第47話 修学旅行

 息子が修学旅行に出かけるので、奥さんが朝からバタバタしていました。ママ友さんたちとうち揃って、子どもたちを集合場所である新幹線の駅まで送っていくそうです。修学旅行の行き先は広島だそうです。


 広島……遠いです。遠いからこそわざわざ修学旅行先に選ばれるのかもしれませんが。なかなか足を伸ばせる場所ではありません。藤光は兵庫県民なのですが、大阪、京都、名古屋といった大都市の方が広島よりずっと近いので、そちらの方にばかり足が向きます。きっと関西人あるあるだと思います。


 さて、広島といえば、なにを思い浮かべますか。広島焼き? 広島カープ? 被爆地ヒロシマ? 修学旅行では原爆ドームや平和記念公園にも行くらしいですから、やっぱりヒロシマですかね。


 修学旅行先が広島なので、息子に読んでもらおうかなと本棚から、こうの史代さん『この世界の片隅に』を引っ張り出してきたのですが、絵柄はかわいいもののこのマンガ、小学生向けじゃないよなあと思って、強く勧められませんでした。ま、息子に興味があれば勧めなくても読むだろう。


『この世界の片隅に』は、主に広島から少し離れたよくれでの出来事が描かれています。戦前から軍港の街として有名で、わたしの亡くなった祖父は海軍に召集された際、この港を取り囲む高射砲陣地にいたと言っていました。


『この世界の片隅に』の中に呉の街が空襲に遭う描写がありますが、当時海軍の高射砲はアメリカ軍のB29が飛ぶ高度まで、を打ち上げられなかった――とこれは、戦中派だった小学校の先生から聞いた話。うちのじいちゃんも「これじゃ敵うわけないよ」と感じたに違いありません。


 その頃、祖父が着ていたであろう海軍の制服を祖母が大事に保管していたので見せてもらったことがあります。海軍なので水兵の制服はセーラー服です。ミリタリー系の雑誌で階級章を調べると「一等水兵」。朝ドラ『虎に翼』でもありましたが、祖父も召集令状あかがみで召集され、兵隊として働いていたのでしょう。祖父は帰ってこれて、おかげでわたしも生まれてこれたのですが。


 わたしの広島・呉との関わりはこの程度ですが、そこにも戦争の影は落ちているわけで。でも、息子はそんなこととは知らず、いまごろ厳島神社を詣でた後に、お土産にもみじ饅頭でも買っているのでしょう。知らないならずっと知らなくていいのかもなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る