第4話 3つの派閥
「街の方を通りますので、私の手を離さないでください」
「街があるの? 魔界なのに」
魔界と言われると、岩だらけで何も無いような場所を想像していた。けれど、私がこの目で見たのは、少し
「弱い悪魔や穏健派の悪魔が集っています」
「おんけん……?」
聞き慣れない言葉を復唱するも、詳しくは家に帰ってから、と言われた。
館を出て少し歩くと、街が見えてきた。
街と言っても、日本で見るような住宅街ではなく、ヨーロッパ、それもフランスやドイツ辺りで見られそうな街並みだった。
幸いにも、今は人通り……いや、悪魔通りが限りなく少ないから、バレなさそうだ。
辺りがオレンジ色の照明で照らされる。玄関の灯りや、ちょこちょこ付いている家の灯りが、そうしている。
「やはり、この時間だとほとんどの者が寝ていますね」
彼女は良かったと小さく呟いた。
「あれ、ウァサゴ?」
「!」
前から私より少し背の低い女の子が、ランタンらしき物を持って歩いてきた。
暗くて顔が見ずらいけれど、可愛らしい顔立ちをしている。
その
「やっぱりウァサゴだ。こんな時間に何してるの? というか、その子は?」
彼女がこちらへ灯りを向けてきたので、私は少しビクッとした。
「少し眠れなくて散歩してたら、偶然この子に会っただけ。迷子らしくて」
「そうなの? ウァサゴ一人で大丈夫? 一緒に探そうか?」
「いや、大丈夫。もうこの子の行き着く先は見つけたから」
金髪の少女は、「そっかー、さすがだね」と言い、手を振りながらこの場を去って行った。
「あの小さい子も悪魔なんだ……」
「ええ、あなたよりも多く人の世を見てきています。行きましょう」
小さくうん、と言うと、彼女はまた歩き出した。今度は、先程よりもギュッと手を繋いで。引っ張るのではなく、優しく私を連れて行ってくれる。
––––そう言えば、さっきタメ口で話してたなあ。
◆
しばらく歩いた後、ウァサゴの家についた。彼女の家も、街で見たような雰囲気の家だった。
家に入ると、彼女にある程度の家の構造について説明してもらった。お風呂やトイレ、キッチンの場所などを教えてもらった。
私が寝る部屋もあるらしく、その部屋はそれなりの大きさだった。
本当にこんな部屋を使っていいのか、と問うと、大人しく使えと言われた。
「––––さて、とりあえず
ウァサゴの部屋で、彼女はベッドの上に座った。私は彼女の前に椅子を持ってきて、話しやすい形にした。
「まず、この魔界は3つの派閥に別れています」
「3つの派閥?」
「はい。先程私が言った”穏健派”の他に、”中立派”、”過激派”がいます」
それぞれどのような派閥なのかは、おおかた予想がつく。彼女が言うには、こんな感じらしい。
穏健派は、人間をなるべく襲いたくない、『善』の心を持っている者の派閥。人間を襲うことは基本的にない。
中立派は、どちらでもない、もしくはどちらでもいいと思っている者の派閥。言うなれば、人間がどうなろうと、他者がどうなろうと、自分が良ければそれでいいと思っている。
過激派は名の通り、人間を積極的に襲おうとする者の派閥。人間の血肉が好みであり、よく人間界に立ち入っては襲っている。
そこまでは行かずとも、やはり人間にちょっかいをかける者も多くいる。穏健派と対立状態にある。
「––––ざっとこんな感じですね」
「さっき通ったのは、穏健派の集う街ってこと?」
私が訊くと、彼女はそういうことだと言うふうに黙って頷いた。
「ところで、あなた––––結羽はここにしばらくここに留まることになりますが、それでいいのですか?」
「ああ……うん、別に。大学はちょっと困るけど」
そう言うと、ウァサゴは「そうですか……」と言った。
私と母の関係は良くない。こんな夜遊びばかりしている娘を好くなんて、誰だって嫌だろう。
「––––お風呂、入りますか?」
「え、あるの?」
「ありますよ。こちらも、人間界と何ら変わりません。今日は疲れたでしょう、ゆっくり休んでください。着替えは……昔の私の服でも?」
「うん、ありがとう」
好みの服では無いけれど、このまま今の服を来ておくより全然いい。むしろ、ありがたいぐらいだ。
そして、私はお風呂に入って、人間界と何ら変わりない料理を食べて布団に入った。
––––料理、あれ何食べたんだろ……。ってか、このまま取って食われたりしないよね。…………まあ、そうなったら”
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