第64話 映像の力

 まだわたしが子どもだった頃、小学校に視聴覚教室というものができました。小学生のわたしには「シチョーカク教室」と聞こえ、なんのための教室なのかさっぱり分かりませんでした。


 その教室にはテレビが置かれていました。「学校でテレビを見ることができるのか」とうれしくなってスイッチを入れましたが、NHK総合と教育テレビしか受信するこどができません。


 いまと違い、当時のNHKはお堅い一方の放送局で、放送している番組はつまらないものばかりです。


「なんだこれ、つまんねーの」


 結局、テレビをつけたのは、このときが最初で最後でしたし、授業で視聴覚教室が使われることは一度もありませんでした。


 視聴覚教室というものがあることから分かるように、映像による学習効果は高いということはずっと以前から分かっていたようです。


 ただ、個人個人の能力や学力に応じた映像資料があるとして、どうやってその映像を必要とする人に届けるか、教室での講義型授業では適切に届けるのが難しい――ことから視聴覚教育は絵に描いた餅のような存在となっていたと思います。だって、視聴覚教室を有効に使った授業って受けたことないですもん。



 それがYouTubeの登場によって一変しました。最初の頃のYouTube動画は、毒にも薬にもならないエンタメ系動画ばかりでしたが、投稿動画文化が成熟するにしたがって、教育効果の高い動画が増えてきました。


 これを教育的と捉えるかどうかは人それぞれと思いますが、わたしが感心するのは「スポーツ指南」についての動画です。以前も書いたと思いますが、わたしはいまになって剣道の練習を再開しており、これを技術面から後押ししているのが剣道を指南してくれるYouTube動画です。


 中高生向けに、これを見れば剣道が上達しますと、剣道経験のあるユーチューバーがいろいろと動画をアップロードしているのですが、これがほんとうに役に立つ。


 スポーツの指導者は皆そうですが、一度教えたことをその後何度も何度も繰り返し教えるなんてことはしないものです。そのほか、面の打ち方、小手の打ち方、胴の打ち方……基本的なことは教えても、試合で一本にするための工夫なんてものは人それぞれなので教えないんです。


 教えなくても何度も何度も試行錯誤しながら自分なりの工夫を加えていく、センスと努力を兼ね備えた人だけが剣道に上達していくもの――だったのですが、これがYouTubeでまったく変わりました。


 YouTubeは、人間の指導者とちがって何度再生しても疲れないし、飽きません。ひとりだと思いつかないようなフェイントや連続技の秘密を惜しげもなく披露してくれます。


 わたしのような下手くそにとって素晴らしい教材です。若い頃はぜんぜん分からなかった上手く打つ秘密が、YouTubeによってつぎつぎと明らかになってゆくのは、ほんとに目からウロコが剥がれ落ちて視界がクリアになるように心待ちです。


 ――いまおれがやってるやつこそ視聴覚教育だな。


と感心しきりです。



 こんなに役にたつYouTube動画ですが、いまだに執筆の役にたつ動画には出会わないですね。なかにはあるんですよ、小説の書き方講座的な動画も。いくつも見ましたし、見るとモチベーションが上がるものもあるのですが、どれもこれもわたしの筆力は上げてくれないんですよね……。


 剣道動画で上手くなっている実感があるだけに、小説動画で筆力が上がらないことが歯がゆいです〜。

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