け舟を出してくれた。
「まあまあ、せっかく魚も桃も買ってきたからいいじゃないか。ユキ」
「王の側近としての自覚がない」
「いや、愛されキャラだしいいのでは」
「また、そういうこと言うからつけあがるのよ。この子」
正座をさせられ説教されるのは毎日である。ジンはそういうキャラなのである。
「あの今日は俺が龍王様に夕食作ってもいい?俺料理得意だから食べてもらいたい」
ジンは側近ではなかったら一流の料理人になれるくらいの腕前だ。一つのことに集中して極めるのである。だから料理の厨房に行く、いい鯛である煮つけにすれば最高である。
「龍王様の大好きな魚を買ってきましたよ。デザートに桃があります」
「ほーう。それは楽しみだ。美味しいものを作ってくれ」
「はい!」
食材からごそごそと探していた。龍王はなんだと思ったら、ジンがあんずの干したものを渡した。
「龍王様が大好きなお菓子です」
「わあ!なんて気心がわかる男だな」
「ふふふ・・。200円も引いてくれました」
「なんと!アイスが買える値段ではないか!」
「桃のアイス食べてきました」
「あの店のアイスは美味しいからな」
コホンと側近のじいに咳をされた。またばれてしまった龍王がジンに連れて行ってもらい遊んでいることを。暗黙の了解だがちょっと自覚がない。
龍王は両親を幼い時に亡くされている。そんな悲しい王なのだ。でもジンがいろいろしていることも勉強ばかりではなく、国民の人に触れられこの国民のために国を守れるようにとの社会見学なのである。国民がいて初めて国を治める王なのだ。
しかし、時々やりすぎる国王である。王の癖に人気のある美容室に行って長くして結っていた髪を切り少年のようにかえって、今のはやりの髪型なのだと誇らしげに言ったときは度肝を抜いた。王がいきなり髪を美容室で切ったのだ。ポイントカードと言って見せたり、本当の中学生みたいに洋服を買い。アイスを食べたり、数日宮殿から逃げてこともある。
「あまり、ジンと遊びすぎるとダメですよ。」
「わかっている」
「あなたは立派な王にならないといけないのです。王家の誇りとして」
そんな国王が可哀想と思いながら注意する。中学生のように同じ年の子のように遊び、
学べればいいのにそれをさせてあげられない。じいは教育係なのだ。
「でもたまには桃のアイスが食べたいのだ」
「今度はじいが一緒に行ってあげますよ」
「楽しくない。俺はジンと行きたい」
「また、狭い部屋でずっと勉強するつもりですか?」
「そ、それは嫌だ」
「ならば我慢しなさい」
自由を手にいられない龍王だった。
「ジン」
「はい」
「あまり、龍王様を外の世界に誘惑してはいけない。」
「何故です」
「お前と龍王様は身分が違う。一緒にするんじゃない。お前が許されることも駄目だ。特別な存在なのだぞ。わかっているのか!」
「普通の男の子ように楽しむのもいいと・・」
「危険という事を知れ」
説教されてしゅんとする。でも懲りないのがジンである。
「ジン美味しい料理を作りなさい。」
じいに言われてその場を後にした。
龍王は両親が死んでしまい。たった一人になったジンは可哀想でなんとかしたくて両親に龍王をしばらく田舎の祖母と一緒に暮らさせて、いろんな体験をさせたいと言わせた。悩んだ挙句両親はみんなに提案をし、ジンと一緒に田舎暮らしをさせたことがあった。
田んぼに入ってオタマジャクシを捕まえさせたり、豚や牛や鶏の世話をさせた。本で見た事しかない物を触らせ、虫の観察をし、草木の水やりや、一番気に入ったのは桃狩りであった。
献上した桃しか食べたことがない王が桃を丸かじりするのだ。
野菜はどうやって育てる。牛の乳はどうやって絞る。すべてが貴重だった。今までできなかったが自由に昼寝もした。虫取りもした。自然に囲まれのんびりした生活をしたせいか、戻ってきたら真っ白くて美しい少年が真っ黒の顔となってビックリした。
虫も触れなかった子供が手づかみでカエルを触り、どうだ凄いだろうという顔を見た時、
家来たちは強くなったと思った。そういうことをさせたジンは凄いと思った。
昼寝をする時も怒られるのも一緒。まるで本当の兄弟のように育った。
だから宮殿で外を見せてあげないのは自由ではないのだ。
「何故だ。普通に遊んでいいじゃないか」
「まあ、王様なんだぞ。お前の弟でもない」
「わかっているが可哀想だ。14歳で一つの国を治めるためには民のことも考えないといけないし、民がどうして生活しているか知った方がいい」
「後、半年なのか、3か月かわからない。砂時計の土が全部落ちてしまうのだぞ。100年に一度の戦が始まるんだ。そのことを考えているんだ」
「知っている」
「本当か?」
「わからない・・。俺は戦場を見たことない」
「これから背負うものが大きい人間だぞ」
複雑だった・・。料理をしながら彼をどうやって支えればいいのだろうと。
槍の使い方、剣の使い方、弓矢の使い方は小さいころから男女問わず教育として授業で習わせる。必ず100年で戦が始まるからだ。これは運命でしかない。
今日はジンはワクワクしていた。三国はとても小さいのである。だから隣の国が見えるのである。実は毎年孔雀国の国王の誕生日の時に花火が上がり歌声が聞こえてくる。一番発展している大きな国であり三国の二分の一は孔雀の国なのだ。夜に花火が上がりそれを毎年楽しみにしていた。龍王も静かに寝ていたのだが気になってしょうがなかった。するとドアが開いた。
「龍王様、起きていますか?」
ジンはたまらず起こしに来てしまった。
「うん、起きている」
「今日は孔雀王の誕生日です」
「知っている」
「花火を見に山に行きましょう」
たまらず起きて着替えた。どうしても楽しみにしているのだ。敵なのに彼らの祝賀日とかとても華やかなのである。ジンと龍王はこっそり抜け出し山に行った。花火を見て感動した。
一時間ほど上がるのである。音楽も歌声も聞こえるのである。
「いいよな・・。孔雀国って凄く発展していると聞いたよ」
「なんか、同盟ができないか。手紙を送っているが駄目なんだよ」
「うーん。なんででしょうね」
「たとえ、砂時計が落ちても同盟できれば戦わなくてもいいのに」
歌声にうっとりするこの声の持ち主は孔雀王だろう。国の歌を歌っている民のための歌だ。
「どんな人なのだろうな孔雀王って」
「国を思う王だろうな」
不思議な感じがした。こんなにも優しくていい声なのである。
「龍王様、三国はどうしても戦わなければならないのですか。」
「占いでは逃れられない宿命と出た」
「悲しいですね」
「うん」
昨日は夜更かしをしてしまい。朝起きるのがつらいのに4時半にいきなりナギがジンのもとにやってきた。
「おはようジン。」
ニコッと笑う。
「何で起こすんだよ。いいかげんにしてくれよ。何時だと思ってるんだよ。ナギ兄ちゃん」
「今日は何の日だ!」
「えー・・・。ユキ姉ちゃんの誕生日だ」
「うん。そのとおりだ。だから狩りに出かけるぞ」
「嫌だ!行きたくない!もっと寝たい!」
「駄目だ。手伝え!」
ナギはいつもユキに愛を注いでいるのだ。怖いくらいユキはモテてしまう。どれほどの男がユキのためにプレゼントを渡すのだろうと思う。敵国である男もユキのファンになっていて国を抜け出して贈り物を届けるのだ。
「ユキのためにイノシシの肉が欲しいのだ」
「そんなものいらないよ。高級和牛の方がいいよ」
「俺に金があると思うか」
「ないね」
「だから狩りに出かけるのだ」
おもいっきり布団をとるナギだった。ううう・・・。また俺を出しにするんだ。すでにわかるユキはジンが好きなので、ジンがいつもナギ兄ちゃんのお手伝いを無理やりさせられるのである。困ったお兄ちゃんである。
「もうあきらめてよ。ナギ兄ちゃんは脈ねえよ」
「お前しか頼れないんだよ!」
なんで、弟が眠いというのに起こしてまでプレゼントのために全力を尽くすんだよ。
「もうやめてください。何回も振られてるのに気がつかないってバカだよ」
「お前がプレゼントするとユキが喜ぶんだよ」
「俺関係ないじゃん」
「俺のために頼む」
「なんかくれ」
「うん。安い褒美ならやろう」
「最近流行りの靴が欲しい」
「あー。あれなら買える」
しぶしぶ起き上がる。ぽんぽんとナギはジンの洋服やら狩りで使う弓矢など洋服ダンスから取り出す。手際よく準備してくれて目をキラキラさせて支度をするジンを待つ。
なんのために・・・。
猟犬をつれて、森に出かけるのである。ナギはいつもユキの誕生日にはイノシシの肉をプレゼントするのだ。ちょっとした貴重価値のある肉で市場にはないから喜ぶのだ。
「お前たちも大変だなあ」
犬二匹を見つめる。うん。こんな主人なら逃げ出してやる。
犬たちはイノシシの匂いがわかっていきなり走り出した。ジンは慌てて追いかけた。
いる。その瞬間にイノシシがいた。すかさず何回も弓を放つ。一発がイノシシの目に突き刺さった。苦しそうにもがく。よし、これはいける。とてもジンは運動神経がいいのだ。
狩りの名手ともいわれる。最強ハンター。一気にとどめを刺しイノシシを倒した。
「いやー。俺って凄い。これでユキにプレゼントできる」
にこにこしてナギは笑った。いや、仕留めたのはジンである。
大きなイノシシを担いでナギとジンはユキの家に向かった。ユキの家族は楽しみにして鍋の用意をしていた。
「いやー。毎年ユキのためにありがとう。イノシシ鍋が食べられるなんて」
「いやいや、二人で頑張ったんですよ」
「もうありがとう。ジンとナギうれしい」
「ジンは狩りの名人だから頼んだんだよ。快く引き受けてくれて」
ははは・・・。靴のためです。
「そうなの?」
「うん。朝早くからね」
「二人で早起きしてくれたんだ」
無理やり起こされましたけどね・・・。
「もう最高コンビね」
そうでもないよ・・。
疲れ切ってボロボロなのに夕食を共にした。ユキは嬉しそうにイノシシの肉を食べる。
まあ、いいか。こんなに幸せそうな顔されるとそれはいいものだ。
ユキの家を出てナギとジンは楽しく帰れた。最高コンビなのかもしれない。
「うーん。ナギ兄ちゃん。早くユキ姉ちゃんの心を射止めれるといいね」
遠い空を見て、ため息をついた。なかなかの距離になればいいのだがなあ・・。
「いや、可愛かったな。ユキ・・・」
とても幸せそうなナギ兄ちゃんでした。
第四章 虎国との貿易
実は前々から虎国とは貿易国であった。貿易のために龍王の父は旅に出かけて大けがをしてしまったのだ。そして命を落としてしまい。そこから虎国の王が龍国を気にかけ電報を送ってくれたのである。心優しい王だと思い何とか仲良くしてほしいと手紙を書いたのだ。
そこから贈り物が届き、貿易が始まったのである。
まだ、小さい龍王がきちんと手紙を書き感動したらしい。虎王は時々訪問してくれるのである船の方が多くの荷物を乗せて食料や様々な物を売りに来るのである。どうやら商人のような感じがするとても商売がうまいのである。そして龍国の果物を買いに来てくれる。龍国の名物は桃である。最高の桃が取れるのである。
今日も船が来て賑わっている。虎王が来ると龍国の国民は温かく迎え感謝するのである。
船から虎王が降りると歓声が聞こえる。それに手を振るのである。まだ、35歳の若者である。しかし貫禄もありどっしりしている。
「いやー。長旅だと疲れるなあ・・・」
「いつも、多くの贈り物をありがとうございます。」
「ははは・・。たくさん売ってたくさん買うつもりだ」
そういって冷たいお茶を口にする虎王だった。とても喉が渇いていたらしく一気に飲み干した。龍王もいつも楽しみにしているのだ。しかし、龍王が虎国に行くのはまだ幼すぎて危険である。こんなに大きな船もないのだ。
「さて今日は大事な話がある」
「いつも大事な話をしてますよ」
「実は龍国のお前にわが娘をもらってほしい」
「え!」
また龍国の王は14歳である。
「まあ気持ちはわかるが、きっとわが娘とうまくいくと思う。」
「それは・・」
「政略結婚だ」
「どうして急に」
「もうすぐ、砂時計が落ちてしまう」
「ええ・・」
「戦が始まるのだ。占いでも出ているのだ。だからお前の国と強い縁を結びたい」
「しかし大事な娘と言っていましたよ」
「そうだ、誰にも渡したくない。いっそ自分の国の最高の男と結婚して自分が死ぬまで側にいてほしいのだ」
虎王は少し上を見て泣きそうな声をする。大事な娘の成長がもう見れなくなる。しかし、もしも戦争になって龍国の王ともうまくできなくなるような戦い避けたい。
「お前とは戦いたくない。ずっと貿易国として縁をつなごう」
「このままではダメなのですか?こうして仲良くやっていきましょう」
「絆が必要だ」
「もうしっかりと繋いでいるではないですか」
「お前が婿なら安心なのだ。安心して嫁に出せる」
確か虎王の娘は10歳だ。あまりにも若すぎる。
「時々会わせてくれればいい。手紙を書かせてもらいたい。何通も書く」
怖いのである。あの砂時計の砂が落ちてしまうと100年の戦。もしもしっかり龍国と虎国がつながれば孔雀国に勝てる。同盟して民が亡くならないためにすべては平和のためなのだ。
「何故か、孔雀の王は手紙を書いても無視をする。もう何度も手紙を書いている。何か方法はないのか」
「それは私の国もそうです」
「それほど戦争を望んでいるのか。三国は仲良くなれないのか。」
虎国の王はとてもやさしい。だから解決を探しているのに何も答えてくれない。時間は過ぎてゆく時は止まらないのである。
「すまぬ。龍王」
「いいえ。ビックリしただけです」
「好きでもない子供と結婚するのは嫌か」
「今は答えが出ません」
「それでいい。うん」
虎王は数日滞在した。龍王は国を案内し最高のおもてなしをした。虎王は凄く喜んでくれたのだ。
嬉しいの一言だ。別れ際に強く手を握って船が出港した。
まだ見えぬ答え。
虎国の姫との結婚。
素直に受け入れることができなかった。
申し訳ないと思った。時間が欲しい。
永遠を共にする伴侶である。恋愛もなく突然相手を愛せるとは思えない。
確かに国民は嬉しいだろう。
わかっている国同士がつながるには一番いい方法なのだ。
10歳の女の子がきて家族とも別れて暮らさなければならない。
自分が親を亡くしたのは10歳だった。
あんなにつらいとは思わなかった。親が側にいない環境。龍王は答えが出なかった。
虎国が姫をくれるという噂はあっという間に国中に広まった。みんなからその祝福の言葉が絶えない。もしも両国がつながれば戦が起こらない。それはつまり同盟国なのだ。
早く結婚してと民は言う。もうすぐ、砂が落ちていくのだ。
早く答えをと家来たちは嬉しそうに龍王に言うのだ。龍王の気持ちも考えず。戦をしないという気持ちが高鳴ってしょうがない。
虎国の王が直々にいってくれたのを断るのはおかしいという。
14歳の国王がこの国を守れるはずがない。どんなに頭が良くても無理だろう。しかし、虎王は違う立派な王である。そして、われわれに幸せをくれる。そんな姫をもらわないなんてできないだろ。どれほど恩恵を受けてきたことだろう。
ジンもとても喜んでいた。早く結婚してほしい。きっと幸せだろう。
「あー。嬉しいな最高だよ。戦もないなんて国民はどれほど幸せになるんだろう」
「しかし、孔雀国にもこの事は届いているのかなあ・・」
「決まっているだろ。二つの国が結ばれるんだ」
「それは大丈夫なのか?」
「祝福してくれるに決まっているだろう。花火が上がるよ」
すでにもう結婚して同盟を表明することは孔雀王に伝わっていた。しかも両国から孔雀王に同盟をしてほしいと何度も手紙をもらっている。
「何も考えてないのだなあ・・。両国の王は」
孔雀はくすりと笑う。何故戦わなければならない理由を知らないとも思った。三国の人口増加で飢饉が来るのだ。その意味も知らずに同盟する?おかしい。
人口を減らすために戦をするのだ。孔雀は二つの国の二分の一を持っているつまり国が大きいというのはそれだけ民が多いのだ。だから決してほかの血が混じってはいけない。情がわいてしまう。つまり戦えなくなるのだ。それを拒む理由で無視をした。
「私がどれだけ国民を守ろうと思っているのか。弱い国は国民を守ることができないだろうな。だから同盟を組む余計な真似をするんだな」
二つの国が同盟すれば二分の一に匹敵するそうすれば孔雀と同じになる。しかしこの二つの国が争えば人口密度も減るのだ。できれば共倒れになったところで孔雀の国が二つの国を叩けばいい。簡単に領土が取れる。飢饉をまぬがれる。
「まあ、祝福してやる。しかし、刺客は送る。二つの国の時・・」
「なんですか?」
「まあいい・・。私はそういう男だ」
この孔雀という男は二つの顔の持ち主であり孔雀の国民だけを愛している。
完全に祝賀モードだった。時の砂はもう残り少ない。船の中で娘と同じ時を過ごす。この幸せな時間が無くなるのだ。
「お前は龍国の王と幸せに暮らしてくれ」
「わかっております。父上のためにそして国民のために」
泣きながら娘の手を握りそして強く抱きしめた。
「すまぬ。まだ、10歳という若さで嫁がせるなんて」
「父上は優しすぎます。もっと虎のように強くならないと孔雀王に勝てませんよ」
孔雀は何も連絡をくれない。だから砂が落ちれば戦になるだろう。同盟できなかった。
「そうだな。龍国と虎国が同盟を組めば無敵だ」
「そうです。そのために私は嫁に行くのです。固い絆を作るために」
「お前は良い子だ」
「ええ父の子です」
にっこりと笑う娘だ。必死に涙をこらえながら笑う。なんてけなげなのだろう。これから戦があるという不安の中で結婚をするのだ。幸せが来るとは思えない。
「さあ、もうお別れの時だ。笑顔になろう。きっと幸せになると信じて」
「ふふふ・・。そうです」
娘と一緒に手を取り船がつくと、船から階段が出た。すると待ち構えたように歓声が上がる。手を振りながら龍国民に挨拶をする。
その時、時の砂がすべて落ちた。戦の始まりだ。龍と虎と孔雀が空を舞う。
ゆっくりと降りていた娘の胸に矢が刺さった。そしてぐったりと父の身体に倒れた。
一瞬何が起こったのかわからない。血が赤く染まる・・。
龍国が裏切り娘を殺した・・。
あまりの怒りに耐えられない。
「許すものか!戦だ!」
カッと目を見開いた。虎王の憎しみは止まらない。裏切者の龍王を許すつもりはない。
「皆矢を放て!」
その声から一斉に船から国民に矢が放たれて次々に国民は死んでいった。女、子供関係なくほぼそこにいた国民は死んだ。血の海に変わってしまった。
虎王は船を国に戻ろうと引き返してしまった。完全なる虎の目に変わった。
「許すものか。」
国々にこのことが伝わった。そしてこの情報を一番喜んだのは孔雀王だった。
「ほらな、私が言うとおりになっただろう。私は自分の手に着く血は嫌いだ」
「孔雀王様は初めから虎王の姫を殺す予定だったのですね」
「ああ・・。たった一人の矢でね。私は命じたままで楽なものだ。二つの国が共倒れになるまで動かぬ」
実に怖い男だと思った。
ジンは茫然とその光景を見た。何が一瞬で起こったのだろうと理解できなかった。
血の海である。果物をくれたおばちゃん。優しかったアイスを売っていたお姉さん、お菓子をくれた子供、自分に幸せをくれた人々が死んだのである。
ぼんやり空を見た・・・。神が仕組んだ100年という戦が始まった。
虎王の姫を殺した人物をとらえた。彼女は孔雀と龍の両方の血を引いた人物だった。だから、宮殿で仕事ができた両方の血を持っているなら同盟をできる人物と思った。偶然である。とても美しい女性だった。
彼女は幼少期、龍と孔雀の血を引いただけで差別を受けたという。汚い言葉を言われゴミのような扱い。学校には行かなかった。両親が死んで物乞いをしたらしい。そして、残飯を与えられたらしい。他の人が食い残したものを口にした。だから彼女は独学で勉強したのである。はじめは廃品回収された本を集められる前に拾った。ボロボロの服を着ても図書館には入れた。そこでたくさんの本を読んで理解した。文字などはチラシの裏側に書いたらしい。敵国の血を引いているだけで血の通わない子と思われた。学校に行けなかったことでレッテルをはられた。
龍国の子供は教養がある。優秀な子供が多い。それは国が教育に力を入れているからである。でも彼女は教育を受けてない。だから無能の人間に仕事を与えられなかった。
学歴がない。何という事だろう。龍国の人間はみんな大学に行くのだ。それが当たり前なのだ。はっきりと学歴社会なのである。
彼女は思い切って孔雀の国に行った。するとその美貌だけで食事や着る服までくれたりちゃんとした食べ物までくれるのだ。そして、孔雀王に会えた。私の刺客として働いてくれないか。国と私のために命をもらえないかと言われた。完全に洗脳された。龍国で叶わなかったことができたのである。こんなに国を愛している男はいない。民のことだけを考え、民のためならお前の持っている情報を欲しいというのだ。
孔雀はこの女性を利用した。龍国の人間に恨みがあった。戦にはどうゆう理由があるかを諭され自分の矢を引く意味も分かった。
その女を哀れんだが同情はしなかった。何故学校に行く、何故だと思う?それも理解していない。医者や政治家が無学なわけがない。何故必死に勉強すると思うのだ。仲の良い友人が病気で死んでしまって必死に勉強する子供がいた。自分は多くの病気で苦しむ人間のためにだ。それぞれの夢のために、そして友と一緒に色々な体験をして成長することを教わらなかったと思った。だから、彼女には人が殺されようがどうでもいい事なのだ。
孔雀王のために矢を放ち国民を殺した罪は大きかった。理由を聞いただけでその女を処刑した。スパンと首がはねられた。
龍王はその光景を見て自分のせいで虎王を裏切り大切な娘を殺してしまった。関係はぶち壊されて国民を死なせてしまった。
何日も泣きこんだ。自分のためにカッコいい髪型にしてくれた美容師のお兄さん。自分に合う洋服を一緒に選んだ人。美味しいお菓子を作っている職人。桃のお土産をくれる商人。
たったの一日で200人が殺された。ジンは大量の人間の死体を土に埋葬することを手伝った。土まみれで泥だらけそれでも大好きだった人間をきちんと葬るのだ。
腐った姿のまま放置するわけにも行けない。虫が湧くだろう。
「おばちゃん。俺守れなかったごめんね」
泣きながら土に埋めてあげた。
虎王は多くの兵を送る準備をしていた。娘を殺した龍国を徹底的につぶしてやる。10歳の優しい娘だった。虎王にあまりおいしいものを食べ過ぎると豚になるから辞めて叱る娘。父の日には似顔絵。病気になったら家臣を連れて薬草探し、父のために多くの野菜を食べてほしいと作った農園所。日記に娘がしてくれたことを毎日つづっていたのだった。
娘は本が好きだった。とても頭が良かった。言葉を学ぶことが好きで自分もそういう職に就きたいと笑顔で話すそんな子供だった。
貿易が始まった理由が娘の一言だった。
「たった一人の子供はどうやって生活するの」
娘は龍国の手紙を読んだのである。
一生懸命に龍国の王は返事を書いたことが分かった。
紙に涙の跡があることも彼女は心から可哀想と呟いた。
「お父さん助けてあげて」と言ったのだ。
それがすべての決断だった。
この国とは何年も続くと思った。
虎王は心の中がぐちゃぐちゃになった。おかしくなってしまった。狂ってしまったのである。あまりにもショックだった。
時々大声で笑いながら泣いていた。
自分のために嫁に出そうと思ったことが失敗だった。
父親が殺したんだ‥こんな結婚などさせなければ娘を生かしてあげられた。
ぼんやりと空を見たら砂時計が止まっている。
そして神である虎がいる。
神はずるいのだ・・・。
私のことを何も思っていないのだろう。
虎神は山でゆっくりくつろいでいる。
虎神は私をただ見つめていた。
虎王は国民の兵士を募り大型船で龍国をつぶしにかかった。多くの男どもが賛同して船に乗り込む。虎王も船に乗り込んだ。武器を手に訓練してきた。きっと龍国なら潰すことができるであろう。
しかし、そのことをずっと狙っていたことがわかるのは孔雀王である。虎国が戦闘をして男どもがいなくなり王もいない。つまりがら空きの国なのである。虎王がいない国に女子供しかいないときに大勢の兵を送って潰すのである。
これは策略だ。
しめしめと思っていると孔雀の神が窓の外からこちらを見ている。
首をかしげる姿が美しい。
「俺の判断はきっと国民を助けるのだよ」
そういうと頷く孔雀の神だった。
残酷な王である。帰ってきた男たちは女子供が殺害され村を焼き住む事すらできない状態にする。完全に敗北させるのである。
虎王は海を渡って龍国に大量の兵士を送った。たったの3日間で多くの人々は亡くなる。
ジンもナギもユキも必死で戦った。龍王を守るために。
ナギは槍をもってどんどん殺していく。あの優しかったナギさえも心が変わった。ただユキだけは死なせたくなかった。だから死に際はユキをかばってあの世に行ってしまった。
ユキはただ死んでしまったナギを抱きしめ赤子をあやすように鎮魂の歌を歌った。
あんなに愛してくれる男はいなかった。
「ごめんね。ナギのことは愛していたよ」
死んでしまった相手には届かなかった。愛しているよって生きているときに言ってくれればいいのにと、ニコッと笑うナギの姿が見えるように思った。
ジンもまたユキを助けてあげられなかった。ユキは弓の使い手だったから兵をまとめる役目をもらっていた。最後複数の矢を受けてこの世を去ってしまった。
龍国はもう敗北宣言する方法しかなかった。とても弱い王だった。
隣の山で龍がこちらの戦を見て楽しんでいる。
お前が神なのか・・・。コクリと頷く龍だった。
そんなに楽しいのか・・・。
最後は王宮の前の戦闘だった。
必死に閉じていた扉を開けて多くの兵がなだれ込んだ。ジンも必死で王を守ろうとした。
「龍王様。大丈夫ですからね。俺が命を懸けて守ります」
「よせ!お前まで死んでどうする。私の首だけで終わる」
「違います。あなたはこれからも民のために生きてください」
「私は弱い王だったのだ!」
ジンは最後多くの剣を突き刺されて王を守って死んでいった。
龍王はただ、俺の首を虎王様に届けさせてくれと頼んだ。もうこれ以上の犠牲はいらない。
ジンが死んだ後に神々が空を舞った。終わりの合図だ。
その光景は美しかった。100年の戦いは終わった。何を意味するのか。
虎王のもとに国から連絡が来た。もう少しで龍国をつぶせるのに虎国が孔雀王に壊滅させられたと聞かされた。
「何故・・。こんなことに・・。まさか孔雀王ははじめから狙っていたのか」
多くの兵が虎国の村人たちを殺しすべてを壊したと・・・。
虎王は急に戦闘をやめて国に戻ろうとした。龍国は何も悪くなかった。たったの三日間だが虎の国、龍の国双方の犠牲者は多かった。
虎国も虎王が戻って確認すると宮殿は焼かれ、人々の死骸が山積みだった。
さあ降参しなさいという手紙が孔雀王から来た。
虎王はそこにサインをした。そのことが伝わった。
龍国も虎国も滅ぼした孔雀の国は更に領土を奪い。国民を守った。
「誰もいない・・。誰もいない‥」
龍国の王はただ孔雀の許可なく生活できなくなった。
「終わったんだな・・。ジン」
壁に言葉をかける。
ジンはいない。
王にはジンが見ているのかと思った。
そして、龍王は病気になって、たったの一年で死んでしまった。
最後に空の砂時計を見て・・・
神に聞こえるかな・・・
今度生まれ変わったとき・・ジンに会わせてくれ・・
最後にお願いした。
ゆっくりと龍王は息を引き取った・・・
時の砂はまた動き出していた。100年の戦。
平和を胸に・・
おわり
龍虎孔雀の三国物語り 星乃秋穂(ほしのあきほ) @HAUHAUTOUKYOU
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