第52話 さみしい夜にはペンを持て

 むかし、大学の「青年心理」に関する授業のなかで、青年期に差し掛かった人の特徴のひとつとして日記を書きはじめると教わった際、わたし自身が高校生のとき、それまでまったく興味のなかった日記をつけはじめた経験を言い当てられたような気がして、びっくりしたことがありました。


 なぜ若者は日記をつけ始めるのか、授業のなかで先生が説明してくれたはずですが、その箇所はまったく覚えておらず、自分で自分のことを変わり者だと思っていたわたし自身が意外によくいる若者のひとりだということに感銘を受けたことばかりよく覚えているのでした。


 なぜ人は日記を書くんでしょうねえ。


 先日読んだ『さみしい夜にはペンを持て』(古賀史健 ポプラ社)は、中学生を主な読者と想定して書かれた、日記を書くことを勧める本です。タイトルはそれこそ厨二的ですが、ブックカバーのイラストや文中の挿絵、デザインが凝っていて素晴らしいです。この本作るのは大変だったのではないかと想像します。1650円しますが納得のお値段です。普段、本の作りに関して褒めることをしない藤光が褒めているのですから間違いありません。


 本の内容は物語(ファンタジー)になっていて、海のなかの中学校に通うタコの男の子が主人公です。地味で同級生のサカナたちからいじめられて自分のことを否定しがちな主人公が、日記をつけるということを通して、いままでよく見えていなかった自分と周囲の同級生たちの関係を見つめ直す――自分のことを受け入れていいんじゃないかと考えるようになる、そんなお話です。


「文章の書き方の本なのかな」「カクヨムで小説を書くときのためになるかな」と思って手にとったのですが、少し違いました。


 児童書だし、取り上げられているテーマがいじめからの自己肯定感の回復なので、説教くさいところがあるのは仕方ありません。ただ、書いてあることの多くは言葉に対する向き合い方と、自分の感情を文章にすることの勧めなので、カクヨムで日記やエッセイを書く人なら一読の価値はあるとオススメしたいです。


 この本を読んで藤光のエッセイもちょっと良くなったと思いませんか。え、そうは思いません? ……ですよね、何年も書いてきていまさら変わったりしませんよね(笑笑

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