第94話 選挙の季節が終わる

 8月にこのエッセイで選挙の季節というエピソードを書きました(第72話)。今年の秋は選挙の季節ですね……という政治ネタだったのですが、その政治の季節もアメリカの大統領選挙が終わってひと区切りついたので、今年の選挙の季節を振りかえってこのエッセイでもひと区切りつけたいと思います。(え、興味ない? そんなこと言わず)


 8月のエッセイで取り上げた立憲民主党と自民党の党首選挙ですが、立憲は野田佳彦さん、自民は石破茂さんがそれぞれ当選しました。立憲はともかく自民の総裁選挙は盛り上がりましたね。最初は小泉さんかと思ったのですが失速。第一回投票では、高市さんがトップで2位の石破さんと決戦投票となった結果、逆転で石破さんが自民党の総裁に選ばれました。


 余勢を駆ってかどうか分かりませんが、石破さんは早期の衆院解散を選択し、総選挙に打って出ました。結果はご存じの通り、与党は過半数割れを起こして敗北。石破さんは賭けに負けた形になりました。 臨時国会ではなんとか総理大臣に選出されましたが、今後の政権運営は前途多難といったところでしょうか。


 一方、海の向こうのアメリカでは大統領選挙が行われ、前大統領で共和党の大統領候補だったトランプさんが、現副大統領で民主党の大統領候補だったハリスさんを破って、次期大統領の座を射止めました。


 わたしはトランプさんがはじめて大統領に選ばれたときからずっと、「アメリカ人はなんでこんなヤツを選ぶんだろう」と不思議で仕方がなかったのですが、8年間を経てようやく現実が飲み込めたような気がします。


 3年前に評判となった『実力も運のうち 能力主義は正義か?』は、能力主義メリトクラシーがアメリカの分断を生んでいると、行き過ぎた能力主義を批判する本ですが、この中で元々は労働者、中産階級の党だった民主党が、能力主義を絶対視するあまりインテリ(すなわち貧乏人を見下すお金持ち)の党に変質していったと書かれています。今回の大統領選挙の結果をみて「なるほど」と感じました。


 今回の大統領選挙では、従来は民主党の支持基盤と思われていた、労働者やヒスパニックの少なくない人々が、民主党のハリスさんではなく、共和党のトランプさんに投票したらしいのです。これは「民主党に裏切られた」「民主党はおれたちの党ではない(候補者はインテリで金持ちじゃないか!)」と彼らが思っているということの現れではないでしょうか。


 もちろんトランプさんも大金持ちです。でも、彼はハリスさんと違って労働者やヒスパニックでも分かりやすい英語で話しかけてくれる上に、親しみやすいキャラクターの持ち主です。不道徳で過激な発言もありますが、ぶっちゃけ飲み屋やパーティで仲間が集まると、有権者自身がそういう話題をそういう言葉でやりとりしているのです。「トランプさんはインテリ政治家とちがって裏表のない人だ」「おれたち同じ感覚をもつ、おれたちの大統領候補だ」と労働者やヒスパニックの人たちは感じたんでしょう。


 主義主張や政策ではなく人柄で投票する政治家を選ぶって、十分あり得る選択肢ですもんね。物価高騰に賃金上昇が追い付かず、背に腹は代えられない、経済優先だというトランプさんに投票すれば生活が楽になるかもしれないという、切実な事情もあったでしょう。


 ま、決まったことは仕方がない。トランプさんには剛腕を発揮してもらってこの世界をいい方向へ変えてもらいたいですね。でも、アメリカ・ファーストなんだよな。先が読めないよ。

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