第98話 読書ガチ勢

ガチ勢【がち-ぜい】

その物事に本気(ガチ)になっている人。相撲やプロレス発祥の隠語「ガチンコ」(=真剣勝負)の態度でゲームをプレーする者たちのこと。ハイスコアやタイムアタックに真剣になったり、対人戦でも勝ちを最優先するプレイヤーを指して使われてきた。「勢」とは付くが個人単位で用いられる事が多く、群れているという認識は自他共に無い場合が多い。(ピクシブ百科事典より抜粋)


「読書ガチ勢」は、わたしが勝手にそう思いついただけで、一般にそういう使い方があるのか分かりません。ここではガチンコで読書する人やそうした態度を指していうことにしましょう。どうしてこんなことを思いついたかというと、『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか 』(今井むつみ、秋田喜美/中公新書 )という本を読んだからです。


 これ、2024年の新書大賞を受賞した本なんです。過去に『京都ぎらい』(2016年大賞、井上章一/朝日新書)、『生物と無生物のあいだ』(2008年大賞、福岡伸一/講談社現代新書)、『ふしぎなキリスト教』(2012年大賞、橋爪大三郎・大澤真幸/講談社現代新書)などすごくおもしろくて、最近でも『荘園』(2022年3位、伊藤俊一/中公新書)を興味深く読むなど、「新書大賞っていいよな〜」と思っていたので、この本も手に取ったのですが……。難しい。


 中公新書って、その内容がお堅くて難しいものが結構あって、『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』や『応仁の乱』なんかも堅い内容で読むのに手こずりましたが、『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか 』はこれまでで最難関でした。


 しょっぱなから「記号接地問題」と「オノマトペの言語性」について述べられるのですが、これって普通、知らないし、興味もないじゃないですか(失礼のこと書いてごめんなさい)。


※ 「記号接地問題」とは――、知性は実体験なしに「そのもの(またはこと)」とその「名称」を結びつけられるのか、物事を真に理解するためには、記号(名称)が体験(もの・こと)に接地している必要があるのか、ないのかという問題。人工知能は体験を伴わない名称を膨大に記憶しているが、それは本質を理解していると言っていいのか、という観点から用いられることが多い。(って多分、こんな意味だと思う……)


 オノマトペ(幼児言葉に多い、物音や様子を移し取った言葉。「がちゃがちゃ」、「きょろきょろ」といった繰り返すものが多い)だって、言葉かもしれないけれど言語だなんて思わないじゃないですか。このよく分からないことを少しずつ丁寧に説明してくれる本なのですが、分からないだけに、苦痛(ほんとスミマセン)。内容の八割くらいはオノマトペの言語性と、人間の言語習得とオノマトペの役割についての記述で、難しかったんです、わたしにとっては。


 本の帯には、読書人たちの賞賛の言葉が並んでいます(これに釣られて買ったんだけど)が、わたしには内容が理解できないんですよ〜(まさに記号接地問題!?)。


 ただ、本のおしまいの方二割くらいは、分かったし、とても興味深かったです。それまでのオノマトペの研究と観察から、


◯ 言語を習得する能力は学習によって身につかない。生まれつき人間にしか備わっていない能力である。


という命題を導き出し、


◯ 人間と他の生物を分けるものは何か。


という問いに至る最終盤の筆致にはワクワクさせられました。これは新書大賞にふさわしい(でも、前半と中盤が分からな過ぎた……)、と。


 わたしが「読者ガチ勢」なんて言葉を思いついたのは、こういう学術書のような本が新書大賞を受賞するとは、最近の新書読者はライトな新書よりも、ガチ読みが必要な新書を好むんだろうかと思ったためでした。空き時間はスマホをいじってて本を読むことのない現代人の中にあり、あえて本を読もうなんて人は読書ガチ勢なんだろうな〜って。


 つぎは肩の凝らない本を読むぞー。

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