第3話 私はどうなる
「……そういえば、なんでウァサゴさんはすぐ来れたんですか」
「敬語はなくて結構です。……まあ、私の能力が大きく関係していますね」
「能力?」
ウァサゴ曰く、悪魔にはいくつか能力が備わっているらしい。それは俗に言う”魔法”とは違い、固有のものが多いそう。
彼女の能力は失った物や捜し物を見つけること、過去・現在・未来を見据えることができるというもの。
けど、後者は大体の悪魔が使えるらしい。普通、逆ではなかろうか……。
「それで、私を見つけ出した……ってこと?」
「そういう事ですね」
だからあんなに素早く私の元へ来ることができたんだ。
––––ん? まてよ?
「さすがに落ちたばっかじゃ無理だよね?」
「無理です」
「ってことは……?」
「結羽ちゃんがこっちに来てから、時間が経ってるって言うことになるわね♡」
アスモデウスと名乗った女性の話を聞いて、私は顔の血の気がサーッと引いていくのがわかった。
何分も……いや、何十分もあそこで気絶していたっていうこと? あの暗い森の中に? 考えるだけでも恐ろしくてたまらない。
だから、部屋に入った時に”例の子”と言ったのか。そりゃあ、何十分も経っていたら私のこともわかるだろうな。
「さて」
ルシファーと名乗った男性が、話を切り替える。
「君はここに来る前、何かしていたか?」
「え? ああ……」
素直に言いたくない。なぜかって? そんなの簡単。誰が言えるだろうか、女遊びに
私はよく夜はあの街へ行き、自分の欲を満たすために、女の子を誘う。
まだ一年ほどしかしていないけれど、母親からは相当呆れられている。最近は会話も少なく、素っ気ない。
「まあ、夜にちょっと外出てました」
「……その時に異常は?」
「これ、拾いました」
そう言って私が取り出したのは、ここに来る前、あの街で拾った黒い宝石。相変わらず、光なんてない。吸い込まれてしまいそうなほどの黒。まるでブラックホールだ。
「あらぁ、真っ黒」
「……サタンか」
ボソッと言った言葉。けど、私はその単語に驚いた。
「え、サタン……!?」
「ああ、そうだ」
これもそんなに知らないけれど、名前だけなら誰しもが聞いたことがあるはず。『悪魔の王・サタン』。ゲームでもよく見る。
「今回のこれはあいつの仕業だろう。理由まではわからないが」
「……」
流れる沈黙。人間のあいだでは魔王などと呼ばれる存在によってこちらへ来たことになるとして、私はこれからどうしたらいいのだろう。その辺にほっぽり出されて、野垂れ死にするのだろうか。
そんなことを考えていると、ルシファーと名乗った男性は「安心しろ」と言ってきた。
「君が思っているようなことはしない。取って食ったりもしない」
「じゃあ……どうしたら?」
私がそう言うと、彼は私の隣へと視線を移した。視線の先は、ウァサゴ。
「……私の家に置けと」
「頼めないか?」
ウァサゴは少し悩んでいるようにも見える。私が苦手だからというのもあるだろうけど、それだけじゃないような、複雑な表情を見せている。
「私にそこまでの責任を負える自信はないです」
「だが、お前は他者からの信頼も厚い」
「あなた様の方が厚いでしょう」
「男の住まう場所にも置いておけない」
彼女はまた考える。恐らくリスクが高い。偶然この人たちが優しいだけで、他の悪魔がそうだとは限らない。
人間のことを食べたくて仕方ない輩もいるかもしれない。
そのことを考えたら、易々と受け入れるのは難しそうだ。
「––––なら、私のところに来る〜?」
アスモデウスと名乗った女性は、私に軽く抱きついてくる。彼女の大きな胸が、私の体に当たる。
「私の家に来るのなら、いい夢・も見せてあげられるけど」
「おい、アスモデウス……」
彼女はルシファーと名乗った男性の言葉も無視して、どう? と訊いてくる。
正直、この胸の大きさなら夢見心地だろう。多分、アッチの方も気持ちがいい。見たところ手馴れだし。
でも、相手は悪魔で且つ、私を直接助けたわけではない。死ぬまで搾取され続けるかもしれないリスクを考えたら、少し恐ろしい。
「死ぬの怖いからやめときます」
「あらそう? ざんねーん」
本気で残念がっているのか、それともおふざけか。どちらかわからない表情を見せる彼女は、パッと私を離し、ウァサゴの方を見た。
「こうなることを、想定してる」
「私には戦闘能力はありません。せいぜい偵察程度です」
「あなたならできるわ」
その言葉に、ウァサゴは怪訝そうな表情を見せる。
「何を根拠に……」
「あら、私たちを誰だと思って?」
アスモデウスと名乗った女性が人差し指を口元まで持っていくと、辺りの空気が一気にズンと重くなる。
「傲慢の魔王ルシファーと、色欲の魔王アスモデウスよ?」
口角を上げた彼女は美しく、されど恐ろしく。その瞳は弱者をいたぶる強者のよう。
「っ、心得ております」
「その二人が、あなたを推薦しているのよ? もっと自分に自信を持って」
先程の笑みとは一転、彼女の目は優しさに満ち溢れていた。
そう言われ、ウァサゴは少し俯いてから顔を上げ、口を開いた。
「……わかりました。あなたは?」
「え、あ、ウァサゴがいいなら……それで」
「なら、決まりね〜」
「頼んだぞ」
そう言われ、ウァサゴは返事をして、体の向きを変えた。
「行きましょう」
「あ、うん……!」
「あ、ちょっと待って」
アスモデウスと名乗った女性に引き止められ、私は後ろを振り返る。
「結羽ちゃん、私たちのことは呼び捨てでいいし、タメ口でいいからね。またね〜♡」
アスモデウスに手を振られたので、私は思わず手を振ってしまった。その様子を、ルシファーとウァサゴに微笑ましそうに見られたのは少し恥ずかしかった。
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