第91話 中二病とは何か

 タイトルを見て、いきなりなんなのと思われた方もいると思いますが、今回は「中二病」について書きたいと思います。


 前回のエッセイで「ウイングマン」ついて書いた際、かしこまりこさんからこんなコメントをいただきました。


>四十年前の漫画をドラマにするって、すごいですね。

>原作のすばらしさと制作側の熱意あってこその実現だったのかなと想像しています。


 コメントありがとうございます!

 でも、わたしは考えました。仮に原作が素晴らしいとして、40年前の漫画をいまドラマ化してテレビ局に勝算はあるのか? いまドラマ化する意味はなんだろうと。


 で、思いついたのが中二病というワードでした。中二病というのは主に2000年代から使われるようになったネットスラングで、Wikipediaでは――


>中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。

>転じて、などを揶揄したネットスラング。


と説明されています。でも、よくわかんないですよね。


 ただ、ここに『中二病とは何か』という命題があるとすれば、その回答として『「ウイングマン」を読め。そこに答えが描いてある』と言ってほぼ間違いないとわたしは思うんですよ。



 ウイングマンの主人公・広野健太は、特撮ヒーローオタクの中学生で(ドラマ版では高校生ですが)、「中学生にもなってヒーローになりたいなんて、おかしいのかな。みんなと同じようにちゃんと中学生しないといけないのかな」と感じつつ、日々自作のオリジナルヒーロー、ウイングマンのコスプレをしては、正義のヒーローになりきって楽しんでいる(周囲からは変人扱いされている)。そんなキャラクターです。


 自己愛に満ちた空想に浸りつつ、こんなことでいいのかしら、もっと大人にならないといけないのではないかと、気持ちが揺れているところが、非常に中二的だと思います。


 そんなある日の下校中、突然健太の目の前に美少女(アオイ)が降ってきて物語が動きはじめます。こう書くと「女の子が降ってくるなんて、ラピュタかよ」とつっこみたくなりますが、こちらの方が3年ほど先行しているので、むしろラピュタの方がウイングマンをパクっている(!)のかもしれません。また、ラピュタと違って、アオイが無意味に肌を露出させたビキニ姿であるという煩悩中学生の欲望にコミットした形で物語は進みます。


 その後、アオイが持っていたそこに書いたことが現実になる「ドリムノート」に健太がウイングマンを落書きしてしまったことで、健太はウイングマンに変身する能力を手に入れ、悪人に追われてポドリムスという別次元から三次元へ逃げ出してきたアオイとドリムノートを守って戦う――健太は念願だった本物のヒーローになったのです。。。


 書いたことが現実になるノートって、そんな都合のいいアイテムってある? だから、そこが中二的なんですよ(笑)


 さらに「ウイングマン」の中二展開は続きます。異次元人のアオイは行くあてがないので、健太の家に同居することになります。ビキニ美少女と同居かあ、うる星やつらにもあるラブコメ展開ですよね。その後、「ウイングマン」の物語では健太の周囲につぎつぎと美少女が集まってきて、健太を中心としたハーレムが形成されていきます。読者である中学生の欲望と作者である桂正和さんの嗜好が見事に一致して、特撮ヒーロー漫画だったはずが、美少女ハーレム漫画へ変貌していくのです。


 個人的にはこの物語の変節(というか男子の欲望に忠実な展開)についていけなくなって、単行本10巻でわたしは読めなくなってしまったのですが、たしかに桂正和さんの描く女の子は抜群に可愛かった。中学生の煩悩が暴走するのも分かります(笑)



 とりとめがなくなってきましたが、「ウイングマン」って要約すると分かるように、いまラノベで受けている異世界(へ行くわけではなく、美少女や敵が異世界からやってくるのですが)やチートアイテム(夢が叶うドリムノート)、ハーレム(ラブコメ的展開を含む)……などなど中二病要素がてんこ盛りなのです。


 出版不況の中でもラノベが売れ続けているのは、読者の中二病的資質のおかげだと私は思っています。40年前の漫画ですが、これだけの中二病要素が詰まっているのだから、リメイクの仕方によればウケる可能性は十分にある――とテレビ局は考えたんじゃないでしょうか。


 出版業界、テレビドラマ……いまは中二病の読者や視聴者、それと作り手によって支えられているのかもしれません。

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